「電気代を押し上げるな」2026年2月、トランプ大統領がAmazon・Googleら巨大テックのボスをホワイトハウスに呼びつけた〈異例のパワーゲーム〉
AIはいまや、我々の生活に欠かせない存在になっている。ちょっとした調べものから気持ちの整理まで、日常的にAIを使う人も多いだろう。しかし、その裏でAIの利用には大量の電気と水が使われていることをご存じだろうか。AIを支えるデータセンターは急速に巨大化・増加しており、物理的な資源が枯渇しかねない状況にある――。白畑真氏の著書『デジタルインフラの地政学 インターネット データセンター AI 急所を握るのは誰か』(日経BP)から、世界のデータセンターをめぐる現状を解説する。
ホルムズ海峡と紅海の危機は「AI」にも大打撃
エネルギーのホルムズ、通信の紅海。2つのチョークポイントは連動していた。ホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油とLNGの供給が逼迫すれば、データセンターを支える電力とその建材も逼迫する。紅海の航行リスクが海底ケーブルの保守と増設を阻めば、通信の冗長性が失われる。通信、エネルギー、計算資源が同時に制約を受ける。
かつてのデータセンターはデジタルデータの倉庫としての側面が大きかった。生成AIの登場によって、その性格は大きく変わった。
生成AIの「知性」を支えるのは、洗練されたアルゴリズムだけではない。数十万基の高性能GPU、それを支える大量の電力、そして冷却水だ。データセンターは製鉄所や化学プラントに比肩する重厚長大産業となった。
データセンターには「3つのタイプ」がある
議論の前提としてデータセンターの種別を整理したい。
1.コロケーション型
コロケーション型は、企業などの顧客が主にサーバーなどの機器を持ち込む施設で、多数の顧客が1棟のビルに入居する。1棟あたり数MW(メガワット)〜数十MWの電力規模が典型的だ。日本ではNTTドコモビジネスやKDDIなどの通信事業者、NEC、SCSK、富士通などのSIerのデータセンターが上位を占める。
2.キャリアホテル型
キャリアホテル型は、このコロケーション型の一類型で、データセンターとしての設備は同じだが、顧客層や主な用途が異なり、主にネットワークの集積拠点になっているデータセンターである。アット東京や米Equinix(エクイニクス)のように複数の通信事業者やインターネットエクスチェンジ、クラウド事業者が通信機器を持ち込み相互接続する役割を担っている。
3.ハイパースケール型
これに対し、近年の投資の主役はハイパースケール型だ。数十MW〜GW(ギガワット)級の電力容量を持つ巨大施設を、特定顧客または自社専用に建設する。
日本でも外資系データセンター事業者や不動産会社による開発が相次ぐ大型データセンター、あるいはGoogleのオレゴン州ザ・ダルズやスウェーデンのルレオに置かれたMetaのデータセンター群はこの類型で、クラウド基盤のサーバーやAI学習用に数万基のGPUが並ぶ。
さらに2024年以降、OpenAIとの合弁でテキサス州アビリーンの1.2GWをはじめとして、合計最大5GWを計画するStargateや、最終形で数十万のTrainium2チップを集積するAWSのProject Rainierのようにギガワット級の超大規模キャンパスが構想され始めた。これらは中規模の原子力発電所に匹敵する電力を要する。送電網の容量、水資源、用地確保は、いずれもこのスケールの爆発的拡大がもたらす物理的な制約だ。
AIへの質問1回で、検索の10倍の電気を消費
国際エネルギー機関の予測では、2030年までに世界のデータセンター電力需要は、日本の総消費量に匹敵する年間945TWh(テラワットアワー)に達する可能性がある。主要市場での系統接続待ち時間は4年を超え、送電網の容量不足が顕在化している。
電力制約が鮮明に表れているのは、米国バージニア州を本拠とする電力会社Dominion Energy(ドミニオン・エナジー)の管轄区域だ。世界最大のデータセンター集積地であるアッシュバーン(ラウドン郡)を含むこの地域は、AWSのus-east-1リージョンの物理的基盤だ。
