「子どもに家を残したい」親心が裏目に…田園調布で3億円の豪邸を相続する一人っ子を待つ「6500万円」の地獄
「思い出がつまったこの家を残してあげたい」。子どもを持つ親なら、そう考えるのは当然だろう。しかし今の時代、その親心がかえって子どもを苦しめるとしたら……。メンタルコーチで、著書に『おひとりさまの生存戦略』があるワタナベ薫氏が、不動産相続のシビアな現実と、親子ともに幸せになれる住まい方を教える。
ビル・ゲイツが子供に財産を残さない理由
50代からの住まいについて考える時、多くの人が直面する「二つの恐怖」があります。賃貸派の「更新拒否」と、持ち家派の「負動産(ふどうさん)化」です。
特に持ち家派の方は、「せっかく建てた家だし、思い出が詰まったこの家は、子供に残してあげたい」と思いがちですが、ここで少し冷酷な現実をお話ししましょう。
世界の大富豪や、日本の高級住宅街で今、何が起きているかご存知でしょうか?
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツや、投資の神様ウォーレン・バフェット。彼らのような超・資産家たちが、子供に莫大な財産を残さないと公言しているのは有名な話です。バフェットはこう言っています。
「子供に残すべきなのは、何でもできると思えるだけのお金であり、何もしたくなくなるほどの大金ではない」
彼らは知っているのです。使いきれないほどの資産(あるいは管理しきれない不動産)を残すことは、子供の自立心を奪い、人生を狂わせる毒になりかねないことを。「多くを残さない」ことは、ケチなのではなく、「自分の足で歩いてほしい」という、親としての深い愛情なのです。
資産を残すことが、いかに相手(子供)を苦しめるか。それを理解していただくために、少し下世話ですが、わかりやすい話をしましょう。
よくドラマやSNSで、パパ活女子が「パパ(付き合っているおじさん)に港区にマンション買ってもらったの〜」なんて自慢しているシーンがありますよね。あるいは「あーあ、誰かマンション買ってくれないかなぁ〜」という願望(若い時は、私もよくそう思っていました・笑)。
あれは、税金の仕組みを知っている私たちから見れば、滑稽な「大嘘」か、あるいは「破滅への入り口」です。
もし本当に、他人から「これでマンションでも買いなよ」と1億円のお金をポンともらった(贈与された)としたら、どうなると思いますか? 日本の贈与税は世界一高いと言われています。1億円の現金をもらった翌年、国から「約5000万円の贈与税」の請求書が届きます。
「えっ、もらったお金は全部マンションに使っちゃって、現金なんて持ってなーい!」。そう叫んでも手遅れです。彼女はマンションを即座に売り払うか、借金をして税金を払うしか方法がありません。「タダほど高いものはない」、ということです。
不動産という資産は、受け取る側にも「それ相応の現金(税金を払う力)」がなければ、身を滅ぼしかねないものなのです。
田園調布ですら空き家だらけという衝撃
「うちはビル・ゲイツじゃないから関係ない」と思われるかもしれません。では、日本の話をしましょう。東京屈指の高級住宅街、田園調布ですら、今「空き家」が増えているという事実をご存知ですか?
あのような一等地にある豪邸を相続すると、目玉が飛び出るような相続税がかかります。
たとえば、時価3億円の家を一人っ子が相続した場合、不動産の評価額が少し下がるとはいえ、支払わなければならない税金は約6500万円にも上ります(※実際の税額は評価額や相続人の数など諸条件により異なります)。
子供がサラリーマン家庭であれば、とても現金で払いきれません。かといって売ろうにも、家が高すぎて買い手がつかない。結果、憧れの豪邸は、誰も住めないまま朽ちていく「巨大な負債(お荷物)」と化してしまうのです。
たとえば、時価5000万円のご実家を、持ち家のある一人っ子のお子さんが相続した場合、不動産の評価額が下がることもあり、相続税はわずか40万円ほどで済むケースもあります(※実際の税額は評価額や相続人の数など諸条件により異なります)。
「5000万円の家がもらえるのに、たった40万円なら安いものじゃない」。そう思いますよね。お子さんも、なんとか工面して(喜んで)払うでしょう。でも、本当の地獄は「税金を払った後」に始まります。
現代は、昔と違って核家族が主流です。お子さんには自分たちの家と生活があります。実家には住めません。
するとどうなるか。誰も住んでいない家に、毎年「固定資産税」を払い続け、休日のたびに片道1時間かけて「草むしり」と「空気の入れ替え」に行かなければならなくなります。
「誰も住んでいない実家、とりあえずそのままにしておこう」。そんな先送りが、後で恐ろしいしっぺ返しを生むのをご存知ですか?
