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定年で仕事を辞めることは、もはや当たり前ではありません。一方で、仕事を完全に辞める決意をしたあとの生活において、夫婦水入らず、というのも、もはや当たり前ではないかもしれません。

何歳まで働く?個人の事情に合わせて決められる時代

正社員のほか、契約社員・嘱託社員、パート・アルバイトなど雇用形態はいろいろ。それにともない就業時間や頻度もいろいろ。全員がフルタイムで働いているわけではありませんが、高齢化、長寿化に伴い、高齢者であっても働く人は増改傾向にあります。

以前は定年と共に退職し、そこから老後けるが始まるというのが一般的でしたが、今はすっかり様変わり。定年は60歳であるものの、継続雇用により定年以降も働ように環境整備。働ける上限は65歳や70歳、さらには年齢の上限を定めない企業もあります。

総務省『労働力調査』によると、2023年度、男性の65歳以上の就業率は34.0%。高齢者の3人に1人が働いています。年齢別にみていくと、50代から60代にかけて7ポイント減少。原則年金を受け取り始める65歳を境に22.5ポイント減少。それでも6割の男性が働いています。70代を境に19.1ポイント減少。ここで働いている男性は半数を下回ります。

【男性の就業率の変化】

55〜59歳…91.5%

60〜64歳…84.4%

65〜69歳…61.9%

70〜74歳…42.8%

75〜79歳…26.0%

80〜84歳…13.8%

85歳以上…6.0%

何歳まで働くのか、どのような形態で働くのか……すべて個人次第という時代です。ただ定年で仕事を辞められるというのは、これから迎える老後に対して経済的な不安のない人たち。何とも羨ましい限りです。

山口悟さん(仮名)。先日、60歳となり、定年を迎えるひとりです。継続雇用の誘いもあったものの、大学を卒業して以来38年、十分働いたという思いが強く、「いったんは仕事から離れたい」という気持ちが強くありました。大学で同級生だった妻・恵子さんが、財布をしっかりと管理してくれたおかげで、老後の備えもバッチリ。そこに退職金2,500万円が加わります。2人いる子どもは二人とも社会人で、すでに教育費の心配はありません。

――もう必死に働かなくてもいいかな

そう考え、定年を機に会社を辞めることにしたといいます。

定年を祝う家族の食卓…母が突然の「学び直し」宣言

そして、定年退職の日。同僚たちに見送られ、38年勤め上げた会社をあとにした山口さんが考えていたのは、妻・恵子さんとのこれからの生活のことです。どんなことをして過ごそうか、まずは労いの気持ちを込めて、旅行にでも行こうか……そんなことを思いめぐらせながら家路につきました。

家では家族総出で待っていてくれたとか。父の定年を祝い、乾杯。久しぶりに家族全員での食事に、山口さん、お酒が進みます。そして、話は夫婦二人の今後のことについて。娘から「何かしたいこととかないの?」という質問が飛んだとき、恵子さんの口から衝撃的な告白が。

――実は、お母さん、春から留学することにしたの

――えっ⁉

思いもしなかった「留学」という2文字に、家族全員が言葉を失います。

――留学って、どこに?

――パリよ

「ぱっ、パリ?」と、再び家族全員が言葉を失います。

――お父さん、私、いっていたよね。お父さんが仕事を辞めたら、パリに留学するのが夢だって

――夢の話は確かにしたけれど、本当の話とはとても……

実は、悟さんと恵さんは、美術大学時代の同級生。大学卒業後、悟さんと恵子さんはデザイン関連の道に進みましたが、恵子さんは結婚・産を機に家庭に専念。そのなかで、悟さんが定年を迎えて仕事を辞めたら、海外留学をして学び直しがしたいという夢を持つようになったといいます。一度悟さんに話したところ、「いいんじゃない」と返事。家庭に迷惑をかけないよう、育児から卒業してからは、出来る範囲で仕事をして、コツコツと留学資金を貯めてきたといいます。

悟さん、「いいんじゃない」と返事をしたことなど覚えておらず、ただ狼狽えるばかり。何とか「いつから、どれくらいいくんだい?」という言葉を絞り出したといいます。

――来年の春くらいにいって、語学学校にも通って……2年くらいかな

――にっ、2年!?

――その間に、あなたも一度くらいはパリに来て。一緒にヨーロッパをまわりましょう

――あなたも一緒に留学するというのも素敵ね。まだ間に合うかしら?

家族はみな、海外留学といっても短期留学かと思っていたため、2年という期間を聞いて口をあんぐりするばかり。確かに「学び直し」は、昨今、よく耳にするワード。株式会社パーソル総合研究所が35歳〜64歳の就業者に対して行った『ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査』によると、仕事に関する学び直しをしているミドル・シニアは就業者全体の14.4%。またそのうち、4.4%が同時に趣味の学習もしていて、趣味の学習だけをしている人も合わせると12.6%が趣味の学習も行っています。またミドル・シニア就業者の趣味の学習としては、「文化(学問、芸術など)」が最も多く32.2%。「語学」「ビジネス・仕事(投資関連含む)」「スポーツ・アウトドア」と続きました。

60歳で定年を迎えたとしても、その先には20〜30年近くの人生があります。仕事を続けるために学び直す人もいれば、学びに対して再チャレンジであったり新たな興味であったりと、学ぶ理由はさまざま。ただ定年を境に時間的余裕が増えるケースは多く、学び直しを選択する人は今後ますます増えていきそうです

衝撃的な妻からの告白を聞いた山口さん。妻・恵子さんと当たり前のようにいる定年後を想像していましたが、まず、自分は何をしたいのか、見つめ直しているところだといいます。

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株式会社パーソル総合研究所『ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査』