【タガメ】アリと乾燥から卵を守るため「産卵場所を厳選」していた【長崎大学・倉敷芸術科学大学】
長崎大学の大庭伸也准教授、倉敷芸術科学大学生命科学部環境生命科学科の渡辺黎也助教らの研究グループは、絶滅危惧種の水生昆虫・タガメが、天敵であるアリからの捕食リスクや乾燥リスクの低い場所を厳選して産卵していることを、野外調査と室内実験から明らかにしました。
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この研究の成果は英国昆虫学会誌『Ecological Entomology』に2026年6月7日付で公開されました。
研究の背景――オスが守る卵、しかしメスの「選択」は未解明だった
タガメは、メスが水面上に突き出た植物や棒などに卵塊を産卵し、その後オスが卵に給水しながらアリなどの天敵から保護する繁殖生態を持ちます。オスによる保護がない卵は、乾燥やアリの捕食によって孵化に至りませんでした。
そのため、メスはあらかじめ孵化成功率の高い場所を好んで産卵している--すなわち「産卵場所選好性」を持つ--可能性が考えられていました。しかし、タガメ亜科においてその実態はこれまで未解明でした。
現在、タガメは環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類および特定第二種国内希少野生動植物種に指定されており、本種の繁殖生態を解明することは、具体的な保全策を講じるうえで極めて重要な知見となります。
こうした背景から、研究グループは生息地での野外調査と室内実験を組み合わせ、タガメの産卵場所選好性の解明に取り組みました。
研究の成果――「岸から離れた日陰」を選ぶメスの戦略
一連の調査・実験の結果、タガメの産卵に関して以下の点が明らかとなりました。
産卵場所の選好性については、タガメのメスは池の上空を覆う樹木の下を好み、陸伝いにアリが接近しにくい「岸から離れた位置の棒」に多く産卵していました。また、日陰になる場所や、木の明るい面よりも「暗い面(日陰側)」を好んで産卵する傾向が見られました。
オスの「日傘行動」
孵化率とオスによる保護については、卵塊を人工的に「日陰向き」と「日向向き」に配置した実験において、日向向きよりも日陰向きの方が、孵化率が有意に高いという結果が得られました。
これらの結果から、メスはアリが来ないような岸から少し離れた場所や日陰になりやすい場所に産卵することで、オスの「日傘行動」と相まって卵塊の乾燥リスクを低減させ、結果として孵化率を効率的に高めていると考えられます。
保全への貢献――産卵環境の設計に道筋
この研究の結果は、絶滅危惧種タガメの適切な産卵環境(棒の配置)を明らかにすることで、孵化率の向上と個体数の回復・増加に大きく貢献する重要な成果といえます。
個体数の減少が続くタガメの保全において、繁殖生態の詳細な把握は不可欠です。メスが産卵場所として何を「評価」しているかが具体的に示されたことで、生息地の整備や産卵促進のための環境設計に、科学的根拠に基づいた指針をもたらすものとなりました。