Dominionは2039年までにデータセンター向け電力需要が現在の3倍に達すると予測し、新規の大口需要家への系統接続を一時停止する事態に追い込まれた。全米各地で規制当局がデータセンター向け電力供給の制限を検討し、住民の生活用電力との配分が政治問題化している。
電力制約が計算資源制約と重なり、ギガワット級の系統接続を確保できる主体に絞られた寡占構造は、もはや市場原理では覆らない段階に入りつつある。
AIによる推論コストはAIの学習以上に重い長期的課題だ。GPT-4クラスのモデルへの1回の問い合わせはGoogle検索の約10倍の電力を消費するとの推計もあり、生成AIが検索を代替する世界では電力需要は大幅に増大する。
「水資源」を圧迫し、「脱炭素政策」をも妨げる
GPU高集積化で発熱量が増すAI向けデータセンターでは、安定稼働には大量の水を使う水冷方式が欠かせない。Googleは2024年の環境報告書で自社データセンターの水使用量が前年比17%増加したと公表した。Microsoftも同様の傾向を報告している。
米国アリゾナ州グッドイヤー市ではMicrosoftのデータセンター建設に対し、住民が水資源の枯渇を懸念して反対運動を起こした。チリのセリジョスではGoogleのデータセンター計画に対し、乾燥地帯での水使用に環境団体が訴訟を提起している。アイルランドでは電力制約が政策課題として表面化し、新規データセンター接続の制限に踏み切った。
再エネの供給能力を電力需要の伸びが上回るため、一部地域では廃止予定の火力発電所の稼働延長や、次世代の原子炉である小型モジュール炉(SMR)の採用が検討される。
Microsoftが電力購入契約を通じてスリーマイル島の再稼働を支援し、GoogleがKairos PowerのSMRからの電力購入契約を締結したことは、生成AIを支えるデジタルインフラが、数式とコードというよりも電力に支えられる重厚長大産業であることを、浮き彫りにした。
米不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)は、2030年までに累計3兆ドル規模の資本がデータセンター建設に必要と予測する。2027年ごろが投資回収の分岐点とされ、AIが巨額投資に見合う収益を生まなければ不良債権化リスクが残る。
データセンター用の「完璧な立地」は世界に存在しない
データセンター立地を決定する要素は、電力、冷却、接続性、法域、自然災害リスク、政治安定性、人材と多面的だ。すべてを高水準で満たす場所は存在しない。
電気が足りないバージニア、水がない中東、東京から遠すぎる北海道
米国のバージニア州北部は接続性で世界最高だが電力が飽和。シンガポールは接続性と法域で優れるが電力と冷却に制約がある。
日本の千葉県印西市は接続性が高いが電力系統に飽和の兆候があり、人材確保にも課題がある。北海道は冷却と電力で優位である一方、東京などの利用者が集積する地域までの距離が遠く、レイテンシ(通信遅延)が大きな課題となる。完璧な立地は幻想であり、立地評価では何が自社のワークロードにとって致命的かを用途別に優先順位づける必要がある。
各国の戦略はいくつかの類型に分かれる。中東に代表される電力と土地が豊富な砂漠型、シンガポールのように接続性を最優先する都市型、そしてバージニア、アイルランド、日本の印西のように電力飽和に直面しゾーニングや料金設計で対応を迫られる先行型だ。
アイルランドでは、2024年にはデータセンターの電力消費が国全体のメーター電力の22%超に達し、モラトリアムと条件付き再開を経験した。シンガポールも2019年にモラトリアムを決定し、選択的承認制(DC-CFA)で需要を管理する。
オランダは70MW超・10ha以上級の新規ハイパースケールデータセンターについて、立地をHet HogelandとHollands Kroonの2指定地域に限定する規制を導入した。
中東のUAE・サウジアラビアは砂漠の再エネと潤沢な資金でGPUを大量調達するが、冷却用の水資源を海水淡水化に依存するジレンマを抱える。
世界一データが集まり、世界一電力不足のバージニア州北部
