頭が冴えて眠れない夜はどうしたらいいのか。東京科学大学医学部臨床教授の加藤浩晃さんは「『明日の朝一番にあのメールを返さないと』『会議の資料、まだ目を通していない』などと思考のループが寝つきを妨げているときに、意外なほどシンプルな解決策がある」という――。

※本稿は、加藤浩晃『疲労回復学BEST100』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。

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■寝不足とジャンクフード欲求

睡眠不足になると、無性に甘いものや揚げ物が食べたくなった経験はありませんか。

実はそれは、脳が出している誤った指令である可能性があります。寝不足は、私たちの食欲をコントロールするホルモンのバランスを崩し、必要以上に食欲を増幅させ、しかも高カロリー食品を強く欲するように仕向けるのです。

その仕組みを最初に明確に示したのが、シカゴ大学(アメリカ)のカリン・スピーゲル博士、エスラ・タサリ博士らが2004年に『Annals of Internal Medicine』誌に発表した研究です。

研究では、健康な若い男性12名を対象に、厳密な実験室環境で2つの条件を比較しました。1つは寝床で4時間就寝するのを2晩続ける睡眠制限条件、もう1つは寝床で10時間就寝するのを2晩続ける睡眠延長条件です。両条件で食事量と運動量を一定に保ったうえで、食欲を制御するホルモンの濃度を測定しました。

■やめられない、止まらない

結果は、睡眠制限条件では、満腹感を伝えるホルモン・レプチンが平均18%低下し、空腹感を強めるホルモン・グレリンが28%上昇していました。さらに被験者の主観的な空腹感は24%増加し、なかでも甘味・塩味・でんぷん質を多く含む食品(菓子類、スナックなど)への欲求が強まっていました。

つまり寝不足の脳は、実際の必要量を超えて食べたがり、しかも特に高カロリーで太りやすい食品を欲するモードに入るのです。

なぜ寝不足で食欲が増すのか。神経科学的には、睡眠不足で脳の報酬系が刺激されやすくなることも関係しています。脳画像研究では、寝不足の状態では高カロリー食品を見たときの脳の反応が強まり、同時に「これを食べていいかどうか」を判断する前頭前野の活動が低下することが示されています。

つまり、寝不足は欲望を強め、欲望を抑えるはずの理性のブレーキを弱める二重作用を持っていたわけです。ダイエットがうまくいかない、食べすぎてしまう、夜中になるとお菓子に手が伸びてしまうという人は、まず食事制限ではなく睡眠の見直しから始めてみてください。

■たった5分の行動で入眠時間を短縮

ベッドに入った瞬間、明日やるべきことが頭の中をぐるぐる回り出した経験はありませんか。

「明日の朝一番にあのメールを返さないと」「会議の資料、まだ目を通していない」「クライアントへの連絡を忘れていた」……こうした思考のループが寝つきを妨げているとき、解決策は意外なほどシンプルです。

それは、頭の中で考え続けるのをやめて、紙に書き出すこと。たった5分のこの行動が、入眠時間を短縮することが実験で示されています。

写真=iStock.com/oatawa
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2018年、ベイラー大学(アメリカ)のマイケル・スカリン博士らが『Journal of Experimental Psychology: General』誌に発表した研究があります。

研究チームは、18〜30歳の健康な大学生57名を集め、睡眠研究室で一晩を過ごしてもらいました。脳波計などで睡眠を精密に記録するポリソムノグラフィーという手法で、入眠までの時間(睡眠潜時)を測定しています。被験者は2つのグループに無作為に分けられ、就寝5分前にそれぞれ異なる作業を行いました。

1つ目のグループは、明日から数日のうちにやるべきことを5分かけて書き出しました。これがいわゆる「ToDo リスト」です。

2つ目のグループは、ここ数日にすでに完了したことを5分かけて書き出しました(このリストを便宜的に「完了リスト」と呼びます)。

■紙に書けば9分早く眠りに落ちる

ToDo リストを書いたグループは、完了リストを書いたグループよりも平均で約10分早く(9分の差)眠りに落ちました。さらに、より具体的・詳細に内容を書いた人ほど、入眠が早くなる傾向も確認されました。

なぜ、明日やることをリストに書くだけで、眠りやすくなるのでしょうか。

鍵を握るのは「ツァイガルニク効果」と呼ばれる心理現象です。人間の脳は、未完了の課題のほうが完了した課題よりも記憶に残りやすく、注意を引き続ける性質を持っています。やり残しがあると、脳はそれを忘れないように繰り返し意識に上らせるのです。

ところが、ToDo を紙に書き出すと、脳は「もう覚えておかなくていい」と判断します。記憶しておく責任が外部の紙に移されたことで、繰り返し思い起こす必要がなくなり、思考のループから解放されるのです。これは認知科学では「認知的オフロード」と呼ばれる現象で、脳のワーキングメモリー(作業記憶)の負担を減らす効果があります。

出典=厚生労働省

■ToDo 書き出しの3つの正しい方法

ただし、眠る前のToDo 書き出しは、ただ思いつくままに書けばいいわけではありません。入眠を助ける習慣にするためには、いくつかのコツがあります。

加藤浩晃『疲労回復学BEST100』(総合法令)

1つ目は、就寝の5〜10分前に、紙とペンを使って書くことです。スマホやPCのメモアプリでも理屈のうえでは同じ効果が期待できますが、画面の光がメラトニン分泌を抑制してしまうため、紙のほうが推奨されます。手帳や枕元に置いた小さなノートで十分です。

2つ目は、できるだけ具体的に書くことです。「メールを返す」よりも「○○さんに見積もりの返事をする」、「資料を確認する」よりも「会議資料の3〜5ページを読む」のように具体的に何をするか書いたほうが、脳は安心します。

3つ目は、書いた後はその紙を伏せて、もう見ないことです。一度書き出したら、それは「明日の自分」に任せて、今夜の自分は休む。この心理的な切り替えが大切です。

頭が冴えて眠れない夜、無理に眠ろうとせず、まずペンをとってみてください。たった5分の習慣が、夜のあなたを救ってくれます。

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加藤 浩晃(かとう・ひろあき)
デジタルハリウッド大学大学院 特任教授
東京科学大学医学部臨床教授、東京大学応用資本市場研究センターフェロー、アイリス株式会社共同創業者・取締役副社長CSO、THIRD CLINIC GINZA 共同経営者。著書に『休養ベスト100』『医療4.0』(ともに日経BP)、編著に『医療×起業』『デジタルヘルストレンド』(ともにメディカ出版)など多数。
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(デジタルハリウッド大学大学院 特任教授 加藤 浩晃)