(※写真はイメージです/PIXTA)

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ねんきん定期便、年金請求書、年金振込通知書、公的年金等の源泉徴収票……。65歳が近づくと、年金に関する重要書類が次々と届きます。なかには返送や手続きが必要なものもありますが、つい後回しにして見落としてしまうことも。しかし、必要な手続きをしないままでいると、大きなトラブルにつながりかねません。本記事では、波多FP事務所の波多勇気氏が、田中洋子さん(仮名)の事例から、年金機構から届く「緑色の封筒」の意味と適切な手続きについて解説します。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。

65歳、まさかの年金ゼロで唖然

田中洋子さん(仮名/65歳)は、長く事務職を務めたあと、60歳で定年を迎えました。それからは再雇用で働いていますが、64歳からは「特別支給の老齢厚生年金」を受け取っています。2ヵ月に一度、約14万円が振り込まれていました。

「65歳になれば、少し暮らしが楽になる」

洋子さんはそう理解していました。老齢厚生年金に加え、老齢基礎年金が月額約7万円。2ヵ月分なら合計で28万円ほどになるはずです。

「今月は、少しだけ贅沢してもいいかな」

65歳の誕生月を迎えた洋子さんは、そう思いながらATMで年金用の通帳を記帳しました。しかし、通帳を開いた洋子さんは、思わず手を止めます。入金欄に、年金の振込がありません。印字されていたのは、前回までの残高と、公共料金やカード代金の引き落としだけ。期待していた28万円の入金は、どこにもありませんでした。

銀行の処理が遅れているのかもしれない」と思いましたが、支給日を過ぎて数日経っても、通帳の数字は変わりません。贅沢をするどころか、固定資産税や医療費、夏場の電気代、孫への入学祝いなど、これから出ていくお金が脳内で次々に浮かび、不安が強くなっていきます。

ねんきんダイヤルに電話をかけるも、状況がわからず…

そこで洋子さんはまず、日本年金機構の「ねんきんダイヤル」に電話をかけました。

「振込予定日を過ぎているのに、通帳に入金がないんです」

オペレーターからは、加入記録や請求手続きの状況によって支給が止まっている可能性があること、年金事務所で確認したほうがよいことなど、いくつか説明がありました。ただ、電話越しに聞く「加入記録」「支給停止」「請求手続き」といった言葉が、洋子さんにはどれが自分の状況に当てはまるのか、いまひとつ飲み込めません。

「詳しいことは、年金事務所の窓口でご相談いただいたほうが確実です」

そう案内され、洋子さんはいわれるままに年金事務所の相談予約を取りましたが、不安が拭えず娘に「一緒に行ってくれないか」と相談。すると、娘は言いました。

「年金事務所に行く前に一度、書類を整理してもらったら? お母さん、封筒が多すぎて、どれが大事かわからなくなってるんじゃない?」

「年金のことは、年金事務所に聞くものでしょう」と戸惑った洋子さんでしたが、「もちろんそうだけど、なにを聞けばいいかわからないまま行ったら、またわからないまま帰ってくるかもしれないよ。年金だけじゃなくて、税金とか保険とか、家計のことをまとめて見てもらったほうがいいと思う」という娘の助言に納得し、筆者のもとへ相談に訪れました。

未開封の郵便物に紛れていた「緑色の封筒」

洋子さんから一連の話を聞いた筆者はまず、振込がない原因を探ることにしました。

そもそも、年金の振込額が変わる理由は、下記のようにいくつかあります。

所得税や復興特別所得税、住民税、介護保険料などが差し引かれて手取りが減る場合

・働きながら年金を受け取ることで、老齢厚生年金の一部が支給停止になる場合

加給年金や振替加算など、家族構成に関係する加算が変わる場合

・年金生活者支援給付金の対象から外れる場合

しかし、洋子さんの給与収入は大きく変わっておらず、65歳を機に仕事を増やしたわけではありません。税金や社会保険料の控除だけで、見込んでいた約28万円の振込が丸ごとなくなるとは考えにくい状況でした。

そこで筆者は、“ある可能性”に着目しました。「田中さん、65歳になる前後に、年金機構から年金請求書は届いていませんか」。

洋子さんは頷き、何通もの書類を机の上に広げました。

「すみません。どれが大事なのかわからなくて」

ねんきん定期便、年金振込通知書、年金額改定通知書、公的年金等の源泉徴収票、介護保険料の通知、住民税の通知、固定資産税の納税通知書、医療保険保険証券……。なかには、まだ開封していない封筒も混ざっています。

