2026年6月29日、中国商務省は新たな輸出規制リストを公表した。そこには日本企業・団体20社が対象に加わっている。政治・外交ジャーナリストの増田剛さんは「日本企業の品質と生産能力が、いまや世界の安全保障を支える戦略資産になっている」という――。
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「世界人工知能大会」の開幕式に臨む中国の習近平国家主席=2026年7月17日、中国上海市 - 写真=共同通信社

■世界に響き渡る「三菱」ブランド

いま、世界の地政学・地経学の最前線で、日本の伝統的な巨大資本「三菱」の名がこれまでにない重みを持って響き渡っている。

その影響力から、覇権主義を強める中国の習近平政権から「狙い撃ち」にされ、サプライチェーンを人質に取られた猛烈な経済的威圧に直面している。その一方で、ロシアの侵略に抗うウクライナのゼレンスキー大統領からは、「極めて高い水準にある」と、その軍需生産能力を絶賛され、国家の命運を託すパートナーとして熱烈なラブコールを送られているのだ。

かつて「お荷物」とさえ揶揄された日本の防衛産業は、なぜこれほどまでに、世界の政治・軍事指導者から注目を集めるに至ったのか。中国が恐れ、ウクライナが熱望する「三菱ブランド」の正体と、日本企業が直面する新たな地経学的リスクの深層を、2026年現在の緊迫した国際情勢から読み解く。

■すべての発端は、高市首相の国会答弁

中国がここまで露骨な対日圧力に踏み切った理由は、一つの国会答弁にさかのぼる。2025年11月、高市早苗首相は予算委員会で、台湾有事は『存立危機事態』になり得るという見解を示した。中国側はこれに猛反発し、答弁の撤回を要求。

しかし日本側がこれに応じなかったことから、中国は翌2026年1月、日本向けの軍民両用品に対する輸出規制の強化に着手した。以降、2月、6月と、規制は段階的にエスカレートを続けてきた。

中国側がこの経済的圧力を正当化する際に持ち出すのが、「日本は新型の軍国主義に傾いている」という主張だ。6月29日に発表された商務省報道官の談話でも、日本の姿勢を批判しつつ、規制の継続を強く示唆する内容が示された。

背景には、5月にフィリピンで実施された米比合同軍事演習で自衛隊が地対艦誘導弾を発射したことや、米軍が中距離ミサイルシステム「タイフォン」を日本国内に持ち込んだことへの、中国側の強い警戒感があるとみられる。

中国は国連の場や各国との二国間協議でも、日本を念頭に置いた軍国主義批判を繰り返し、自らの経済制裁を「地域の平和を守るための正当な対抗措置」として位置づけようとしている。

こうした政治的な緊張を背景に、2026年6月29日、中国商務省は新たな輸出規制リストを公表した。対象に加わったのは日本企業・団体20社。軍事転用も可能な「軍民両用品(デュアルユース)」について、事実上の禁輸措置に踏み切った。

■最も中国に狙われているのが「三菱電機」

すでに今年2月に第1弾の規制を発動しており、今回はその「第2弾」。両者を合わせると、規制対象は40の企業・団体にまで膨れ上がった。

規制品目にはレアアース(希土類)をはじめとする重要鉱物資源も含まれる。影響が及ぶのは防衛関連にとどまらない。製造業全体のサプライチェーンが揺さぶられかねない、という懸念が広がっている。

外交上の対立を経済の土俵に持ち込み、市場シェアを握る輸出品目を圧力の道具として使う――そうした中国の強硬姿勢が最も色濃く表れている先が、日本を代表する総合電機メーカー・三菱電機だ。

今回の措置は単発の嫌がらせではなく、周到に設計された「経済の武器化」と呼べるものだ。規制は大きく分けて、事実上の禁輸にあたる「輸出規制管理リスト」と、審査を厳格化する「監視リスト」の二本立てになっている。

筆者作成

前者では、中国企業からの直接輸出だけでなく、第三国を経由した迂回供給や、既存契約の継続すら認めないという徹底ぶりだ。今回追加された20社・団体には防衛省系の研究機関も含まれ、官から民まで防衛関連のサプライチェーンをまるごと断とうとする狙いがうかがえる。

一方の監視リストには、三井E&S(旧三井造船)やテラドローン、日本原燃、OKIなど20社が新たに加わった(2月のSUBARUなどに続く第2弾)。対象企業への軍民両用品の輸出には、軍事転用しない旨の誓約書提出などが求められ、取引そのものを煩雑にして萎縮させる効果を狙っているとみられる。

■最新の戦闘機に使われる高度な技術

この推移を見ると、中国の狙いの変化がよくわかる。2月の第1弾では三菱重工やIHI、川崎重工といった大型のプライムコントラクター(主契約企業)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)が標的となった。今回の第2弾は、そうした重工業を電子面で支える三菱電機系企業や防衛省の研究機関へと照準を移した形だ。

今回のリストで際立つのが、三菱電機グループへの集中的な指定だ。防衛・宇宙・システム分野を担う中核子会社――「三菱電機ディフェンス&スペーステクノロジーズ」「三菱電機ソフトウェア」「三菱電機エンジニアリング」――が軒並みリストアップされた。

理由は単純で、近年の日本の防衛装備品開発において三菱電機の存在感が急速に高まっているからだ。象徴的なのが、日本が英伊と共同開発中の次期戦闘機「F3」である。三菱電機はここで「ミッションアビオニクス」――電子機器やレーダー、センサー群を束ねる中枢システムを担当する。

いわば戦闘機の神経系にあたる部分で、現代の空中戦は機体の運動性能よりも、こうした電子戦・情報処理の能力が勝敗を分けるとされる。

加えて三菱電機は、空対空ミサイル「AMRAAM」の日米共同生産にも加わっており、日本の航空防衛力を支える存在だ。こうした電子機器の製造には、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアースが欠かせない。中国はこの供給網を握ることで、日本の装備開発そのものに影響を及ぼそうとしているとみられる。

MBDA MeteorとAIM-120 AMRAAMミサイル(写真=Boevaya mashina/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■生き残るために日本企業ができること

このあおりを最も受けるのは現場の企業だ。「軍民両用」の線引きはあいまいで、中国側の裁量次第でいかようにも拡大解釈されうる。民生用途のはずの取引にまで支障が出ているとの声も出ている。

象徴的なのが、5月に表面化した富士電機グループ社員の拘束事案だ。レアアース加工品の輸出をめぐって密輸容疑をかけられ、企業の駐在員が常に摘発リスクと隣り合わせに置かれている実態を浮き彫りにした。

経済と安全保障が切り離せなくなった、いわゆる地経学の時代が、実害を伴う段階に入ったと言える。三菱電機は影響調査を進めているとし、三菱重工も現時点で生産への支障はないとコメントするなど、各社は落ち着いた対応を見せている。数年来進めてきた調達先の分散が、一定の緩衝材になっているとの見方もできる。

今後、日本企業が生き残るために実践すべき戦略は以下の3点に集約される。

・調達網の分散:レアアースや電子部品の中国依存を減らし、オーストラリア、東南アジア、北米などの同盟国・同志国との調達網を広げる

・「軍民両用」リスクの点検:防衛と無縁に見える製品でも、中国側の恣意的な解釈によって軍事転用品と見なされるリスクを法務・コンプライアンス面で洗い出す

・駐在員保護の体制整備:富士電機の事案が示すように、拘束リスクを踏まえた安全対策・有事の撤退計画をあらかじめ用意する

■ゼレンスキーが三菱重工を絶賛する背景

中国から強烈な圧力を受ける一方で、ユーラシア大陸の西側からは、熱烈なラブコールが届いている。2026年7月9日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が記者団に対し、日本の三菱重工業の名を挙げて、次のように語ったのだ。

「三菱重工は高い水準での生産を実現している。ぜひ知見を共有したい」

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(写真=President of Ukraine/CC-Zero/Wikimedia Commons)

ゼレンスキー氏が三菱重工にこれほどまでの熱い視線を送る理由は、アメリカ製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」の自国生産をめぐる、劇的な情勢変化にある。

ロシアによる侵略が5年目に入ったウクライナにおいて、弾道ミサイル「イスカンデル」や巡航ミサイル、自爆型無人機による執拗な複合攻撃から、首都キーウなどの都市を守り抜くためには、世界で最も実戦経験のあるパトリオットシステムが不可欠である。

しかし、パトリオットの迎撃ミサイルPAC-3(パックスリー)は、高価で生産に時間がかかる兵器であり、ウクライナへの供給ペースは、常に「戦場の消費ペース」に追いつけない状態が続いている。

また、ウクライナにとって、外部からの兵器支援という「他国頼み」の構造は、支援国の政治情勢や生産余力に自国の防衛が左右されるという、致命的な「軍事的脆弱性」を抱えることになった。

■日本が世界に誇るミサイルづくりの実績

この状況を打破するため、ウクライナは武器の「自給自足」へと舵を切った。戦争を通じて、独自の防衛産業を急速に発展させたのである。すでにドローン分野では、世界トップクラスの生産体制を構築しているウクライナにとって、次なる「悲願」が、防空ミサイルの自国生産なのだ。

そうした中で、降って湧いたのが、アメリカのトランプ大統領による方針転換だった。トランプ氏は7月8日、パトリオットの生産に必要なライセンスをウクライナへ付与し、同国内での生産を容認することを表明。これを受けたゼレンスキー大統領が、即座に「生産の参考とすべき最有力モデル」として名指ししたのが、他ならぬ日本の三菱重工だったのである。

なぜウクライナは、欧米の軍需企業を差し置いて、日本、そして三菱重工に、これほどまでの期待を寄せるのか。その理由は、日本が長年にわたり、静かに培ってきた「ライセンス生産の圧倒的な実績と品質」にある。

