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京都大学が、築113年の吉田寮「現棟」を建て替える方針を打ち出したことが、学内で波紋を広げている。

大学側が寮生らの退去を求めて約6年半続いた裁判は、2024年2月に京都地裁で寮生側が一部勝訴し、翌2025年8月に大阪高裁で和解が成立。寮生は和解に基づき、一時退去したうえで、耐震工事(建て替え工事を含む)後に再び入居できることとなり、今年3月末までに退去を終えた。

しかし大学は4月14日、「現棟」を建て替える方針を発表。新たに創出する空間について、「全学生の共有財産として、全学生のための福利厚生およびキャンパス全体の教育環境の質的向上が図られるよう」にすると打ち出したのだ。

この方針に対し、吉田寮自治会は抗議声明を発表。教員有志も方針のいったん撤回を求める声明を出している。

国内にある現役の大学寮として最も古い吉田寮「現棟」の建て替え方針をめぐって何が起きているのか。大学側にも和解との関係について聞いた。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

●和解に基づき一時退去した直後、大学が建て替え方針を公表

6月10日夜、京都大学で開かれた学習会には、学内外から多くの参加者が集まった。主催した吉田寮自治会は、和解成立後の経緯を振り返るとともに、大学が建て替え方針を公表した2日後に発表した抗議声明について説明した。

「和解成立以降、当事者である吉田寮自治会との話し合いが一切ないまま、唐突かつ一方的に発表されたことが声明の骨子です。まずは当事者である吉田寮自治会との対話を一刻も早く再開することが最重要事項だと考えています」

昨年8月の大阪高裁で成立した和解では、一審で勝訴した「現棟」の寮生について在寮契約を認めることや、寮生が今年3月末までに一時退去し、耐震工事(建て替え工事を含む)後に再び入居できることなどで合意していた。

寮生は和解内容に従って3月末までに退去した。その後、大学は「現棟」の周囲をフェンスで囲み、「立入禁止」の看板を設置した。

そして4月14日、大学は「現棟」を建て替え、「全学生の共有財産として、全学生のための福利厚生およびキャンパス全体の教育環境の質的向上が図られる」施設として整備する方針を公表した。

寮自治会は、裁判中も和解成立後も、大学側に対話の再開を求め続けてきた。その背景には、2015年まで大学と自治会の間で交わされていた確約書がある。

確約書では、「大学当局は吉田寮の運営について一方的な決定を行わず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上で決定する」とされていたが、大学側は2017年の方針転換以降、この確約を前提としない対応を取っている。

また、2024年2月の京都地裁判決では、「現棟」に在寮していた17人のうち14人について退去義務はないと判断されたほか、確約書の法的有効性や寮自治会の法的主体性も認められた。

自治会側は、こうした判決や和解の経緯を踏まえてもなお、大学が自治会との協議を経ることなく建て替え方針を打ち出したことに反発している。

●教員有志からも異論「一審判決や和解の経緯を踏まえていない」

この大学の対応に対しては、教員からも異論が上がっている。

「対話による吉田寮問題解決を求める教員有志の会」は、大学に対し建て替え方針のいったん撤回を求める声明を公表した。

学習会で登壇した伊勢田哲治教授(文学研究科)は、4月14日の発表について、「驚いた」と振り返り、大学側の対応は一審判決や和解の経緯を踏まえていないとの認識を示した。

「一番の当事者である吉田寮自治会の意見を聞くところから入るのが当然だ、というのが最初の論点です。それと、一審判決を完全に無視しているところも気になったところです。

寮自治会の交渉主体としての性格を認め、確約の有効性を認めることが一審判決で出ています。それを受けての和解案です。それをまったく無視した大学側の一方的な対応は、裁判所がわざわざ判決理由として書いてくれたことを無視しています」

高山佳奈子教授(法学研究科)も登壇し、「3月末の一時退去は耐震工事のために退去することが当然の前提で、壊すと言い始めるのは誰が見ても騙し討ち」と大学側の対応を批判。学内の基幹会議でも疑問を呈する声が上がったことを明らかにした。

