記事のポイント
アメリカンイーグルは、ひとりのセレブに依存せず、スポーツ・モール・大学へ投資を分散する新学期戦略に転換した。
5大学のソロリティや学生クリエイターと連携し、ラッシュトックで若者の認知獲得と購買促進を狙っている。
限定ジーンズや店舗体験、プロサッカー選手ラミン・ヤマルとの5年契約を通じ、話題性をデニム販売と新規顧客獲得につなげる。


この米国新学期シーズン、アパレル小売大手のアメリカンイーグル(American Eagle)は、ソロリティ(女子学生の社交クラブ)のハウスをデニムで埋め尽くしたり、クリエイターたちをショッピングモールへ送り込んだり、実店舗で限定版のジーンズを販売したりするなど、新学期ブームを顧客獲得とデニム販売につなげようと試みている。

昨年の「モノカルチャー」からの戦略転換



同社の2026年の新学期キャンペーンは7月22日にスタートし、約10週間にわたって展開される。ショッピングモールでのイベント、大学キャンパスとの提携、そして大物タレントを組み合わせた内容だ。

タレント陣には、俳優のシドニー・スウィーニー、最近契約したカントリー歌手のエラ・ラングレー、そしてサッカー・ワールドカップ北中米大会を制したばかりのスペイン代表の一員だったサッカー選手のラミン・ヤマルが名を連ねる。

2025年とは異なり、アメリカンイーグルは今シーズンをひとつのマスカルチャー的なキャンペーンを軸に組み立てようとはしていない。

「2025年、アメリカンイーグルはモノカルチャー(単一文化)を生み出すキャンペーンを打ち出した」と、同社最高マーケティング責任者(CMO)のクレイグ・ブロマーズ氏は、シドニー・スウィーニーの広告キャンペーンに触れながら語る。

「今シーズンの準備を進めるにあたって、我々はいつものように、中核であるZ世代とアルファ世代の顧客層の声に徹底的に耳を傾けた。そのなかで強く印象に残ったのは、いまはモノカルチャーの時代ではない、ということだ」。

2025年のキャンペーンは、文化的な注目以上のものをもたらした。アメリカンイーグルによれば、2025年7月のスタートから6週間のあいだに、シドニー・スウィーニーのキャンペーンは全米すべての郡にわたって79万人の新規顧客の獲得に貢献し、SNSのフォロワーを約32万人増やし、デニムの完売と好調な来客をもたらしたという。

当時、ブロマーズ氏はこれを同社史上もっとも費用をかけたキャンペーンだと語っていた。

一方、より長期的な財務面の結果はまちまちだった。2025年第3四半期、AEOは前年同期比6%増となる過去最高の13億6000万ドル(約2040億円)の売上高を計上し、既存店売上高は4%増加した。

ただしアメリカンイーグルブランド単体では既存店売上高の伸びは1%にとどまり、姉妹ブランドのエアリー(Aerie)の11%増とは対照的だった。広告費の増加も、販売費および一般管理費の押し上げ要因となった。

つまりこのキャンペーンは、2026年に向けた手本であると同時に、課題も突きつけている。ひとりのセレブリティを軸にした瞬間的な盛り上がりによって、アメリカンイーグルが多大な認知度と新規顧客の獲得を生み出せることは証明された。

しかし主力である同名ブランドの売上高の伸びが比較的控えめだったことで、同社は2026年のより幅広いクリエイター・店舗・大学提携のネットワークを、これまで以上に直接的に購買へと結びつけなければならないというプレッシャーにさらされている。

スポーツ・モール・キャンパスの3領域へ



2026年、アメリカンイーグルは、若者文化を形づくっていると同社が考える3つの領域、すなわちスポーツ、ショッピングモール、そして大学キャンパスに投資を分散させている。

社内ではこの手法を「トップダウン・ボトムアップのクリエイター戦略」と呼んでいる。スウィーニー、ラングレー、ヤマルが幅広い認知度をもたらす一方で、よりマイクロクリエイターたちには、購買のより近いところで買い物客に影響を与える役割が期待されている。

