【柏木 理佳】米国では「セルフレジ見直し」が進んでいるのに…万引きが増えても日本のスーパーがやめられない「切実な事情」
人件費削減の切り札として世界中に普及した「セルフレジ」。しかし近年、欧米では万引きや入力ミスによる商品ロス、監視コストの増加が深刻化し、一部の小売チェーンではセルフレジを縮小・撤去する動きもすでに起きている。
一方、日本では万引き被害が増えているにもかかわらず、深刻な人手不足を背景に、コンビニやスーパーマーケットでは、セルフレジの導入が今なお拡大している。それでは、なぜ「盗難リスク」が指摘されながらも、日本ではセルフレジを導入し続けるのだろうか。
セルフレジによる万引き被害が増加中
窃盗は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すると定められている。しかし、このことが周知されておらず、また、意図しないミスによるものもあり見極めが難しい。逆に「ごまかし万引き」も増加している。
全国万引犯罪防止機構「万防時報」25年3月号によると、不明ロス額の被害は8350億円で、そのうち故意に万引きしたと考えられる被害額は3460億円となっている。
また、全国万引犯罪防止機構の調べによると、「セルフレジ導入によって万引き被害が増えた」と答えた店は、25%にものぼる。(加筆しました)
1店舗あたり年100万円もの損額になるが、これはセルフレジ設置やカメラなどのコストより上回る。
しかし、今は、さらなるコストを追加して万引き対策用のカメラの設置を増やすところが増えているが、スーパーで防犯カメラを増やしたとしても、効果はあるのか。万引き犯とのいたちごっこになるだけではないか。万引きを助長するような現状のレジのシステムを、なぜ導入するのか。
全米小売業協会が発表した2022年のアメリカでの小売業界全体における万引きなどによる被害総額は、1120億ドル(約16兆円)にのぼり、カリフォルニア州などの自治体まで動き出した。
人手が不足している警察に代わりスーパーに対して、ごまかして万引きされないように「購入可能商品は10個以下などと個数を制限」「セルフレジ3台につき1人の従業員の配置し監視」などの条例が提出された。
一方、アメリカで最大規模を誇るディスカウント小売チェーン「ダラー・ゼネラル」は、2024年、約1万9700店舗中、約1万2000店舗でセルフレジの廃止または削減を実施した。
日本独自の様々な事情
日本のスーパーでは、なぜすぐ辞められないのか。
セルフレジ販売業者は、10社以上もあり、導入コストは1台100万円〜400万円だが、カスタマイズすると、さらにコストが増える。
リース、サブスクリプションで月払いだと、手数料が増えたり、契約によっては途中解約ができなかったり、1年から数年間の契約の場合もある。これ以外に月々のメンテナンスなどのコストが月に数万円かかる。
このように初期投資や契約のしばりなどから簡単に撤退できないという事情もあるだろう。日本は組織文化も強く、トップの決断に至るには時間もかかる。
消費税1%導入のためシステム改修のため負担が増える中、スーパーの利益率は低く、粗利益は20〜30%である。
しかし、スーパーの場合、パートが7割あまりを占めており、あるスーパーの店長は「パート・アルバイトは1年以内に9割辞める」と話していた。厚労省の産業別離職者数でもスーパーである小売業は社員も含めて最も多く2割近くとなっている。
しかもスーパーの労働分配率は5割近くも占めており、従業員やパートの人件費の負担が他の業界よりも重いといった事情もある。
3〜4時間単位でシフトを組んでいるところが多いが、人手不足の中、セルフレジがあれば、夜の人手が少ない時間帯は最低限のアルバイトで対応できるという利点はあるだろう。また、離職率を下げるためにセルフレジは必須という考えもあるだろう。
大手のスーパーにとってみると、売上高に対する万引き被害額は大した金額ではないのかもしれない。
しかし、万引きやカメラなどの設備投資のコストが増えると、人件費の削減コスト以上になってしまう懸念もある。それでもセルフレジは必要なのか。
後編記事『「セルフレジは便利」のはずだったのに…誰もが感じる「使いづらさ」がなくならないワケ』に続く。

