記事のポイント
ザック・ポーゼンの起用により、Gapの消費者意識が大きく変わりはじめた。
セレブ着用と限定販売を組み合わせ、話題と購買を同時に生み出している。
クリエイティブ刷新が業績改善にもつながり、ブランドの再評価が進んでいる。


いかにも米国らしく、ハッピーで、そしてアイコニックなかっこよさも確かにある。

しかし、創業56年を数えるギャップ(Gap)に対して、いわゆる「ハイファッション(究極のおしゃれ)」という言葉が使われることは、これまでほとんどなかった。2024年2月にザック・ポーゼン氏が加わるまでは。

それ以来、ポーゼン氏にとっての「ファッションの遊び場」という表現がふさわしいブランドの新ライン「GapStudio(ギャップ・スタジオ)」、は、数多くのレッドカーペットや超一流セレブリティの身を包み、消費者が抱くギャップスタイルの概念を塗り替えながら、大きな話題と需要を呼び起こしている。

ポーゼン氏就任で「ギャップ=日常服」という認識が変わりはじめた



2024年5月にアン・ハサウェイが着用したGapStudioのカスタム・シャツドレスは、158ドル(約2万3700円)という価格で市販化されたが、ブランド側の報告によれば、わずか数時間で完売した。

同様に、ティモシー・シャラメが2025年アカデミー賞ノミニー・ディナーで全身GapStudioのルックを纏って登場したあと、同社はそのセットアップを限定発売したが、これも瞬く間に完売した。

ほかにも、2024年メットガラでのダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、2024年CFDAアワードでのシンシア・エリヴォ、2025年の授賞式でエミー賞史上最年少受賞者となったオーウェン・クーパー、さらにはエミリー・ラタコウスキー、デミ・ムーア、マイケル・B・ジョーダンなど、このラインを着用した著名人は枚挙にいとまがない。

初のフルラインとなるGapStudioウィメンズコレクションは2025年4月に全米で発売され、続いて11月にはメンズが発売された。

セレブ着用と限定ドロップが話題と需要を一気に押し上げた



「セレブリティに衣装を提供することは、新しい世代にブランドを認知させ、文化的な対話のなかに大きな形で入り込むことを可能にする」と、ポーゼン氏は語る。

「今日、我々はこうした文化的な瞬間を通じて消費し、コミュニケーションし、学んでいる。だからこそ、その効果は確実に見えている。人々の関心や、サイトへのアクセス数という形でだ。我々が制作するルックのなかには、製品化するものもあれば、しないものもある。単なる『インスピレーションの瞬間』としての役割だけであっても、それはそれでよいのだ」。

ポーゼン氏は、2023年8月からギャップの最高経営責任者を務めるリチャード・ディクソン氏が、そうした試みを許可し、実験を奨励してくれたおかげだとすぐに謝意を表した。

「ブランドを書き換えるには、驚きが必要であり、『もしこうだったら?』や『なぜやらないのか?』という問いに真剣に向き合う必要がある。それは私がCEOに対して高く評価している思考プロセスであり、真剣に捉えていることでもある」。

「作るための服」ではなく文化的瞬間を生む服という発想



ポーゼン氏は、ギャップ社(Gap Inc.)のエグゼクティブ・バイスプレジデント兼クリエイティブ・ディレクター、および傘下ブランド「オールドネイビー(Old Navy)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして入社した。

2001年から2019年まで自身の名を冠したファッションレーベルを運営し、華やかなガウンやニューヨーク・ファッションウィークでの季節ごとのショーで彼を知る人々にとって、この就任は予想外であった。しかし、ポーゼン氏が語るには、彼はこれまでのキャリアのすべてを、この役割のための訓練に費やしてきたのだという。

「一部の人は『ああ、オートクチュールのガウンを作っていた人だね』と思うかもしれない。だが、20年間起業家として自分のビジネスを切り盛りしてきた経験や、大企業(クリエイティブ・ディレクターを一時務めたブルックス・ブラザーズ(Brooks Brothers)から、制服をデザインしたデルタ航空(Delta)、そのほかあらゆる企業)との仕事の経験が、私を準備させてくれたのだ」と彼は言う。

