〈トランプか、ハリスか〉大統領選の行方は全体のわずか2%、激戦7州「約200 万票」の態度未決定票が決める?

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11月5日投開票(日本時間では6日)のアメリカ大統領選は、トランプ、ハリス両候補の大激戦となり、どちらが勝ってもおかしくない状況だ。アメリカ政治に詳しい国際ジャーナリストで、国際教養大大学院客員教授の小西克哉氏に両陣営の動きや有権者の反応など、投票直前の注目ポイントを聞いてみた。

【画像】「有権者はゴミではない」ゴミ収集車に乗ってアピールしたトランプ

トランプは「垂直」、ハリスは「水平」に支持拡大を狙う

ジョージア、ミシガン、ペンシルバニアなど、勝敗を左右するとされる激戦7州でのトランプ、ハリス両候補の支持率差は誤差内の1~3%で、ほぼ横並び。どちらが勝者になるのか、まったく見通せない状況だ。

「長くアメリカの政治をウォッチしてきましたが、これほどの接戦となった大統領選は私も初めてです。勝敗は本当にぎりぎりまでわからない。『ほぼトランプ氏で決まり』とか『ハリスが勝つ』とか、軽々しく予測を口にする人がいますが、私からすればそんな人はペテン師としか思えません」(小西氏、以下同)

投票日直前までの両陣営の戦い方には、明らかな違いが見てとれるという。

「トランプ氏は男性、白人貧困層などの岩盤支持層をさらに掘り起こそうとしている。いわば、垂直方向に支持を広げる戦略です。

こうした手法をとることで共和党支持者だけでなく、本来、リベラル支持層である黒人、ヒスパニック系の男性であっても一定層を民主党支持から引きはがし、自陣に取り込めると計算しているのでしょう。

それに対してハリス氏は水平方向、それも左軸に位置するリベラル層というよりは右軸にある保守層の女性に狙いを絞って支持を訴えるという作戦に出ています。

というのも、共和党の女性支持者の中にはトランプ氏の過激で差別的な言動を嫌い、投票をためらっている人が少なくないんです。

ハリス氏は人口妊娠中絶の自由を女性の権利として主張していることもあって、女性受けはいい。そこで女性保守層がいる右軸にウィングを広げることで支持拡大を狙っているのです。とくに選挙終盤のここ2~3か月間は両陣営ともそうした傾向が顕著でした」

激戦7州の「約200 万票」が全米の今後を決める

垂直方向、水平方向の違いはあれ、トランプ、ハリス両陣営とも相手の支持基盤に手を突っ込んで票の掘り起こしに注力してきた。

選挙最終盤になってトランプ氏が民主党の牙城であるニューヨークで、そしてハリス氏がトランプ陣営の大票田であるテキサスで、大規模な政治集会を開いたのがその典型です。

「トランプ氏は応援弁士に筋肉ムキムキの元プロレスラー、ハルク・ホーガンを招き、『不法移民2000万人をアメリカから追い出す』などとマッチョな演説をマジソンスクエアガーデンでぶち上げ、これまで掘り起こせなかったリベラル男性層にアピールをしました。

一方のハリス氏は人気女性歌手のビヨンセとともに赤い州(共和党)の大票田であるヒューストンの演説会場に現れ、人口妊娠中絶の重要性を強調してみせた。こちらは明らかに保守的な女性有権者がいる右軸にウィングを伸ばそうという動きとえいます」

米大統領選は各州の勝者がその州の選挙人を総取りするというルール。だから、トランプ氏にしろハリス氏にしろ、相手陣営の勝利がほぼ確実なニューヨークやテキサスで今さら集会をやったところで勝てる見込みは薄く、選挙人の上積みなど期待できないはず。それだけに、これにはどういった狙いがあるのか?

「両陣営があえて莫大な資金と労力をかけて敵地で大集会を開いたのは、自分が敵地でもこれだけ大きな支持を得ているということを全米の有権者に誇示することによって、激戦7州をはじめとする他州の投票先未定者に一票を投じてもらおうとしているのです。

しかも、この票の掘り起こしはまさにマイクロターゲットをピンポイントで狙うミクロな戦いとなっています。人口3.6億人のアメリカですが、有権者登録数は1.7億人ほど。投票率が60 %前後として、米大統領選はだいたい1億票前後をめぐる争いとなる。

ただし、これだけ僅差の戦いとなっているため、焦点は激戦7州の態度未決定票約200 万票の動向に移っている。1億票の200万票だから全体のわずか2%。このマイクロな票数の動きによって激戦7州の勝敗が決まり、全米での勝敗が確定するという状況になっているのです」

はたして勝利の女神がほほ笑むのは? アメリカ大統領選は5日朝(日本時間同日夜)、東部各州から投票が始まる。

(#2に続く)

取材/集英社オンライン編集部ニュース班