電力制約が最も先鋭化しているのがバージニア州北部だ。ラウドン郡を中心としたデータセンター・アレーと呼ばれる北バージニアは世界最大のデータセンター集積地であり、米州の運用容量の約25%、世界の約13%を占めるという※1。2025年10月障害の舞台であるAWSのus-east-1リージョンもここに位置する。
※1 バージニア州合同立法監査審査委員会。
https://jlarc.virginia.gov/landing-2024-data-centers-invirginia.asp
TeleGeographyが2026年に公開したMarket Connectivity Score分析は、この集中のリスクを定量的に裏付ける。北バージニアは世界最大のデータセンター市場であると同時に、データセンター容量に対する電力供給の逼迫度でも世界で最も逼迫した水準のスコアを記録した。
データセンターパイプラインは巨大だが、計画中の電力供給は200市場中の下位半分にとどまる。世界で最もデータが集積し、電力が足りない場所。それが2026年のバージニア州北部だ。
業者の“空枠キープ”のせいで、住民の電気代が月32ドル上乗せ
元凶は投機的な系統接続申請だ。データセンターのデベロッパーが将来の拡大を見越し、使用するか不明な電力枠を大量確保している。大手電力会社のDominion Energyはその申請に基づき送電網を増強せざるを得ず、結果として一般家庭がそのコストを電気料金で負わされる。
米非営利団体の「憂慮する科学者同盟」の試算では、米地域送電機関PJM管内7州の一般需要家は2024年だけで44億ドル(約6600億円)をデータセンター用送電網アップグレード費用として負担していた。メリーランド州ボルチモアの住民の電気料金は月32ドル押し上げられたと報じられている。
データセンター向けの「特別料金」を創設…対応に追われる電力会社
Dominion Energy自身もこの状況に危機感を抱き、大規模需要家(100MW超)向けの新たな料金クラスの創設をバージニア州公益事業委員会に提案した。需要家に長期的な電力購入契約と系統増強への応分の負担を求めるもので、投機的申請者を経済的インセンティブでスクリーニングする設計だ。
原因者負担の原則を徹底した例が米電力会社のAEP Ohioだ。2025年7月にオハイオ州公益事業委員会の承認を得て導入された大規模需要家向け新料金体系(DCT:Data Center Tariff)には、契約電力容量の最低85%について使用の有無にかかわらず12年間の長期支払いを義務付ける「Take-or-Pay」条項が組み込まれている。
この結果、系統接続キュー(順番待ち)は30GW超から約13GWへ半減した。投機的な場所取り目的の申請が一掃されたのだ。
米国連邦政治の議題となったデータセンター問題
2026年に入り、この問題は州レベルの制度的対応の枠を超え、連邦政治の議題となった。2025年末から2026年初頭にかけて米国東部を記録的な寒波が襲い、家庭向け電気料金の大幅な上昇が報じられた。寒波による暖房需要の急増に加え、エネルギー市場の不安定化、老朽化した送電網の更新費用が重なり、データセンターの電力消費は住民の不満の象徴となった。
トランプ大統領は2026年2月の一般教書演説で「電力料金支払者保護の誓約(Ratepayer Protection Pledge:RPP)」を掲げ、データセンター事業者に自前の電源開発を求める交渉を開始したと表明。3月4日にはAmazon、Googleを含むテック大手7社の幹部をホワイトハウスに招集し、データセンター建設が一般家庭の電気料金を押し上げない旨を各社に宣言させた。
電気料金の高騰は、実際にはデータセンターだけが原因ではなく、寒波・戦争・老朽インフラの複合要因だ。だが「電力を大量消費するデータセンター」は、政治的にわかりやすい標的となった。データセンターの社会的受容性(Social License to Operate)が、連邦レベルの政策変数へと格上げされた意義は大きい。
データセンターを誘致しつつインフラコストを一般市民に押し付けない公平性の確保は、日本のワット・ビット連携においても避けて通れない課題である。
白畑 真
さくらインターネット株式会社

