そりゃ少子化が改善するわけがない…「結婚したい若者」を無視して「結婚した高所得者」を支援する政府の的外れ

■実はシンプルな「少子化の要因」
少子化の最大の要因を構造的に解き明かせば、実にシンプルで、「第一子出生数の激減に尽きる」と言えます。
(参照→若者の「価値観の変化」でも「恋愛離れ」でもない…政府が無視し続ける「少子化が止まらない根本原因」)
第一子出生という「ゼロイチ」が発生しない限り、第二子も第三子も永遠に産まれません。そして、ゼロイチを発生させるためには婚姻が必要となります。「出生は婚姻に依存する」。これは紛れもない事実だからです。婚姻といっても出生に寄与するという点で言えば初婚、それも若いうちの初婚が重要です。裏返せば、少子化とは20代の初婚の激減こそが本質的な課題となるわけです。
少子化対策というのなら、課題である「なぜ若者が結婚できなくなっているのか」を明らかにするとともに、目標とすべきは「若者(特に20代)の初婚数を増やす」以外に道はないはずなのに、具体的な対策としてそれが講じられたことはほぼありません。
こども家庭庁の少子化対策は、すでに子のいる世帯に対する子育て支援一辺倒に終始し、予算だけが膨らんで効果なしが続いています。子育て支援そのものは重要でやるべきことですが、その支援すべき子どもが産まれてこなくなったら元も子もないでしょう。
■世界で指摘される「卵子凍結の弊害」
不妊治療の保険適用拡大などもありましたが、全体の出生数・出生率への寄与は極めて限定的です。もちろん、そうした悩みを抱える夫婦にとっては「救い」であり、否定はしませんが、それもすでに「婚姻したカップル」対象の政策です。
また、卵子凍結の支援についても、将来的な第一子出生の可能性を残すという意味とはいえ、むしろ「凍結したからとりあえず安心」という結婚そのものへの先送りを助長します。その弊害は海外の専門家含め指摘されています。
困っている人に対する手当という意味では評価はできますが、どうも本質をあえて「見ないフリ」をして、とりあえず二次的な対処ばかりをしている印象です。たとえるなら、「おなかが痛いと訴える患者に対して痛み止めの薬を処方するだけで本当の痛みの原因を治療しようとしない」または「家が雨漏りしているのに、バケツを置いて水を受けるだけで、屋根を直さない」のようなものです。
それは、本質的な問題の解決にならないばかりか、そうした目先の対処法だけを続けていれば、必ずのちに重病化や家の倒壊という深刻な事態を招くだけです。今の少子化対策がいかに的外れなのかがわかるでしょう。
■「晩婚化」という政府・マスコミの嘘
さらには、事実認識においても頓珍漢なことが多い。
初婚減は当然ながら未婚化によるものなのですが、相変わらず政府文書やメディアの報道では「晩婚化」などという言葉が出てきます。これは一見、もっともらしく聞こえますが、事実として今は晩婚化など起きていません。
確かに、晩婚化があった時期はありました。ちょうど2005〜2015年あたりにおいては、20代の初婚が激減した中でも30代以上の初婚が若干増えたことで全体の減少幅を抑制していました。しかし、もうそんな現象は起きていません。厳しい言い方をすれば、いまだに「晩婚化」などと言っているのなら、あまりにお粗末です。
以下のグラフは、男女年齢別の初婚率を2015年を基準点として、前後2000〜2024年までの増減推移を示したものです。