日本(航空自衛隊)は1980年代からパトリオットシステムを導入しており、三菱重工を中心とする国内企業がアメリカからの技術供与を受け、発射機やレーダー装置、さらには迎撃ミサイル本体にいたるまで、国内でのライセンス生産体制を数十年にわたって維持・発展させてきた。

世界を見渡しても、パトリオットを単に完成品として「購入」している国は多いが、これほど長期間にわたり自国内で「製造」し、高い品質管理を継続してきた国は極めて稀である。

自衛隊 MIM-104 パトリオット PAC-3(写真=MIKI Yoshihito/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■戦地にとって「至高の教科書」

さらに大きな転機となったのが、2023年12月の日本政府による防衛装備移転三原則の運用指針改正である。これにより、日本国内でライセンス生産したパトリオットミサイル(PAC-3)を、ライセンス元であるアメリカに輸出することが認められた。

三菱重工が製造した高品質なミサイルがアメリカへ還流し、結果として、アメリカが世界(間接的にウクライナを含む)にそれを供給するという、弾薬プール底上げの仕組みがすでに稼働している。つまり、日本は、名実ともに「世界のミサイル防衛サプライチェーンを支える不可欠な一翼」として、世界の軍事関係者に認知されているのだ。

戦時下にあるウクライナの工場は、常にロシアからのミサイル攻撃の脅威にさらされており、生産拠点の分散や地下化、効率的な製造プロセスの維持という極限の課題に直面している。

だからこそ、米国の厳格な軍用規格(ミルスペック)を完璧にクリアし、なおかつ平時の安定した環境で洗練され続けた三菱重工の「生産管理能力」と「品質保証ノウハウ」は、ウクライナにとって極めて価値のある参考モデル、「至高の教科書」となるのだ。

中国からの経済的恫喝と、ウクライナからの技術的羨望。この、一見すると、矛盾する二つの事象は、一つの冷徹な真実を物語っている。それは、企業経営において、「経済と安全保障が完全に融合した地経学時代」がいよいよ本格的な実害と実益を伴うフェーズに突入した、ということだ。

■ウクライナへの直接支援に残る高い壁

ゼレンスキー大統領がいくら熱望しようとも、現行の防衛装備移転三原則の制約や、パトリオットの知的財産権を握るRTX(旧レイセオン)の承認問題があるため、日本からウクライナへの直接的な技術移転や武器供与には、依然として高い政治的・法的なハードルが存在する。

しかし、戦時中の国家の指導者が公の場で「三菱」の名を讃えたという事実は、日本の防衛サプライチェーンの「ブランド価値」を飛躍的に高める結果となった。

このことは、オーストラリアへのもがみ型護衛艦(能力向上型)の受注・輸出契約締結(2026年4月)やフィリピンへの警戒管制レーダーの供与などと並び、「日本製の装備は信頼できる」という強力な地経学的シグナルを世界に発信している。

かつて日本の防衛産業は、「武器輸出三原則」という厳しい制約のもとで、自衛隊のみを顧客とした、ドメスティックな市場に閉じこもることを余儀なくされてきた。そのため、スケールメリットが効かず、防衛事業は、「コストがかかるわりに利益が出ない、割の合わないビジネス」と評されることも多かった。

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■日本の堅実なモノづくりが持つ新たな価値

しかし、時代は変わった。国際情勢の激変に伴い、日本の製造業が実直に守り抜いてきた「高い技術力」「納期を守る堅実さ」「厳格な品質管理」という平時の美徳が、いまや世界の安全保障を左右する戦略的な価値を帯びるに至ったのだ。

習近平政権がヒステリックに三菱電機を狙い撃ちにするのは、日本の防衛産業が形作る次世代の防衛システムが、彼らの野心にとって脅威であることの裏返しだと考えられる。そして、ゼレンスキー大統領が三菱重工を絶賛するのは、その堅牢なモノづくりの力が、専制国家の侵略から人々の命を救う盾になると確信しているからだ。

経済の「武器化」という荒波の中で、日本企業はグローバル戦略の根本的な転換を迫られている。地経学リスクを前提とした冷徹なリスクマネジメントを実践しつつ、世界から求められる自らの「技術の価値」を再定義できるか。「三菱ブランド」に対する各国の政治・軍事指導者の注目は、日本の産業界に新たな覚悟を迫るものでもある。

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増田 剛(ますだ・つよし)
政治・外交ジャーナリスト
一橋大学法学部卒業。NHKで33年間、報道記者として勤務し、この間、政治部記者、ワシントン特派員、解説委員、NHKワールド編集長を歴任。専門分野は、政治・外交・安全保障。記者・解説委員として「おはよう日本」「時論公論」「くらし☆解説」、NHKワールド「NEWSLINE」など出演多数。日本が直面する政策課題をわかりやすく伝えることをライフワークとする。
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(政治・外交ジャーナリスト 増田 剛)