〈習近平に特大ブーメラン〉「中国人客お断り」「中国に好感持てない72%」韓国で噴き出した反中感情…中国人旅行者が直面した「政治的摩擦」の正体

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中国人旅行者が日本から姿を消し、その行き先となった韓国で異変が起きている。「中国人客お断り」を掲げる店が現れ、世論調査では韓国人の72%が「中国に好感を持たない」と回答。日本では薄れた中国人観光客との摩擦が、今度は韓国で噴き出したのだ。習近平政権が日本への団体旅行を細らせたことで生まれた「特大ブーメラン」とは何だったのか。その背景を追う。

【画像】韓国で中国人観光客を待っていた「まさかの事態」

日本を避けた中国人旅行者が、近くて安い韓国へ

日中関係が悪化して中国人の訪日が急減しても、人々は旅行そのものをやめるわけではない。行き先を変えるだけだ。2026年、その受け皿になったのが韓国である。

2026年上半期に韓国を訪れた中国人は321万1791人で、国別首位となった。6月だけでも64万9582人に達し、訪韓外国人の32.6%を占めた。韓国を訪れた外国人の3人に1人が中国人だった計算である。日本を避けた中国人旅行者が、近くて安い韓国へ向かった流れは鮮明だ。

私は今年に入って、イタリア、マルタ、台湾、韓国、シンガポールへ行った。その中で、明確に日本より物価が安いと感じたのは韓国だけだった。海外へ行くたび、円安で円の価値が落ち続けている現実を突きつけられた。

友人から金銭感覚がまるでおかしいと言われる私でさえ、食事、タクシー、ホテル、買い物のたびに「一体いくらかかるんだ」とげんなりすることが何度もあった。日本人として情けない気持ちになったのは事実である。

韓国で昔の「爆買い」がそのまま復活したわけではない

円が弱くなり、日本人が海外で使える金は大きく減った。中国人が物価と距離を見て韓国を選ぶ一方、日本人は近隣国でさえ割高感に苦しむ。この差は重い。

中国人にとって韓国は行きやすい。近い。食事も合う。美容、化粧品、買い物にも強い。日本を避けた後の行き先として韓国を選ぶ気持ちは分かる。

ただし、韓国で昔の「爆買い」がそのまま復活したわけではない。

日本で薄れた摩擦が、韓国で強く表れた

2026年第1四半期の韓国の観光収入は増えたが、外国人1人当たりの支出は2019年を下回った。免税店の客単価も大きく落ちている。

客は戻ったが、団体客が免税店で高級品を大量に買う古い姿は戻っていない。金は皮膚科、薬局、化粧品店、百貨店、飲食店へ流れている。韓国が稼いでいるのは、爆買いより美容と体験への支出である。

ところが、中国人観光客が増えた韓国の街では、歓迎とは正反対の動きが広がった。

The Korea Timesによると、明洞周辺の反中集会は2022年の20件、2023年の15件、2024年の13件から、2025年には65件へ急増した。中国人観光客が最も集まる場所が、そのまま反中運動の舞台になったのである。

私は、中国人観光客が急減した日本の観光地で、混雑と騒がしさが減ったと感じた。韓国では逆のことが起きた。日本から移った人の波が、明洞や聖水洞へ押し寄せた。日本で薄れた摩擦が、韓国で強く表れたのである。

観光客が一気に増えれば、街の歩き方も店の空気も変わる。住民は混雑や騒音を毎日受け止める一方、利益を得るのは一部の店や企業である。

負担する人と稼ぐ人が違えば、不満は国籍へ向かいやすい。そこへ政治が入り込めば、生活上のいら立ちは、たちまち排外運動へ変わる。

明洞で中国語が飛び交い、団体客が通りを埋める

だが、韓国の反中感情を中国人観光客のマナーだけで説明するのは間違いだ。

韓国を代表する全国紙の一つである京郷新聞が紹介した2026年の世論調査では、中国に好感を持つ人は21%、好感を持たない人は72%だった。18歳から29歳では非好感が86%、30代でも81%に達した。

韓国の若者は、中国に強い不信を持っている。これは観光客が増えて突然生まれた感情ではない。背景には、中国の権威主義への反発、THAAD配備をめぐる経済報復の記憶、不動産購入や健康保険をめぐる不公平感がある。