「文化を定義づけるような大物2〜3人と組むことは、いまも我々にとって重要だと考えている。そのうえで、この絶対に勝たなければならない期間に、我々のブランドと製品を代弁してくれる何千、何万もの生身の人々もいるのだ」とブロマーズ氏は語る。

最大の柱「ラッシュトック」で5大学と連携



その戦略の中でもっとも発展した部分は、アメリカンイーグルのラッシュトック(RushTok)への進出だ。ラッシュトックとは、全米のソロリティの新人勧誘(ラッシュ)を取り巻くソーシャルメディアのエコシステムを指す。

8月から、同社はフロリダ大学、アラバマ大学、アリゾナ州立大学のグループを含む5つのソロリティ・チャプター(支部)と協業する。

このプログラムには、チャプターハウスのジャック、商品の展示、プレゼント企画、イベント、そしてラッシュ関連コンテンツの背景として作り替えられた部屋などが含まれる。またアメリカンイーグルは、すでにオンラインでフォロワーを築いている個々のチャプターメンバーとも、別途個別に契約を結ぶ。

アメリカンイーグルは25人以上のクリエイターとともにこのプログラムを立ち上げる見込みで、学年を通じてさらに参加者が加わる予定だ。

すでに確定しているクリエイターには、フロリダ大学の学生エイブリー・キャサリン・ウッド(インスタグラムのフォロワー49万8000人、TikTokのフォロワー200万人)、オハイオ州立大学の学生ナエル・エヴァ(インスタグラム2000人)、フロリダ大学の学生オリビア・カオ(インスタグラム3500人、TikTok2万4000人)、アラバマ大学の学生ヘイリー・パケット(インスタグラム5200人、TikTok7000人)、アリゾナ州立大学の学生イザベル・ブルック(インスタグラム9900人、TikTok1万8500人)が名を連ねる。

これらのクリエイターはいずれも、より幅広いチャプタープログラムを通じて参加すると同時に、個別にも契約を結んでいる。同社によれば、その契約は有料コンテンツ、アフィリエイト活動、イベント出演、製品のギフティングを組み合わせたものだという。

パートナーとなるクリエイターとチャプターはそれぞれ、インスタグラムとTikTokで4〜10本のコンテンツを制作することが見込まれている。アメリカンイーグルは契約の金銭的な条件については明らかにしなかった。

「ラッシュトックは、勧誘を経験する女子学生たちにとっても、チャプター自身にとっても、商業的なチャンスになっている。これはれっきとしたビジネスパートナーシップだ」とブロマーズ氏は語る。

同社は事実上、大学スポーツにおける名前、肖像、肖像権(NIL)マーケティングの要素を、ギリシャ文字社交クラブ(ソロリティやフラタニティなどのいわゆる「グリーク・ライフ」)向けに応用している。提携するソロリティのハウスを、勧誘期間中にアメリカンイーグルのコンテンツを何十本も生み出せるローカルなクリエイターネットワークへと変えているのだ。

ラッシュトックの商業的な可能性は、すでにほかのブランドが実証している。ジュエリーブランドのケンドラ・スコット(Kendra Scott)は、同社のエリサ(Elisa)というペンダントが2023年に勧誘用のコーディネート動画で繰り返し取り上げられ、その自然発生的な露出を足がかりに、複数の大学を回るポップアップツアーを展開した。

同社のエージェンシーであるジャニュアリー・デジタル(January Digital)によれば、ケンドラ・スコットはその後、8月のラッシュ期間中に前年同期比で2桁の成長を記録しているという。

一方、飲料ブランドのポピー(Poppi)はソロリティのビッドデー(入会が決まる日)のイベントに協賛しており、スキムズ(Skims)、メイベリン(Maybelline)、ラブシャックファンシー(LoveShackFancy)、プリンセス・ポリー(Princess Polly)といったブランドも、ラッシュトックのオーディエンスに向けた製品やギフティングプログラム、勧誘に特化したセレクトを開発している。

