「このままじゃ破産するぞ」…総額18万円〈地獄の夏休み旅行再来〉に60代年金夫婦、顔面蒼白。「いくら可愛い孫でも無理です」のワケ【FPの助言】
「お父さん、今年もあそこ予約したから!」――娘からの弾んだ電話に、正孝さん夫婦は絶句しました。去年の猛暑の中、旅行代18万円を全額負担した上に熱中症寸前まで孫の世話をさせられた、あの「地獄のグランピング」。喉元過ぎればでうやむやにしていた1年後、再び悪夢が襲いかかります。なぜシニア世代の援助は断れず、膨らみ続けてしまうのか? 老後を守るための見直し方を、FPの三原由紀氏が解説します。
「今年も予約したよ!」娘からの電話に60代年金夫婦、戦慄
「お父さん、今年の夏もあのグランピング予約したから! 子どもたちも『じいじとプール入る』って大張り切りだよ」
本格的な夏を前に、電話口で弾む娘・友美さん(39歳)の声。正孝さん(仮名・69歳)と妻の由紀子さん(仮名・66歳)は言葉を失いました。
2人が思い出したのは、昨年の8月、真夏の太陽が照りつける中で行った千葉のグランピング施設でした。グランピングとは、自然の中でキャンプを楽しみながら、ベッドやエアコン、専用トイレ・浴室などホテル並みの設備で快適に過ごせる宿泊施設です。
当時、孫は5歳と3歳。下の子を連れて遠出ができるようになったため、「夏休みに、子どもと一緒に楽しめるところへ家族みんなで行きたい」と、友美さんから声をかけられたのがきっかけでした。
正孝さんの年金は月19万円、由紀子さんは月6万円、夫婦合わせて月25万円の年金収入のほかに、銀行口座に約1,200万円の貯金がありました。正直なところ贅沢をできるほどの余裕はありません。しかし、娘一家と旅行をするのに、お金を出してもらうことも親として憚られました。
そもそも、友美さんが自分たちに費用を出してもらう前提で声をかけているのは明白です。「サウナも露天風呂も部屋についていて、お父さんたちもゆっくりできると思う」という言葉もあり、娘一家と一緒に夏を楽しむのもいいじゃないかと、2泊3日の家族旅行に行くことになったのです。
しかし、現地で待っていたのは「ゆっくり身体を休める」とは程遠い現実でした。
2泊3日、元気いっぱいの孫との「ハードすぎる夏旅行」
「じいじ、プール入ろう!」
「ばあば、お肉焼けた?」
一人娘しか育てたことのない正孝さん夫婦にとって、男の子2人のパワーは予想以上。真夏日のなか、昼間はプールサイドから片時も目を離せず、日焼け止めを塗り直し、「じいじもきて」とせがまれるたびにプールへ入り、孫を追いかけまわす。夜はBBQの火加減を見ながら、孫の分の肉を先に取り分け、飲み物を注ぎ足します。
「あなた、大丈夫? 顔真っ赤よ」
由紀子さんに言われて初めて、正孝さんは自分がふらついていることに気づきました。水分補給を忘れるほど、孫の世話に追われていたのです。
一方、友美さんと夏休みをとって合流した婿は、サウナと温泉を交代で満喫し、デッキチェアでくつろぐ時間もしっかり確保。つかのまの休息を楽しんでいる様子でした。
帰り際、友美さん夫婦は「お父さんたちのおかげで最高の夏になった! また来年もここにしようね」と満面の笑み。正孝さん夫婦への労いの言葉はないまま、一家は上機嫌で帰っていきました。
「私たち、何しに来たんだっけ……」
車を運転する正孝さんの隣で、由紀子さんがぽつりと呟きます。
家に帰っても、数日間はぐったり。かかった費用は約18万円で、もちろん正孝さん夫婦が全額負担しました。
財布も身体もすり減った旅行から1年後、娘は本当に「またグランピングに行こう」と誘ってきました。友美さん一家はよほど気に入ったのでしょう。しかし、正孝さん夫婦にとっては“地獄の夏旅行再来”でした。
うやむやだった“孫費用”…初めてわかった「想像以上の支出」
「……今年のグランピング、どうする? 体力も厳しいけれど、正直家計も厳しいわよね。確か去年18万円ぐらいかかったのよね。ほかにも、私たちからちょこちょこお金渡してるじゃない?」
溜息をつきながら、そう話す由紀子さん。娘夫婦は、小さな子ども2人を抱えながらの二重生活。「単身赴任はお金がかかる」と常日頃から不満を漏らしていました。それを聞いた正孝さん夫婦は「大変だろうから」と、2年ほど前から毎月2万円を生活費の足しにと渡すようになっていました。