さらに韓国の保守政治と右派YouTubeが、中国による選挙介入説を広げた。観光客のマナー問題は入口にすぎない。火種は韓国社会の中に以前からあった。

中国人観光客の急増は、その火種に顔と場所を与えた。明洞で中国語が飛び交い、団体客が通りを埋める。中国政府や制度への怒りが、目の前の旅行者へ向かう。

中国人観光客が反中感情を作ったのではない。すでにあった反中感情を、街頭へ引きずり出したのである。

その矛先は、普通の旅行者にも向かった。韓国の民間ニュース通信社「Newsis」は、明洞の反中デモを微博で見て、不安を抱えながら韓国へ来た中国人旅行者の声を伝えている。韓国で働く中国人学生は、市民から「なぜ韓国に来たのか」と絡まれたと話した。

ソウルの聖水洞では、「中国人客お断り」を掲げた店が問題になった。財布は歓迎するが、人間は拒む。韓国社会に生まれたのは、このしんどいねじれである。

それでも中国人は韓国へ来る。理由はシンプルだ

中国人旅行者の多くは、韓国政治に関わるために来たのではない。安く買い物をし、美容施術を受け、食事を楽しむために来た。だが街では、中国政府への怒りまで背負わされる。

それでも中国人は韓国へ来る。理由はシンプルだ。近く、安く、美容と買い物に強いからだ。

旅行者は政府の宣伝だけで行き先を決めない。価格、安全、距離、SNSの評判を比べ、自分の利益で動く。そして、私も秋に韓国へまた行こうと思う(笑)。

一方、韓国政治は反中感情を利用する。李在明政権は中国との関係改善を進め、中国人団体客のビザなし入国を実施した。保守野党はこれを「親中」と攻撃し、中国人の不動産購入、健康保険利用、地方選挙権をまとめて争点にした。観光地の不満が、政権攻撃の材料へ変わったのである。

今度は韓国に保護を要求する立場に回った中国政府

中国政府も、韓国の反中デモを極右団体の排外行動だと批判し、韓国政府に中国人の安全を守るよう求めた。日本への旅行を細らせた結果、今度は韓国に保護を要求する立場に回ったのである。

いま韓国で起きているのは、観光客の増加そのものへの反発ではない。中国への不信が、目に見える旅行者へ転嫁されているのである。

ここに中国人観光客へ依存する怖さがある。外交関係が良ければ大量に来る。悪化すれば一斉に消える。戻れば混雑と反発が起きる。受け入れ国の店、雇用、街の空気まで、北京との関係に左右される。

韓国にとっても、観光客が増えれば成功という話ではない。人数だけを追えば、混雑や住民の不満を見落とす。中国人を歓迎しながら反中デモを放置すれば、観光地は稼ぐ場所ではなく争う場所になる。

客を呼ぶ政策と、街の秩序を守る政策は同時に進めなければならない。どちらか片方では必ず破綻する。

日中対立で細った訪日需要は、日本だけの問題で終わらなかった。中国人旅行者は韓国へ移り、韓国社会に積もっていた反中感情とぶつかった。日本から韓国へ移ったのは観光需要だけではない。混雑、反発、政治対立まで一緒に移ったのである。

観光客を外交の道具にすれば、旅先で普通の旅行者として扱われなくなる。

中国は観光客だけではなく、政治的な摩擦まで輸出したのだ

本来、中国人旅行者は高市政権を罰する責任も、中国共産党を代表する責任もない。だが、国家が旅行を制裁に使った瞬間、個人は政治の看板を背負わされる。

中国が輸出したのは観光客だけではない。政治的な摩擦まで輸出したのである。

中国人観光客の争奪は、これからも各国の思惑の中で揺れ続けるだろう。安く近い行き先へと旅行者が流れる構図は変わらない。

だが、その財布を当てにする国は、外交がこじれた瞬間に客が消えるリスクと、戻った瞬間に噴き出す摩擦を、同時に抱え込むことになる。

日本で薄れた喧噪は韓国で濃くなった。次にどこへ移るのかは分からない。確かなのは、国家が旅行者を政治の駒にする限り、割を食うのは看板を背負わされた一人ひとりの旅行者だという事実である。

文/小倉健一