阿部慎之助監督の不祥事辞任が招いた皮肉 巨人が上向いた“監督交代”の思わぬ効果
間もなく前半戦が終了するプロ野球で、最も衝撃的だったニュースを挙げるなら、巨人・阿部慎之助監督の辞任だろう。
5月25日、長女への暴行容疑で逮捕され、翌日にはユニフォームを脱ぐことになった。楽天では三木肇監督が成績不振を背景に休養し、その後退団しているように、結果が出なければ監督交代は起こり得る。ただ、個人的な不祥事によってシーズン途中に監督が退くのは、極めて異例である。球団内にも大きな混乱が走ったはずだ。【西尾典文/野球ライター】
【写真】7月15日のヤクルト戦で大活躍した4番・ボビーダルベックの笑顔
限られた戦力をやりくりして
ところが、阿部監督退任後の巨人は決して悪くない。
5月下旬に始まったセ・パ交流戦では、セ・リーグで唯一の勝ち越しを記録した。6月は10勝6敗2分と貯金を増やし、阪神に次ぐ2位につけている(7月14日終了時点)。

なぜ、混乱の中でチームは上向いたのか。大きな要因として、橋上秀樹監督代行の手腕を挙げる声がある。
「橋上監督代行は、選手時代にヤクルトで、指導者になってからは楽天で、野村克也監督のもとで野球を学んでいます。野村監督の野球は、現有戦力をどう生かすかに特徴がある。言ってみれば“弱者の戦い方”ですよね。データの使い方もうまい。今の巨人は、他球団を圧倒する戦力がそろっているわけではありません。これまでの首脳陣は、細かく戦力を生かす野球をあまり好まなかった面もある。その意味では、今のチーム状況と橋上監督代行の得意とする野球が、うまく噛み合っているように見えます」(球団関係者)
実際、巨人のチーム打率はセ・リーグ下位にとどまる。岡本和真(ブルージェイズ)が抜けた穴は、完全に埋まったとは言えない。
それでも、2年目の浦田俊輔、3年目の佐々木俊輔が大きく成績を伸ばし、オフにFAで加入した松本剛は徐々に復調している。限られた戦力をやりくりしながら勝ちを拾う形が、チームとして機能しているのだろう。
くすぶっていた選手の活躍がチームに刺激を与えている
監督交代によるプラス要素は、ほかにもある。阿部監督時代に一度見切られた選手たちへ、再びチャンスが与えられている点だ。
「監督が代われば、戦力をもう一度見直す動きは必ず出てきます。これは阿部監督、橋上監督代行に限った話ではありません。阿部監督は以前から、選手に求めるレベルが高かった。そこについていけず、停滞していた選手もいたと思います。コーチ陣にしても、推薦した選手が結果を出せなければ責任を問われますから、強く推しづらかった面はあったでしょう。その点、橋上監督代行は直前まで同じコーチの立場でした。他のコーチからすれば、意見を出しやすい。そこで起用された選手が結果を出せば、周囲も『自分にもチャンスがある』と感じるはずです。けがの功名という言い方は適切ではないかもしれませんが、監督交代がチーム内の競争を促した面はあると思います」(前出の球団関係者)
投手陣を見ると、戸郷翔征が現在けがで離脱しているものの、5月下旬から6月にかけて4連勝を挙げるなど復活の兆しを見せた。2019年のドラフト1位・堀田賢慎も、6月9日以降は8試合連続無失点を記録し、中継ぎの一角として存在感を高めている。
野手陣に目を向けると、わずかな期間で二軍に降格となったものの、2022年ドラフト1位の浅野翔吾が6月20日の中日戦で今季初本塁打を放った。くすぶっていた選手の活躍が、チーム内に刺激を与えているのは確かだろう。
大きな宿題も
一方で、好調が続けば続くほど、巨人ならではの難しい問題も浮上する。別の球界関係者は、監督人事の行方についてこう語る。
「巨人は伝統的にOBが監督を務めてきた球団です。代行監督とはいえ、外様が指揮を執る例は創設初期を除けばありません。オフにOBが新監督に就任する流れが既定路線でしょう。ただ、問題はチーム状態が上がり、このまま逆転優勝した場合です。橋上監督代行の手腕は当然評価されるべきですし、そのあとで『またコーチに戻ってください』とは言いにくい。チームを第一に考えるなら、続投という選択肢が出てきても不思議ではありません」
巨人の次期監督をめぐっては、ON以来最大のスターである松井秀喜氏を待望する声も多い。一方で、本人が承諾するかは不透明であり、監督としての手腕も未知数である。
仮に巨人が逆転優勝を成し遂げれば、次期監督は優勝チームを引き継ぐ重圧を背負うことになる。優勝を逃せば新監督人事が焦点となり、優勝すれば橋上監督代行の扱いが難しくなる。
思わぬ形で始まった監督交代劇は、チームに新たな活力をもたらした一方で、オフの人事をさらに複雑にする可能性も出てきた。巨人フロントにとって、前半戦最大の混乱は、後半戦以降の大きな宿題として残りそうだ。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
