(※写真はイメージです/PIXTA)

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「いざという時は、子どもが助けてくれるはず」。そう信じて疑わない親世代は少なくありません。しかし、現役世代もまた住宅ローンや教育費で手いっぱいの時代であり、かつての当たり前は通用しなくなっています。親の期待と子の現実が生む「老後の落とし穴」をみていきます。

74歳男性…年金暮らしの綱渡り

都内近郊の分譲団地で暮らす清水昭一さん(74歳・仮名)。妻は6年前に逝去し、現在は一人暮らしです。毎月18万円ほどの年金で生活しています。

現役時代は設備会社で働き、65歳の定年まで働きました。「退職金もあったし、年金もそこそこある。贅沢をしなければ何とかなる」――そう考えていました。

実際、数年前までは何とか回っていました。毎月の家計は、管理費と修繕積立金を合わせて2万2000円、食費4万5000円、水道光熱費1万8000円、通信費9000円、医療費1万5000円。そのほか日用品や保険料などを合わせると17万円前後になり、残るのは1万円ほどです。しかし、その1万円では突然の出費に対応できません。

昨年は給湯器が故障し、交換費用として19万円を支払いました。今年はエアコンの買い替えで14万円。預金は退職時には1500万円近くありましたが、妻の入院費や葬儀、生活費の補填で現在は約500万円まで減っています。

総務省『家計調査(貯蓄・負債編)2025年』によると、「夫65歳以上、妻60歳以上で構成する夫婦一組の世帯(無職世帯)」の平均貯蓄額は2612万円、さらに「世帯主が70歳以上の無職世帯」でも平均2404万円と高水準です。

清水さんの退職時の預金1500万円は決して少ない額ではありませんでしたが、妻の医療費や葬儀、設備の更新といった想定外の出費が重なると、あっという間に目減りしてしまいます。高齢世帯が多額の貯蓄を抱える背景にはこうした突発的なリスクへの警戒があり、預金が約500万円まで減少した清水さんの不安は、データから見ても決して他人事とは言えない切実な問題です。

子どもを頼れると思っていた

「毎月は暮らせても、大きな出費が来た瞬間に崩れてしまう」

現在の状況をそう表現する清水さん。そこで、口にしなくても頼りにしていたのが、都内で妻と中学生の子ども2人で暮らす、45歳の長男です。年に数回は顔を合わせ、親子仲が悪いわけではありません。だからこそ、清水さんは心のどこかで「本当に困ったら息子が相談に乗ってくれる」と思っていました。

転機は団地の大規模修繕でした。管理組合から、一時金として35万円の負担が必要になる可能性があると説明を受けます。預金から払えなくはありませんが、これから介護や病気があればどうなるのか、不安が消えませんでした。

数日悩んだ末、長男へ電話をかけました。

「お金を出してほしいわけじゃない。ただ、この先どうしたらいいか、一緒に考えてほしくて」

沈黙のあと、返ってきた言葉は予想とは違いました。

「自分の生活なんだから自分で何とかしてほしい」

「自分も住宅ローンが3000万円以上残ってる。子どもの教育費もある」

「これ以上負担を増やさないでほしい」

清水さんは返す言葉がありませんでした。電話は5分ほどで終わりました。

「息子は冷たい人間じゃないんです。でも、あの一言で『何かあれば息子がいる』というのは、甘い考えだったことがわかりました」

後日、長男から改めて連絡がありました。

「市役所とか地域包括支援センターに相談してみたらどうか」

「親父が何かあったら駆け付ける。でも生活までは支えられない」

その言葉には突き放す響きもありましたが、一方で現実も含まれていました。親を助けたい気持ちはあっても、自分の家庭を守るだけで精いっぱいだったのです。

厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、児童のいる世帯(子育て世帯)の1世帯当たり平均借入金額は1226.2万円に上り、全世帯平均(362.5万円)を大きく上回ります。さらに、日々の生活が「苦しい(大変苦しい・やや苦しいの合計)」と感じている世帯の割合も61.5%に達しており、現役世代の家計に決して余裕はありません。

親を気遣う気持ちはあっても、自身の住宅ローンや教育費の負担から親への経済的支援が困難な子世代は少なくありません。「いざとなれば子が助けてくれる」という前提に頼るのではなく、親自身が家計を見直し、利用できる地域の制度や住居の選択肢を主体的に検討していくことが、自立した老後を生き抜く基本といえるでしょう。

清水さんも自分の生活は自分で守らなければならない現実を受け止め始めました。自治体の高齢者相談窓口で家計を見直し、使っていない生命保険を解約しました。固定費を月1万2000円ほど削減できました。さらに、自宅を売却してサービス付き高齢者向け住宅へ住み替える可能性についても情報を集めています。