「手短に本人確認を」「機嫌が悪いのでよろしく」...”地面師グループ”が用意したツッコミどころの多すぎる《地主のなりすまし役》

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第37回

「120%本人だ、信用してくれ!」...“不動産のプロ”が「地主」に会わせてもらえず不安を抱えながらも「不審な土地取引」を続けてしまったワケ』より続く

ついに呉と面談

台湾華僑の呉に息子はいるが、そのほかはでっち上げばかりだった。だが、買い手である地道たちにとっては、呉の身辺情報に多少の間違いがあっても構わない。不動産業界ではその手のあやふやな情報が流れるのは日常茶飯事だからだそうだ。それよりむしろ土地の所有者本人と会い、確認できればいい。かなりの胡散臭さを感じてはいても、そう考えたのだという。

ただしその地道たちでもさすがに一度も地主と会わないまま、土地取引をすることはできない。そこで執拗に面談を求めた。それがかなったのは、土地の代金支払い日である代金決済日のわずか3日前の9月7日だ。

戦後の日本で財を成し、富ヶ谷の地主となった台湾華僑の呉が、地道たちの前に初めて現れる。少なくとも地道たちがそう思い込んで臨んだ会談の場所は、例によって諸永総合法律事務所だった。地道と神津、吉永や山口のほか、不動産登記の手続きをおこなう地道側の司法書士とともに呉と対面したという。

「われわれが事務所に到着すると、呉さんは食事に出かけているといわれ、吉永や山口としばらく待っていました。その間、吉永が『呉さんは腰の調子はだいぶよくなったけど、高齢で耳が遠いので、本人確認はできるだけ手短に願いたい』と言っていたのを明確に覚えています。その言葉に加え、山口が『呉さんは公証役場の手続きで時間がかかったので、機嫌が悪い。なので、そこもよろしく』などと調子よく話していました」

すべてが偽造されたもの

会談は昼食後にセッティングされた。地道が当日の記憶の断片をつなぎあわせた。

「たしか食事から戻ってきたと言って事務所に入ってきた呉さんは、いきなりバッグのなかからパスポートを取り出しました。挨拶もそこそこに、同行したわれわれの司法書士の先生に『これだけど』と差し出した。いかにも唐突でした」

そのパスポートをはじめ、用意してきた印鑑証明などはすべて偽造されたものだった。すでにお分かりだろう。ことの次第は、山口が呉の代理人と称し、地道たちから土地代金をかすめ取ろうと企み、ニセの呉如増を仕立て上げた--。つまり山口とニセの呉が地面師の一味である。

ただし、地道たちにとって、それらはあとから判明した事実だった。この面談の際、呉のなりすまし役は、明らかなボロを出していたのだが、それも見過ごしてしまったのである。

ミスに気づいていたのに…司法書士の言葉が黙殺された結果「総額6億5000万円」を地面師にカモられた不動産業者の末路』へ続く

ミスに気づいていたのに…司法書士の言葉が黙殺された結果「総額6億5000万円」を地面師にカモられた不動産業者の末路