それに加えて、お年玉や誕生日プレゼントなども、しっかりと渡しています。クレジットカードの履歴などを追いかけると、年間5万円ほど。こうしたお祝い事の費用と、仕送りや旅行費を初めて計算してみたところ、意外なほど金額は膨らんでいました。
「去年1年で47万円ちょっとだ。おい、このままじゃ破産しかねないぞ。いくら孫が可愛いっていっても……」
約47万円の支出が仮に10年続けば約470万円という大金になり、貯蓄の3分の1以上を失う計算です。また、折しも今年は、10年以上使っている給湯器の調子が悪く、買い替えを検討していた時期。そのうえ旅行代を出せば、限られた貯蓄が一気に減ってしまいます。
仕送りも、友美さん一家のためを思ってのことでしたが、はたしてこの2万円は本当に生活費として役立っているのか、それとも別の用途に消えているのか――。正直なところ確認したことはありませんでした。
「孫のためなら」に隠れた、祖父母世代の構造的な役割固定
正孝さん夫婦のようなケースは、決して特別ではありません。ハルメクホールディングスの調査によると、シニア女性が孫のために直近1年間で使った金額は平均約18万円で、2025年は「20万円以上」と回答した割合が2023年から5ポイント以上増加しています。しかし正孝さん夫婦の場合、毎月の仕送り(年24万円)と旅行費(18万円)、その他のお祝い事(5万円ほど)を合わせると、年間で約47万円。平均の2.5倍以上にのぼります。
同調査では、孫と直接会う頻度は変わらない一方でそれ以外のコミュニケーションは減少し、支出だけが増えているという実態も明らかになっており、「会える機会が限られるほど、お金や労力で埋め合わせようとする」傾向がうかがえます。
問題は、金額そのものよりも「困っているならなんとかしてあげたい」「大変な思いをしている娘に、これ以上は言えない」という遠慮の積み重ねで、援助が少しずつ膨らんでいく点にあります。子育てや仕事から一線を退いた高齢期において、孫や子ども家族の役に立てることは、「まだ自分は必要とされている」と実感できる、数少ない機会になりがちです。
だからこそ、負担が増えても「そろそろ見直したい」と言い出しにくい。我慢を重ねるうちに負担だけが拡大していく構造に陥ってしまうのです。
孫との時間も、自分たちの老後も、どちらも大切にするために
自分たちがどうしたいかを判断するために、まずは年間の援助額をすべて洗い出してみることが第一歩です。仕送り、旅行費、お祝い事など、バラバラに使っていると全体像が見えなくなりがちですが、一度リストアップするだけで「思ったより多い」と気づけることがあります。
次に、簡単な表でよいので、年金収入と貯蓄、そこから援助や旅行に回している金額、医療費や住まいの修繕費など今後の出費予定を並べた簡易的なキャッシュフロー表を自分たちで作ってみるのもおすすめです。それでも判断が難しい場合や、より正確な見通しを立てたい場合は、ファイナンシャルプランナーに相談し、専門的な視点でキャッシュフロー表を作成してもらうという選択肢もあります。
「孫と会えるのは、せいぜい小学校を卒業するまで」とはよく言われます。しかし同時に、祖父母自身が元気に動ける時間にも限りがあります。厚生労働省の最新の調査(令和4年)によると、日常生活に制限なく過ごせる「健康寿命」は男性でおよそ72歳、女性でおよそ75歳とされています。
69歳の正孝さんにとって、無理なく動ける時間は残り3年ほど。孫と濃く過ごせる時間と、そう変わらないのかもしれません。だからこそ「今年もいつも通り」ではなく、「今、何を一番大事にしたいか」を夫婦で選び取ることが、後悔のない過ごし方につながるのではないでしょうか。
心の中で疑問を感じながら、娘の「予約したよ!」を受け入れる必要はありません。娘側にしてみれば親はいつまでも「頼れる存在」であり、金銭や体力の影響ついて、きちんと理解できていないだけかもしれません。キャンセル料が発生する前に断り、別案を検討する方法もあるでしょう。
孫との時間も、自分たちの老後も、どちらも大切にするために――まずは年間の援助額を書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
三原 由紀
プレ定年専門FP®