男女とも20代は一貫して減少し続けていますが、30代は2015年までは上昇基調にありました。この期間までは確かに「晩婚化」と呼んでもいいでしょう。
しかし、その後、特に女性に関しては、急上昇した30代の初婚率も2015年以降は急降下し、20代の減少と同じ推移を辿っています。女性30〜34歳で言えば、2000→2015年にかけて初婚率は24%上昇しましたが、2015→2024年にかけては30%も減少しています。
つまりは、2024年の30〜34歳の初婚率は2000年の初婚率すら下回っているということです。これは35〜39歳でも同様です。2015年以降の日本で起きているのは、晩婚化ではなく、全体の初婚減=未婚化なのです。
■変化したのは「価値観」ではない
これに対し「平均初婚年齢は年々あがっているのだから晩婚化と言える」という声も聞くのですが、細かく推移を辿ると、女性の平均初婚年齢は2000年27.0歳に対し、2015年は29.4歳。この期間は平均年齢が2.4歳も上昇していますが、2024年は29.8歳であり、2015年と比べてたいしてあがっていません。つまり、平均初婚年齢もすでに10年前から上げ止まっていたわけです。
要するに、直近10年で起きたのは、20代のうちに初婚に至らなかった場合は、後ろ倒しで30代で結婚することもなく、最終的にそのまま非婚化という構造変化です。「晩婚化だから……」などといつまでも悠長なことを言っている場合ではありません。
これを若者の価値観の変化だと論ずるのも的外れです。若者の結婚離れなどは起きていません。出生動向基本調査によれば、結婚に前向きな割合は、1990年代から男性4割、女性5割でほぼ一定です。若者の価値観が変わったのではなく、若者を取り巻く環境や構造が変わってしまったのです。
もっとも大きな理由は、結婚経済環境の変化です。昨今、インフレで物価高が叫ばれていますが、物価高になる以前に、この「結婚可能経済力」のインフレが起きました。
■「結婚可能な年収」が400万→800万へ
SMBCコンシューマーファイナンスでは、20代男女を対象として、結婚しようと思える世帯年収について経年調査をしていますが、半数以上が「結婚可能な年収」としてあげているのは、2015年時点では400万円でした。20代の年収のボリュームゾーンは300万円台ですから決して無理な数字ではありません。
しかし、2024年になるとそれが600万円へと上昇し、直近の2026年には800万円に達しています。10年で倍増してしまいました。もちろん、この10年で20代の年収が倍増したわけではありません。ただ結婚するために必要な年収の意識が高騰したのです。
その意識は実態として表出しています。国民生活基礎調査より、2015年と2024年とで、20〜30代世帯主を対象として、児童のいる世帯といない世帯の年収分布を比較すると如実に経済階級で、その可否が明確に分かれています。
2015年時点では、世帯年収300万円台でも60%が結婚して子どもを持てていました。それが、2024年には22%へと38%ポイント激減します。同様に400万円台でも37%ポイント減です。これら300万〜400万円台の年収がもっとも人口的に多いにもかかわらず、そこが大幅に減少していることがすなわち若者の初婚減のすべてといっていいでしょう。

一方、年収800万〜1000万円では15%ポイント増、1500万円以上だと20%ポイントも増加しています。これが何を示すかというと、経済階級上位の若者だけが結婚して子どもを持てる反面、ボリューム層である中間層の若者が結婚できなくなったことを意味します。いわば、あまりに結婚の価格がインフレしすぎて、もはや「結婚は贅沢品」と化したのです。
■なぜ「中間層」に目を向けないのか
ここで重要なのは、決して貧困になったからではないことです。あくまで中間層であり、年収も中央値のレベルであるにもかかわらず、「中央値年収では結婚できなくなった」ことにあります。中央値でできないなら未婚率は50%以上になります。
最近「20代の持ち家率が過去最高になった」というニュースが話題となりました。家計調査のデータを基に、二人以上世帯の20代以下の世帯の持ち家率が、2000年19.7%から2025年40.7%と大きく伸長したというわけですが、これはあくまで二人以上の世帯、つまり結婚した夫婦世帯に限った話です。
20代夫婦の持ち家率があがっているとはいえ、そもそも20代での婚姻数は減少している。むしろ、これは、持ち家を買えるような経済的に余裕のある層しか20代のうちには結婚できない状況を示しています。
■「普通の崩壊」が起きている異常
一事が万事、政府の政策もメディアの報道も、不気味なくらい中間層の若者を透明化します。晩婚化などはないのにいつまでも晩婚化と言い続けます。少子化とは結婚した夫婦の出生数が減っているのではなく、若者の初婚数が減って第一子が産まれてないことという本質的な問題を伝えません。そして、未婚化は「若者の価値観の変化だ」などと逃げるわけです。
一方で、共働きだ、育休だ、保育の無償化だ、ベビーシッターだ、とすでに結婚できている経済上位3割層にだけ恩恵のあることばかり実施します。
すべてが的外れになっており、少子化など改善するわけがありません。
何も上位3割層の足を引っ張ろうというのではなく、子育て支援をやめるべきと言いたいわけでもありません。が、今起きているのは「普通の崩壊」です。普通に働いて普通の年収を得る若者が普通に結婚して家族を持てるという「普通」が崩壊しています。普通が普通ではなくなる異常性こそ一番の課題であり、そこをいつまでも無視しているわけにはいかないのではないでしょうか。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