ショッピングモール回帰とヤマルとの5年契約



アメリカンイーグルのソロリティとの提携は、勧誘期間中に学生同士(ピアツーピア)の認知を高めることを狙いとしている。一方、それとは別に展開されるショッピングモールでの一連の施策は、より幅広い関心を店舗への来店とデニムの販売につなげようとするものだ。

7月、8月、9月を通じて、アメリカンイーグルは69.95〜89.95ドル(約1万490〜1万3490円)の限定版ローライズジーンズを全店舗で発売する。さらにアベンチュラ・モール、ルーズベルト・フィールド、スコッツデール・ファッション・スクエアなどの一部の店舗では、クリエイターの出演、スタイリングセッション、カスタマイズ、プレゼント企画、その土地に合わせた商品などを目玉とするリアルイベントも開催される。

これは、小売業者が需要の切迫感を作り出すためにしばしば用いる、デジタル優先のモデルからの脱却でもある。

「これまでなら、限定コレクションをeコマースやアプリ内で発売して、クリックを促す、というやり方をすることもあった。しかし、いま我々は、若者たちがショッピングモールへと大挙して戻ってきている様子を目の当たりにしている」とブロマーズ氏は語る。

ただし、彼らがわざわざ足を運ぶとき、求めているのは単なる商品だけではない。

「わざわざ時間とお金をかけて車に乗り込み、とても高いガソリンを満タンにし、駐車場代を払ってショッピングモールへ行くのなら、それは単なる買い物のためではない、という声を我々は聞いている」とブロマーズ氏は語る。

「(我々の買い物客は)体験を求めているのだ」。

アメリカンイーグルの新学期に向けたそのほかの取り組みには、2000年代初頭のショッピングモールへのノスタルジーをテーマにしたソーシャルシリーズ「モール・ダイアリーズ(Mall Diaries)」や、買い物客にデニムの試着と店頭でのプレゼント企画への応募を促す8月のプロモーション「ジーンズ・フォー・ライフ(Jeans for Life)」などがある。

さらに同社は、ヤマルとの提携を活用して、デニム事業をグローバルなスポーツ文化と結びつけようとしている。アメリカンイーグルは、ブロマーズ氏が2025年9月にヤマルと会ったあと、このサッカー選手と同社初の5年間のアンバサダー契約を結んだ。

その後、同社はソーシャルチャンネルの名称を一時的に「ラミンズ・イーグルス(Lamine's Eagles)」に変更し、もっとも売れている定番シルエットを、ヤマルの背番号と年齢にちなんで「The AE 19」と改名した。

「これは大きな賭けだ。5年間のパートナーシップであり、我々がこれまで一度もやったことのないものだ」とブロマーズ氏は語る。

9月3日には、ヤマルとアメリカンイーグルが共同開発した製品コレクションを発売する。

「これからの数週間は、我々にとってブラックフライデーの年末商戦の時期に匹敵するほど重要だ。この勢いを持続させるために、ありとあらゆるものを注ぎ込んでいる」とブロマーズ氏は語る。

アメリカンイーグルは、ジーンズの市場シェアの拡大、新規顧客の獲得、そして店舗とeコマースにわたる来客数を基準に、このキャンペーンを評価する方針だ。

同社は、現在15〜25歳のアメリカの消費者のあいだでジーンズブランドとして第1位だとしているが、そのシェアの割合は公表していない。ブロマーズ氏は、具体的な数値目標を示すことや、今回の投資額が2025年と比べてどうかを語ることは控えた。

「我々には、これらの施策や提携のどれが事業の成果を生み出しているのかを把握できる、かなり高度で現代的なマーケティング測定ツールがある」と同氏は語った。

[原文:American Eagle is turning RushTok and malls into its back-to-school sales engine]

Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)