そのなかに、緑色の封筒が。差出人は日本年金機構で、表面には年金請求書に関する記載があります。

「これも開けていないんですか」「はい。年金受給はもう始まっていたので、ただのお知らせかなと思って」

65歳の切り替え手続きが“未完了”だった

洋子さんが受け取っていたのは、あくまで「特別支給の老齢厚生年金」であり、65歳以降に受け取る年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)とは別物です。特別支給の老齢厚生年金を受けている人が65歳になった場合、新たに年金請求書の提出が必要になります。

封筒を開けると、年金請求書と説明書類が入っており、提出期限はすでに過ぎていました。

「これを出していなかったから、振り込まれなかったんですか」「その可能性が高いです。ただ、最終確認は年金事務所で行いましょう。今日は窓口で聞くことと、持っていく書類を整理しましょう」

そして、年金事務所に確認する項目を3つに絞りました。

1.65歳時の年金請求書は未提出か

2.提出期限を過ぎた場合、どの月分から支給対象になるのか

3.初回振込はいつ頃になる見込みか

これで一つの悩みが解消された洋子さん。しかし机の上に残った書類を見ると、解決すべき問題はそれだけではないことがわかってきました。

28万円は“2ヵ月分”…年金振込の落とし穴

「洋子さん、もう一つ整理しておきたいことがあります。年金が予定どおり入ったとして、その金額でその後の生活に問題ないか、チェックしませんか」

そういうと洋子さんは、口ごもりながらいいます。「28万円入れば、なんとかなると思っていたんですが」。

「いままで年金が入った翌月に、少し不安になることはありませんでしたか」。筆者がそう聞くと、洋子さんは苦笑いしました。

「あります。今月は大丈夫と思って使ったら、次の月に病院代や電気代が重なって、結局貯金から出すことがありました」

年金は、支払額がそのまま自由に使えるお金とは限りません。介護保険料や住民税、所得税などが差し引かれるほか、年金は原則として2ヵ月分がまとめて振り込まれます。通帳にまとまった金額が入ると、その月は余裕があるように思えますが、翌月は年金の入金がないのです。

この点、洋子さんは通帳に入った金額をその月の収入として捉えていたようです。

そこで、筆者は洋子さんと、年金が入った月に安心しすぎない仕組みをつくることにしました。2ヵ月分の年金が入ったら、半分は翌月分として残す。固定資産税や火災保険、医療費が増えた月に備える分は、生活費とは別に置いておく。医療費の領収書や生命保険料控除証明書は、年末に慌てないよう1つのファイルにまとめる。それだけでも、残高の減り方は変わります。

また、これを機に生命保険についても、保障内容と保険料を一覧にしました。年金生活に入る以上、保険で備える部分と、預貯金で対応できる部分をわけて考える必要があったからです。

一連の見直しを終え、洋子さんは言いました。

「私、年金が増えることばかり考えていました。増えた分をどう使うかまでは考えていなかった」

「緑色の封筒」未提出で、年金支給は後ろ倒しに

FP相談のあと、洋子さんは娘と一緒に年金事務所へ行きました。事前に整理した書類を持参し窓口で確認した結果、やはり65歳時の年金請求書が未提出のままでした。

洋子さんは必要事項を記入し、本人確認書類や通帳の写しなど、案内された書類を添えて提出。期限は過ぎていましたが、必要な手続きを行えば、65歳誕生月にさかのぼって支払われるそうです。

ただし、すぐに振り込まれるわけではありません。年金証書や年金決定通知書が届き、その後に支払いが始まるまで、一定の期間がかかります。固定資産税の支払いや医療費、夏場の電気代、孫への入学祝いなど、28万円ありきで組んでいた支払い予定は、いったん見直すことになりました。

帰宅後、洋子さんから連絡がありました。

「無事振り込まれることになって本当に安心しました。でも、もっと早く封筒を開けていればよかったです」

65歳は「お金の管理の仕方」を見直す絶好のタイミング

65歳は、年金の種類が変わる節目です。同時に、その後の家計を自分自身で管理するための節目でもあります。

会社員時代は、保険料は給与から天引きされるため、手続きの多くも会社経由で進むでしょう。しかし、年金を本格的に受け取る段階になると、自分で確認し、自分で請求し、自分で書類を管理する場面が増えます。

年金は、通帳に振り込まれて終わりではありません。年金からなにが差し引かれるのか。住民税や介護保険料はいつ、いくら変わるのか。医療費や保険料は、年金収入の範囲内で払い続けられるのか。年に数回のまとまった支払いへの備えはどうするか……。ここまで確認して初めて、「今月は少し贅沢ができるかどうか」が判断できます。

老後の安心をつくるためにも、届いた書類は一つひとつ確認し、必要に応じて周囲に相談しながら、適切な手続きを進めることが重要です。

波多 勇気

波多FP事務所 代表

ファイナンシャルプランナー