さらに高山教授は、最高裁判例を踏まえた自身の見解として、大学側の対応について刑法上の問題が生じる余地があると指摘した。

一つは、和解で在寮契約が認められた「現棟」を取り壊した場合、建造物損壊罪が問題となる可能性があること。もう一つは、和解条項には盛り込まれていない「立入禁止」の告示について、みなし公務員である京大職員による「公務員職権濫用罪」にあたる可能性があるというものだ。

大学は5月29日、「本建物および敷地は、所有権に基づき、現在、国立大学法人京都大学が管理・占有しており、在寮資格があるとされた者も含め、一切の立入りを禁じている」と告示している。

高山教授は、この告示についても、和解内容との関係から法的な検討が必要になるとの見方を示した。

学習会では、「現棟」の歴史的価値についても議論がおこなわれた。登壇した京都工芸繊維大学の笠原一人准教授は、2015年に日本建築学会近畿支部が京都大学へ保存活用要望書を提出した際に、見解書をまとめた人物でもある。

笠原准教授は、「現棟」が現役の大学寮として国内最古であることに加え、和洋折衷の意匠や1913年当時の建築技術を取り入れた貴重な建築物であると説明。そのうえで、重要文化財として保存・活用していくことも一つの選択肢になり得るとの考えを示した。

●京都大学「正式な自治組織としては認めていません」

吉田寮の建て替え方針に対し、寮自治会や教員有志は抗議声明を発表している。これに対し、大学側はどのように考えているのか。筆者は、和解条項との関係や今後の対応について京都大学に質問した。

最初に聞いたのは、和解条項に盛り込まれた耐震工事について。和解では、大学が「速やかに耐震工事に着手し、遅くとも5年以内に工事を完了することに努めること」と、「京都大学ホームページにおいて、可能な範囲で工事計画を公表すること」が盛り込まれている。

しかし、現時点では具体的な工事計画は公表されていない。

そこで、工事計画や内容、公表時期について尋ねたところ、大学は「今後、基本計画と学内の意見集約を進め、早期の着工を目指します」と回答した。

続いて、「全学生の共有財産として、全学生のための福利厚生およびキャンパス全体の教育環境の質的向上を図る」とした建て替え方針は、在寮契約を認めた和解条項との関係をどのように整理しているのか質問した。

これに対し大学は「和解条項の詳細に関するお問い合わせには回答を差し控えますが、本方針は和解条項を踏まえて定めたものです」と答えるのみだった。

また、寮自治会や寮生が求めている耐震工事の検討状況の開示や、話し合いに応じる考えがあるかについても質問した。

すると、「本学は、平成30年1月以降、吉田寮への新規入寮を認めておらず、吉田寮を不法に占拠する者達が自称する吉田寮自治会という団体を正式な自治組織としては認めていません」と回答した。

さらに、

「『吉田寮の今後のあり方』(2019年2月発表)の方針を満たして新棟に居住し、責任ある自治に基づき共同生活の運営を行う意思のある寮生とは話し合いを行うとしてきたところですが、そのような者は今までにおりません。

その他の者について、大学は新棟への居住を認めておらず、無断で居住する者やそのような者の集団について、寮生と対話することは現状考えていません」

とし、自治会との対話を再開する考えは現時点ではないとの認識を示した。

また、和解条項には明記されていない立入禁止措置の法的根拠について質問したところ、

「吉田寮現棟は、耐震性を欠く極めて危険な状態にあるため、同建物および敷地を所有権に基づいて管理・占有する国立大学法人京都大学として、在寮資格の有無にかかわらず、一切の立入りを禁じ、立入禁止措置を講じています」

と回答した。

●「対話」を重視する教育理念を掲げる京都大学

今回の取材に対する大学の回答からは、建て替え方針は和解条項を踏まえて決定したとの立場を維持する一方、自治会については正式な交渉相手とは位置付けず、対話を再開する考えも現時点ではないことが明らかになった。

一方で、自治会や教員有志は、一審判決や和解の経緯を踏まえれば、建て替え方針の決定や立入禁止措置は十分な説明や協議を欠いていると主張している。

建て替え方針や立入禁止措置が和解内容とどのように整合するのか。また、「対話」を重視する教育理念を掲げる京都大学として、今回の対応をどのように説明するのか、引き続き問われていきそうだ。