実家の棚卸しを後回しにしてはいけない
福岡へ出張に行った際、タクシーの運転手さんから「固定資産税が急騰し、家の維持ができなくなった人がいる」という怖い話を聞きました。
日本の税制には恐ろしい落とし穴があります。たとえば、親の家を良かれと思って解体し「更地」にした途端、住宅用の特例が外れ、土地の固定資産税が最大6倍に跳ね上がることもあります。
「じゃあ、建物を残したまま放置すればいいのね」と思った方、それも安心ではありません。今は法律が厳しくなり、管理が行き届いていない空き家は「特定空家」に指定され、自治体からの勧告を受けると、家が建っていても同様に特例が外れます。
さらに最近では、大規模再開発が進む福岡市などで、地価の高騰にともない固定資産税が急激に跳ね上がり、悲鳴を上げる人が続出するというニュースも話題になりました(※固定資産税には急激な上昇を抑える仕組みがあるものの、地価上昇にともない段階的に負担は増加します)。
不動産は、ただ持っているだけで確実にお金を奪っていく「負動産」になり得るのです。実家の棚卸しは、絶対に後回しにしてはいけません。
売ろうと思っても、思い出が邪魔をしてすぐには踏み切れない。そうこうしているうちに家は傷み、資産価値は下がり続ける。つまり、親が良かれと思って残した家が、子供にとっては「毎年お金と時間を奪っていく、金食い虫(負債)」になってしまうのです。
子供と同居していた場合は、さほど問題は多くありませんが、子供たちが自立して他所に住んでいる場合は、その持ち家がお荷物になるケースはよくあります。
郊外の古い一軒家を相続することが、どれほど子供にとって負担になるか……。「家を残す=愛」という昭和の常識は、令和の今、通用しないのです。
現金に変えておけば「最高の老後」が買える
では、私たちはどうすべきか? 不動産を「現金」に変える、というのも選択肢の一つです。
私は現在、独身で子供がいませんが、姪が一人います。しかし、今の私の自宅を彼女にそのまま相続させるつもりはありません。税金と維持費で彼女を苦しめたくないからです。地方とはいえども市内の一等地ですから固定資産税は高いですし、管理費や維持費などもバカになりません。
その代わり、元気なうちに家を売却し、その資金で「自分自身の老後の面倒(施設費用)」を賄い、一銭も残さず使い切るつもりです。
家を売ったお金があれば、入居一時金の高い「ホテルのような有料老人ホーム」に入ることだって夢ではありません。
ただ、私の場合は、願わくばお手伝いさんやヘルパーさんたちに助けられながら自宅で過ごしたい、という夢がありますので、その願いを叶える方法を現在計画中です。
ぜひとも、「子供に家を残さなきゃ」という執着を手放してください。もし子供たちに負債を残したり、粗大ごみの片付けをさせたり、自分の面倒を見てもらったりする、という負担をかけたくないのなら、自分の生き方に集中することの方が大切です。
家を売って、不要な荷物は減らして生活をダウンサイジングする。あなたが最高に快適な施設でニコニコ暮らしていること。それこそが、子供にとっても一番の安心であり、贈り物なのです。
もちろん、家庭の状況によって家を残すかどうかの選択は違います。子供たちが親の家を相続するだけの、国に支払う税金があれば話は違いますが、それもまた、お子さんと事前に話し合っておく必要があります。
親の介護の話も大切ですが、次に私たちの老後も目の前に迫っているので、子供たちと持ち家の今後について話し合いをしておくことは大切です。
話題の記事をもっと読む→カレーを国民食にした大阪生まれのハウス食品…アメリカでの売上9割は“カレーではなかった”

