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身内の同情を引いてお金を得るために、どれほど多くの人を巻き込んだのでしょうか・・・

【写真を見る】【裁判】他殺偽装の自殺未遂も「痛くて断念」…強盗被害をでっちあげた50代消防士の誤算とは 巡り巡ってたどり着いた"奇策"で地域社会が大混乱 妻に「次に借金したら離婚」と言われ...勤続35年の男が抱えていた問題(山形)

5月14日、山形地方裁判所の法廷に、黒スーツに黒ネクタイ、マスクを着用した1人の男が姿を現しました。初公判を迎えたこの男は、地域の安全を守る消防職員です。勤続35年、前科なし。

今年2月、男の常軌を逸した行動に多くの警察や県民が翻弄されました。

その衝撃の内容とは。

■強盗を"自作自演" 警察官らの業務を妨害

偽計業務妨害の罪に問われていたのは寒河江市柴橋に住む西村山広域行政事務組合消防本部の職員の男(50代)です。

起訴状によりますと男は、今年2月に大江町にある朝日少年自然の家の敷地内で「強盗被害にあった」などとウソをつき、警察官およそ170人に犯人の捜索や交通検問などを行わせ、正常な業務を妨害したとされています。

男は当初、自らの手足を縛り、80万円を2人組の男に奪われたと説明していました。

■間髪入れずに「間違いありません」

初公判で、マスク姿で証言台に立った男。認否について問われると、間髪入れずに落ち着いた声で「間違いありません」と罪を認めました。

そして、検察官による冒頭陳述などが始まります。

静かに聞く男の前で、検察官や弁護側から驚きの内容が明かされました。

■"遊興費"で膨らんだ借金

男が犯行に至ったきっかけ。それはあまりに身勝手なものでした。

検察によりますと、男は2017年以降、ギャンブルに使うため消費者金融や銀行から借金を繰り返すようになりました。今年1月の時点で、少なくとも500万円の借金があったとされています。

今年1月下旬には男の勤務先に債権者から通知が・・・

期限となる2月18日までにおよそ83万円を用意できなければ男の給与を差し押えるといったものでした。

返済する83万円は、工面できるはずもありません。絶体絶命のピンチです。

しかし、男はこんな状況にも関わらず、借金の件を把握した上司に対して、期限までに支払いが可能であると話していたといいます。

■妻に言えなかった

さらに、男は借金を身内に返済してもらった過去があり、妻には「次に借金したら離婚」などと言われていたということです。

こうしたいきさつから、男は妻に今も借金があることを伝えていませんでした。

■妻の同情を引く作戦

そんな状況で借金の返済金を妻に用意してもらうのは難しいはず・・・しかし、男は返済方法を考える中で、とんでもない奇策を思いついてしまうのです。

男は、妻に返済するカネを用意してもらう方法として、現金80万円の強盗被害を"自作自演"することを決意しました。妻の同情を引き、返済のためのお金を用意してもらおうと考えたのです。

そして、返済期限である2月18日に犯行に至りました。

■自殺を試みていた

裁判が進む中で、弁護側はさらに衝撃的な事実を明かしました。

なんと、男は強盗被害を"自作自演"する直前、自身が死亡したことで発生した「生命保険金」で借金を返済しようと考え、自宅で自殺を試みていたのです。

それも「自殺だと発覚すれば生命保険金がおりない」との理由から、「他殺に見せかけた自殺」です。

男は、何者かに自宅を荒らされ殺されたことにしようと考え、ドアやふすまを開け、カーテンなどを荒らします。

そして、職場から凶器として持ち出した包丁を、自宅で自身の腹に向けましたが、痛みから自殺することはできませんでした。

その後、場所を変え、大江町の朝日少年自然の家に向かい首を吊ろうとしましたが、結局死ぬのが怖くなったということです。

結果的に男は自殺できませんでした。そこで、「返済用に用意していた80万円」を強盗に盗まれたことにして、妻に80万円を用意してもらおうと考えたのです。

強盗被害の"自作自演"は、巡り巡ってたどり着いた借金返済手段でした。

■予想外の出来事が

しかし、男の策略は計画通りにはいきません。強盗被害を"自作自演"する際、何とも予想外のことが起きてしまいました。

弁護側によりますと、男は強盗被害を装うため、手足を自ら縛りました。ランニングシューズのひもで手を、商売道具である防火長靴のひもで足を縛ったといいます。

そして、男は現場付近で仕事をしていた作業員に「妻に連絡してほしい」と伝えようとしました。しかし想定外だったのは、男を助けた3人のうち1人が110番通報してしまったことでした...

強盗被害に遭った旨を妻に伝えるつもりがダイレクトに警察に伝わってしまいました。

その後、警察の取り調べの際、男は強盗が虚偽である旨を言おうと思ったものの勇気が出ず、犯行翌日に妻を通して警察に伝えたということです。

■「やめようとしたことはなかった」

犯行のきっかけとなったギャンブル。

被告人尋問で男は、裁判官に「これまでにギャンブルをやめることを考えなかったのか」と問われると「やめようと思えばやめられると思っていたがやめようと決心したことはなかった」と口にしました。

裁判は即日結審。

検察官は拘禁刑1年を求刑したのに対し、弁護側は執行猶予付きの判決を求めました。

また、男は裁判官から「言い残したことはあるか」と問われると、「多くの人に迷惑をかけ、公務員の信用を失墜してしまった」と涙ながらに謝罪をしました。

■執行猶予付きの有罪判決が言い渡される

そして迎えた6月3日の判決公判。

裁判長は「ウソの通報で地域の安全を守る警察官およそ170人の本来の業務を妨害した結果は重く、犯行の一因となった借金についても家族への相談などの適切な対処が容易だったのにも関わらず、ウソにウソを重ねていて酌むべき事情はない」としました。

一方で「事実関係を素直に認め、深く反省していること、犯行の一因であるギャンブルの依存についても今後は専門家の指導を受ける準備をしていること」から拘禁刑1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。

■事件は防げなかったのか...今後は治療を受ける意思

長年に渡り県民の安全を守ってきた男はギャンブルに翻弄され、地域社会を翻弄することになりました。

刑が確定した6月18日、男は地方公務員法に基づき失職。消防士として積み上げた35年のキャリアの幕切れはあまりに虚しいものでした。

強盗事件をでっち上げ警察官170人を動かした代償は決して小さなものではありませんでした。

これまではギャンブル依存症だと思っていなかったという男...裁判では、今後は治療を受ける意思を示しました。

警察、県民、妻。多くの人々に迷惑をかける前に、自身が置かれている状況に気付くことはできなかったのでしょうか。事件をでっち上げること以外、本当に方法はなかったのでしょうか。そう思わずにはいられない事件です。