座席のテーブルの上にお弁当と共にお酒を並べるのは、定番の光景だが…(αR / PIXTA)※写真はイメージ

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「今、新幹線で座席倒したら後ろの席の人がテーブルに置いてたハイボールがこぼれて…」7月10日、作家の水野敬也氏が上記の内容から始まる話題をXに投稿した。

投稿によると、水野氏は後ろの座席の人に「大丈夫ですか?」と声をかけたが、「大丈夫じゃねーんだけど」と返されてしまい、謝るしかなかったという。

また水野氏は「座席倒すとき『座席倒して良いですか』って言わなくて良いっていったやつ、どこのどいつですか?」と疑問を呈している。

これに対し、Xでは「自分は倒す際に声をかける」「声をかけなくてもゆっくり座席を倒せば飲み物はこぼれないはず」といった意見が集まっていた。

新幹線における「声かけ」について、JRはどのような見解を示しているのだろうか。また、もし飲み物がこぼれたことでトラブルが発生した場合、座席を倒した人は、なんらかの法的責任を問われる可能性があるのだろうか。

「声かけ」はJR公式ルール? 

「声かけ」のルールなどについて国内新幹線の利用者数トップである「東海道新幹線」を運行するJR東海に弁護士JPニュース編集部が問い合わせたところ、広報担当者から「リクライニング(座席を倒す機能)のご利用に関して、具体的なルールなどは設定していない」と回答があった。

「後ろのお席のお客様の様子にご留意いただくようご理解とご協力をお願いしております」(広報担当者)とのことではあるが、JR東海として「声かけ」を公式に推奨しているとまではいえないようだ。

「弊社では、お客様に安心して快適に鉄道をご利用いただけますよう、お客様のご協力を得ながら、マナーの定着に取り組んでいるところでございます。

車内にて他のお客様のご迷惑となるような行為を認めた際は、乗務員からお声かけさせていただいております。車内にてお気付きの点や困りのことがございましたら、大変お手数をおかけいたしますが乗務員へお申し出ください」(広報担当者)

「過失」があれば損害賠償の可能性も

後ろに座っていた人の飲み物がこぼれた際に、パソコンが壊れる・服が汚れるといったトラブルが発生するおそれがある。このような場合、座席を倒した人は修理費やクリーニング代を支払うといった法的な義務を負うのだろうか。

民法に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)によると、座席を倒した人が損害賠償責任を負うか否かは「過失」の有無によって変わってくるという。

「民法709条は、故意または過失によって他人に損害を与えた場合に、賠償責任を負うと定めています。

そのため、『急に座席を倒した』または『勢いよく座席を倒した』などの不注意がある場合には、パソコンの修理費や衣服のクリーニング代などを負担する義務が生じる可能性もあります。

これに対し、通常の方法でゆっくり座席を倒したという場合には、過失は認められず責任を負わない可能性が高いでしょう。

最終的には、座席の倒し方や周囲の状況などから判断されることになります」(荒川弁護士)

また、「新幹線で座席を倒す際には後ろの人に声をかけること」「座席はゆっくりと倒すこと」などの義務が法律によって定められているわけではない。

しかし、「過失」の有無を判断するにあたって、「声かけの有無」や「座席を倒す速度」といった事柄が、「周囲を確認したか否か」など他の事情とあわせて考慮される可能性はある。

さらに、後ろの人が飲み物を不安定な場所に置いていたなどの不注意があった場合には、「過失相殺」(民法722条2項)により、座席を倒した人の賠償額が減額されるというケースも考えられる。

つまり、座席を倒した人と後ろに座っていた人の双方の行動を含め、具体的な状況が総合的に判断されることになるのだ。

なお、他人の物を壊す・汚すという行為については、器物損壊罪(刑法261条)が問題となるケースもある。

しかし、そもそも同罪が成立するためには、「故意」が必要とされる(刑法38条1項)。「座席を倒したら偶然に飲み物がこぼれた」という事例では故意はなく、同罪は成立しない。

総じて、新幹線の「声かけ」については、JRも法律も義務として求めているわけではない。一方で、JRは後ろの人に留意することを求めている。また、法的な問題になった場合にも、座席を倒した人がどれだけ注意を払っていたかが、「過失」の程度を判断するにあたって重要な要素となり得る。

なにより、JRも法律も「声かけ」を禁止しているわけではない。トラブルを未然に防ぎ、お互いが気持ちよく快適に旅を楽しむためにも、座席を倒す際には一言声をかける・ゆっくり倒すといった配慮をするのが望ましいだろう。