「おじさんは来るなと?」松のや“ママ応援企画”に批判殺到→謝罪…キャンペーンは「男女差別」だったのか【弁護士解説】
7月下旬、とんかつチェーン「松のや」が、15歳以下の子どもと母親を対象にした「ママ応援企画」を公式Xで発表。同投稿には「パパ応援企画も考え中です」との記載もあったが、「性差別」などの批判が殺到し、謝罪に追い込まれる事態となった。
松のやは謝罪の翌日、企画内容を「夏休み企画」へと変更し、誰でもクーポンを利用できるようにしたと説明。ただし、この企画のために準備していた材料には限りがあるため、終了時期がかなり早まる見込みであるとしている。
一連の騒動には、松のやに同情的な意見も見られたが、多くは「おじさんは来るなと?」「男性差別企画やめてくれよ 日本支えてるのはおっさんだぞ」「お父さんだって頑張ってるやろがなんで使えないんだ」「日々暑い中外回り営業している僕は使えないのか。」「このご時世に子育てしてるのがママだけという認識なのかなりヤバいですよ」「『ご飯の準備はママがするもの』って設定はかなり炎上しやすいネタですよね…」など批判的なものだった。
果たして、企業が特定の性別などを対象としたキャンペーンを展開することは、法的にどこからが「不当な差別」にあたるのか。企業法務に詳しい杉山大介弁護士に聞いた。
法律上は「差異を設けること自体がダメ」ではないが…杉山弁護士は、「今回は法律が直接出てくる話ではあまりない」としつつも、理論上の法的リスクについて次のように指摘する。
「仮に当初のままキャンペーンが実施されたことで、子どもがいて食事も作っているのに適用を受けられなかった父親が損害賠償請求をしたとすれば、減額を受けられなかった差額分と、わずかながらの慰謝料請求が認められる可能性が十分にあります」
杉山弁護士によれば、そもそも法律は「差異を設けること自体をダメだと言っているわけではない」という。重要なのは、その差異(区別)を設けることに「合理的な理由」があるかどうかだ。
今回のキャンペーンにおいて、性別で差異を設ける根拠を求めると、どうしても「女性しか食事を作らない」という偏ったジェンダーロール(性別による役割分担)を前提にせざるを得ない。杉山弁護士は「そこに差別性があるのは否めない。だから(法的な観点からも)ダメな差別だと思う」と、その設定の危うさを指摘した。
「子連れ割引」なら問題にならなかった?一方で、飲食店において「お子さま割引」などが設定されていることは一般的だ。これらと今回の企画は何が違うのか。
杉山弁護士は、「そもそも国自体が、子どもがいる世帯は費用負担がより多くかかるから手当を出す、といったことを行っている」と例を挙げる。つまり、他の世帯と比較しての出費の多さなど客観的な基準をもとにした区別であれば、説明がつきやすいのだ。
また、企業側の論理としても「子連れで来店してくれたことで1グループあたりの客単価が上がり、その分割引きする余裕ができた」といった合理的な説明が可能になる。そのため、「松のやも単に『子連れ』を対象とした割引であれば、法的には何も問題にならなかっただろう」というのが杉山弁護士の見解だ。
批判の声がキャンペーンを変えることは「法的に何の問題もない」今回の騒動については「行き過ぎたキャンセルカルチャー(特定の対象を排斥する動き)」として問題視する見方もある。しかし、杉山弁護士の反応は極めて厳しい。
「なんでもかんでもキャンセルカルチャーと呼ぶのは、表現の作用をナメたものです。表現とは、言葉によって相手の思想や行動に影響を与えるもの。その効果を否定するような甘ったれた思考を、表現の自由は前提にしていません。
表現の自由は、表現を批判されたくない気持ちより、その表現に対してポジティブであれネガティブであれ反応し表現し返す自由の方を、基本的に尊重します。正当な表現による批判によって、商業的なキャンペーンの内容が変わる。これは、法的に何の問題もない表現の自由の成果です」
企業が教訓とすべき「属性評価」の思考法最後に、企業が特定のターゲットを対象にキャンペーンを行う際の教訓として、杉山弁護士は本件を「失敗の典型」と表現した。
「恩恵を受けられない男性側から不満が出るだけでなく、女性側からも『食事を作る人』というジェンダーロールの押し付けに不満が出る。要するにお客さんの属性を雑に評価してしまっているということです」
今回のような事態を避けるために、企業はどのような指針を持つべきか。杉山弁護士は、条件を設ける際の思考法として「その差異(区別)が客観的に見て合理的と言えるかどうか、という考え方が必要かつ有効である」と締めくくった。

