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相続税対策として、子や孫に対して「毎年110万円以内」の贈与を行っている人は多いでしょう。たしかに、1年間に受け取った財産の合計額が110万円以下であれば、暦年課税の基礎控除として、贈与税はかかりません。ただし、この贈与の仕方には注意点が存在します。ある家族の事例から、贈与の注意点と対策について木戸真知子税理士が解説します。

2人の孫へ、平等に毎年110万円ずつ贈与

65歳のAさんは会社員として約40年間勤めあげ、このたび定年退職を迎えました。リタイア後は、同い年の妻と仲良く旅行や趣味を楽しむ生活を送っています。

夫婦には長男と長女がいますが、2人とも立派な社会人となり、それぞれが結婚後、実家とは離れて暮らしています。

現役時代のAさんはとにかく忙しく、平日帰宅するのはいつも子どもたちが寝静まったあと。本当は参加したい気持ちがあったものの学校行事もつい妻に任せきりで、家族団らんの時間を十分に取れなかったことが心残りでした。そのため、「定年後は子どものためにできることをしたい」という気持ちが一番にありました。

そんな折、Aさんにとってうれしいニュースが入りました。長男夫婦に孫が生まれたというのです。

「子どもたちと一緒にいてあげられなかった分、孫には思う存分恩返ししたい」

妻も同じ気持ちだったようで、それから夫婦ではいつも孫の話題でもちきりでした。

その後、長女夫婦にも孫が誕生。「なにかできることはないか」と40年来の友人Dさんに相談すると、Dさんは「孫に毎年贈与をしている」と教えてくれました。聞けば、「俺も孫のためになにかしてやりたくて。毎年110万円以内なら贈与税がかからないそうだ」といいます。そこで早速Aさんも、Dさんと同様に孫へ贈与することにしました。

Aさんには、自分にもしものことがあったときに妻や子どもが困らないよう、財産や個人情報などを書き残しているノートがあります。そのノートに「孫それぞれの誕生日に毎年110万円を贈与する」と書き記し、ひと息つきました。

しかし、ふと気づきました。長男、長女の子どもは、それぞれ年齢が違います。

「いまから同じように贈与したら、年齢が違う分不公平になってしまうのではないか?」

そこで、110万円×10年間×2人分=合計2,200万円を贈与することに。妻や長男、長女にもこの旨を書いたメモを渡しました。こうして準備を整えたAさんは、その後も毎年欠かさず約束どおり贈与を続けていました。

孫のための贈与が一転…親友家族を襲った「税務調査」と高額課税

そんなある日、Aさんの親友Dさんに不幸がありました。大学時代から切磋琢磨してきた親友との別れは本当に辛く、また、家族ぐるみで付き合いをしていたこともあり、Aさんの妻も子どももなかなか立ち直れません。

ようやく気持ちが落ち着いたころ、Dさんの息子から衝撃的な話を聞きます。なんと、Dさんの相続に関して税務調査が入り、思いもよらない指摘を受けたというのです。

Dさんは3年ほど前から、3人の孫へ毎年贈与を行っていました。Aさん同様「毎年110万円以内なら非課税」という認識でいたものの、贈与契約書は作成しておらず、残されていたのは「孫3人平等に、1,100万円を10年間、毎年110万円ずつ贈与する」という趣旨のメモだけでした。

その結果、税務署から「これは分割した贈与ではなく、まとめて贈与したもの」とみなされ、孫3人にそれぞれ約550万円の贈与税が課されることになってしまったのです。

「こんな高額の税金がかかるなんて、本当に困り果てました。母は、なんとかならないかと泣いて税務調査官に懇願しましたが、無駄でした」という切実な思いを吐露するDさんの家族。ですが、Aさん自身も同じような方法で贈与を続けていたため、驚きが隠せません。

税務上は別物…毎年の贈与には「2種類」ある

相続税対策として、毎年少しずつ贈与をするという方法をとっている人は少なくないでしょう。実は、この「毎年の贈与」には大きくわけて2種類あります。

連年贈与……結果として毎年贈与している状態

定期贈与……毎年贈与することやその金額が、あらかじめ決まっている状態

一見すると同じように見えますが、意味合いが大きく異なります。連年贈与は「その年ごとに贈与するかどうかを決めている」状態で、あくまで毎年の行為が積み重なったものです。一方、定期贈与は「毎年〇万円を贈与する」といった約束が最初から決まっているケースを指します。この違いが、税務上の扱いに大きく影響します。

今回、税務署はDさんの贈与を「定期贈与」と判断したため、初年度にまとめて贈与したものとみなされ、一括で高額な贈与税が課されることとなりました。

さらに、定期贈与の課税対象は「これから受け取るはずのお金」に対してもおよぶため、孫たちはまだ受け取っていない金額について先に納税しなければならないという、非常に厳しい状況に置かれてしまいました。

贈与の取り扱いは、当初どのような約束があったかによって大きく変わってくるため、贈与を行う際には必ず「贈与契約書」を作成し、毎年その都度取り交わすことが重要です。

また、形式だけ整えても不十分で、実態が伴っていなければなりません。贈与は本来、贈る側と受け取る側が双方合意して成立するものです。したがって、祖父が贈与したことについて孫本人がその事実を知らない場合、それは贈与として認められません。

さらに、受け取る本人が管理していない口座に贈与者が勝手に入金している場合も、贈与とは認められず、相続発生時に「名義預金」と判断される可能性があります。

贈与を確実に成立させるためには、必ず受け取る本人が管理している口座へ入金することが重要です。このままではAさんも、自分の孫たちをDさんの孫たちと同じ状態にしかねません。

まずその「10年間の約束」のメモを撤回し、あくまで毎年その都度あげるかどうかを決める「連年贈与」の形に改めましょう。そのためには、面倒でも毎年贈与を行うたびに、日付と金額を記した「贈与契約書」を新しく作成しなければなりません。

また、孫が幼いからといって通帳や印鑑をAさん自身が管理していると、実質的なAさんの財産(名義預金)と判定されてしまいます。通帳と印鑑は長男・長女に引き渡し、実際の管理を委ね、そのうえで手渡しではなく必ず銀行振込を利用し、客観的な資金移動の証拠を口座に残すべきです。

孫を想っての生前贈与が、結果的に最愛の家族を苦しめる結果になっては元も子もありません。少しでも不安がある場合は、自己判断のメモ書きだけで進めず、一度相続に強い税理士などの専門家へ相談し、「正しい贈与のやり方」を整えておくことをお勧めします。

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー