■トランプ政権、予想を超える速さで政策展開

1月20日にトランプ政権が発足してから早くも2カ月が過ぎた。その間、トランプ大統領は、予想を上回るペースでさまざまな政策を打ち出している。最近の消費者信頼感指数などの経済指標を見る限り、トランプ大統領の政策は必ずしも米国民に安心感を与えてはいないようだ。

写真=AFP/時事通信フォト
ドナルド・トランプ米大統領は2025年3月4日、ワシントンDCの連邦議会議事堂で行われた合同会議で演説を行った。 - 写真=AFP/時事通信フォト

もう一つ気になるのは、2月末までの間、世界の株式市場で米国株は一人負けという状況であることだ。その背景には、世界の景気を支えてきた、米国経済に減速の兆候が出始めていることがある。それに加えて、強引ともいえる関税政策などが消費者心理を冷やしていることがありそうだ。それは、アパレルや日用品、小売企業の経営者が、米国経済へのダメージについて警戒を示していることからもわかる。

一方、トランプ大統領は、国別・品目別の関税を強化する方針のようだ。また、イーロン・マスク氏率いる、政府効率化省(DOGE)が進める公務員のリストラで多くが退職に追い込まれる見込みだ。さらに、不法移民の送還、ウクライナ和平交渉の難航や中東情勢などの不安材料は多い。

■不安が広がるトランプ政策の行方

2月下旬、連邦準備制度理事会(FRB)関係者の中からも、トランプ政策のリスクを重視すべきとの表明があった。米国で物価上昇の懸念が再燃する一方、景気の減速懸念が迫るリスクが上昇しているということだろう。そこに、株価不安定化が加わるようだと、米国経済の先行きに赤信号がともることも想定される。株価や景気先行きの不安定化が、トランプ政策の歯止め役になればよいのだが、あまり期待できないかもしれない。

2月、世界の株式市場は0.6%下落した(MSCIオールカントリー・インデックス)。主な国や地域ごとに見ると、米国株式市場の下落が全体の足を引っ張った。ニューヨークダウ工業株30種平均株価は1.6%下落し、IT先端銘柄の多いナスダック100指数は2.8%下げた。

1月下旬のディープシークショックの影響もあり、米国株式市場では成長期待が高いエヌビディアなどIT先端分野の銘柄(グロース株)を売る投資家は増えた。売却した資金の一部は、生活必需品や電力などに代表される、相対的に値動きが安定している“ディフェンシブ銘柄”に流れた。

■世界株式市場で目立つ米国の「一人負け」

主要投資家の中には、景況感が悪化した国・地域に着目し、短期目線で資金を振り向ける動きも目立った。資金が流入した株式市場の一つが欧州だった。

2024年を通して、政治不安や中国経済減速、さらにはウクライナ戦争の長期化で、独仏など欧州経済は停滞気味に推移した。景気停滞懸念の高まりで、企業業績の先行き不透明感は高まった。

2月12日、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領と電話で協議し、ウクライナ戦争の停戦観測が浮上した。トランプ氏の対ロ政策は国際世論から非難される局面もあったが、主要投資家はそれよりも欧州株の割安感を評価し、短期目線で米国株を売った資金の一部を振り向けた。欧州中央銀行(ECB)が利下げ重視の方針を明確にしていることも、主要投資家にとって好都合だっただろう。

2月、ストックス・ヨーロッパ600指数は3%程度上昇した。ウクライナに近いポーランドの株価(WIG指数)は5%超上昇した。停戦で欧州の天然ガスのコストが低下すると、欧州経済にとっては大きな福音だ。先行きを楽観した投資家は多かったようだ。

■欧州株への資金シフトはなぜ起きたのか

中国の株価も上昇した。スタートアップ企業、“ディープシーク”のAIユーザー急増で、中国のAI関連銘柄に期待する投資家は増えた。中国政府による経済対策の発動観測もあり、中国株の買いを推奨する米大手金融機関は増えた。2月、香港ハンセン指数は13.5%上昇した。

米国株が一人負けに陥った背景には、米国経済の減速懸念が出たことに加えて、米国の消費者がトランプ政策への懸念を高めたことがありそうだ。コロナ禍以降の米国経済は、労働市場が逼迫気味に推移し、賃金は上昇傾向で消費は相応に活発だった。

昨年末までの4年間、実質ベースで賃金は上昇し、米国経済の約68%を占める個人消費は緩やかに増えた。旺盛な個人消費を背景に、企業の設備投資は底堅く推移した。ところが、トランプ政策による懸念の高まりで消費者心理が悪化している。

2月発表の経済指標を見ると、寒波や大規模な山火事の影響に加え、トランプ政権の関税や移民政策、政府機関の職員解雇で、物価・雇用環境の先行きを心配する消費者は増加している。2月のミシガン大学による消費者調査では、消費者信頼感が前月から下落する一方、5〜10年先のインフレ期待は3.5%、1995年以来の水準に上昇した。

■中国市場も回復の兆し、AI関連に期待

また、コンファレンスボードの消費者信頼感と6カ月先見通しは、約3年半ぶりの大幅な落ち込みを記録した。2月のS&P米サービス業購買担当者景況感指数(速報値)は、景気回復と減速の分水嶺とされる50を下回り約2年ぶりに49.7に下落した。

いずれも、先行きの経済環境の悪化を警戒し、支出を減らす消費者の増加を意味する。1月の米個人消費支出は実質ベースで前月から減少した。個人消費の変調は一時的か否か、先行き警戒感は高まった。

米国の企業経営者からも、トランプ政権の政策は消費者を混乱させるとの指摘が出始めた。耐久財から生活必需品まで幅広い分野で、生産拠点の移転の必要性が高まったとの認識を示す企業経営者も増加傾向だ。

労働市場にも、増加ペースが少しずつ鈍化する変化があった。トランプ政権の発足以降、週次で発表される新規失業保険申請者件数は緩やかに増えた。政府効率化省を率いるイーロン・マスク氏は、大規模な公務員の削減を重視している。その影響により、今後、労働市場の増加ペースの鈍化は鮮明化する可能性が高い。

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■消費者の不安が米国経済を揺るがす

関税政策への懸念に加え、トランプ氏の政策は、ウクライナ問題など世界の地政学的なリスクを高めるだろう。足許、経済の専門家の間では、「トランプ政権下の米国は主要先進国(いわゆる西側諸国)の信頼できるパートナーではなくなりつつある」との指摘が出始めた。

そのきっかけは、ウクライナ戦争の停戦をめぐりトランプ氏がロシア寄りの発言をしたことだろう。さらに、2月末、トランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領の会談は、激しい口論になり交渉は決裂した。

今後、トランプ氏とプーチン大統領が、ウクライナをさておいて一方的に停戦に向けた議論を進める恐れはある。米国が、他国の領土を侵略する国の行動を容認するような姿勢をとれば、台湾や南シナ海をはじめ中国の対外進出策はより強硬になることも懸念される。

■企業経営者からも懸念の声が続出

そうした事態になると、主要国や企業はエネルギーや戦略物資である半導体の調達体制の再編を急ぐだろう。自国の生産能力の増強に注力し保護貿易主義が増えると、世界経済全体の効率性は低下する。

そうなると景気の減速懸念が高まる一方、主に資材調達や人件費の増加で物価が上昇する懸念が高まる。米国をはじめ主要先進国のインフレ懸念は高まるだろう。一部の新興国では、自国通貨が減価してインフレが高進し、政情不安につながる恐れもある。トランプ政権が対中追加関税や制裁を発動し、中国も報復措置で応酬すると世界の供給網=サプライチェーンが混乱する懸念もある。

2月、米国の金融市場では株価だけでなく、信用格付けがBB格以下の“ジャンク級社債”の価格も下落した。関税や対中国、ロシア・欧州・移民などのトランプ政策によって、米国の消費者・企業経営者・投資家のマインドは悪化することが考えられる。今すぐではないかもしれないが、米国および世界の金融市場のリスクは上昇傾向になることが予想される。そのリスクは頭に入れておいたほうがよいだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)