「『プロジェクト・ランウェイ』の審査員などでのテレビ出演や、料理本の執筆の経験さえも役に立った。このような職務に備えるための要素は非常に多くあるが、それらを数式に当てはめたり、カレンダーどおりに進めたりすることはできない。そして、これは私が予想していた形でも場所でも方法でもなかったが、実際には非常に理にかなっているのだ」。

クチュールのデザイナーではなく「総合的なブランド構築者」としてのポーゼン氏



ギャップ社において、ポーゼン氏のファッションに対する審美眼は、ブランドや部門の垣根を越えて活用されている。

シニアリーダーシップチームの一員として、ある日は役員会議に出席し、またある日はAIが会社のテクノロジーの進化にいかに情報を提供できるかについて意見を述べている。

「我々は、消費者が将来のブランドをどう見るか、さらには我々がどのように伝え、物語を紡ぎ、繋がっていくかを再定義している。そして世界観を構築し、各ブランドの目的を明確にし、その背景にあるマーケティングや製品ストーリーを固めている」と、彼は現在の経営陣の注力ポイントを説明する。

「すべては継続的な動きと、境界線を押し広げることにある。私は常に気を引き締めている。日々の大きな問題や課題に取り組み、発生する問題を特定して修正しながら、誠実さと戦略、そして配慮と知性を持って全力で取り組んでいる。そして、物事がうまくいっているこの瞬間に立ち会えるのは素晴らしいことだ」。

ブランド横断で進む世界観再構築と経営への深い関与



事実、ギャップ社は快進撃を続けている。

11月20日に発表された同社の第3四半期決算では、売上高が前年同期比3%増の39億4000万ドル(約5910億円)となり、ギャップ、オールドネイビー、バナナ・リパブリック(Banana Republic)の各ブランドで売上が増加した。既存店売上高は7四半期連続で増加し、5%増となった。

これらは、現在の消費者心理の状態を考えれば大きな勝利である。ましてや、ディクソン氏が玩具大手マテル(Mattel)から移籍してくる前のギャップが着実に売上を落としていたことを考えればなおさらだ。

同社の時価総額は、2020年の約400億ドル(約6兆円)から2023年には84億1000万ドル(約1兆2600億円)まで下落したと報じられていた。

「ザックは我々のリーダーシップチームにとって素晴らしい新戦力であり、社内外の多くのクリエイティブな側面に大きな影響を与えている」と、ディクソン氏は決算説明会で述べた。

「ブランド全体でクリエイティブな会話のレベルを引き上げ、デザインや製品をすべてのブランドにおいて極めて重要な特性として際立たせる手法は、うまく機能している。以前であればギャップ社や我々のブランドを検討もしなかったような才能ある人材を、今や惹きつけているのだ」。

ブランド再生は数字にも表れはじめている



クリエイティブ面では、ギャップ社は2025年、サマー・フライデーズ(Summer Fridays)、ドーエン(Dôen)、サンディ・リアン(Sandy Liang)との製品コラボレーションの開始や、歌とダンスに焦点を当てたキャンペーンの復活など、世間を賑わせる動きを次々と打ち出した。

秋のデニム・キャンペーンではガールズグループのKATSEYE(キャッツアイ)を起用し、80億回のインプレッションと5億回の再生回数を記録した。9月にはオールドネイビーがハンドバッグ・コレクションを再導入したが、そこにはポーゼン氏の手腕が明確に反映されている。

「オールドネイビーは、市場でも最高品質のスタイル製品を適正な価格で提供しており、そのスタイルの進化と顧客層の拡大に携われるのは素晴らしいことだ」とポーゼン氏は語る。「唯一無二のブランドであり、これからもっと多くのことが起こるだろう」。

[原文:How Zac Posen is changing consumers’ perception of Gap style]

Jill Manoff(翻訳、編集:藏西隆介)