「自分は見捨てられたのではないか…」”上司代行”の指導を受けた部下の「意外な心境の変化」

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自社の上長ではなく、外部から来たプロフェッショナルが上司となり、社員の育成を行う「上司代行」サービス。

前編記事〈若手社員の8割近くが「管理職になりたくない」…リーダーが育ちにくい時代の「上司代行」の可能性〉では、その意外なニーズと効能に迫った。

後編では、「上司代行」サービスを導入した企業の社員の反応と、メリットの裏にある注意すべき点について、引きつづき株式会社Hajimariメンタープロパートナーズ事業責任者の高橋氏に話をうかがった。

「上司代行」を受けた部下の反応は?

現在、100社以上が利用するなど徐々に広がっている「上司代行」だが、導入に懐疑的な声もある。例えば、「部下が上司代行の指示しか聞かなくなる」「育ってすぐに会社を退職してしまう」といったケースはないのだろうか。部下側の反応を見ていこう。

「上司代行の指導を受けると聞いた部下の方には、当初は『社内で育成してもらえず、自分が見捨てられたのではないか』『自社のことを知らない人に指導を受けるのはどうか』などと、抵抗感もあったそうです。しかし実際に指導を受けてみると、社内にないノウハウが得られて力が付いたと実感できたそうです。

また、長期的なキャリアプランについて相談できることも好評でした。もちろん成長に差はあるものの、上司代行を受けた社員のモチベーションは基本的に高まり、企業への帰属意識が高まるケースも散見されます。

一言でいうと、上司代行がつく機会をラッキーだと捉える社員が多いのです。上司代行が単なるスキル向上だけでなく、組織と個人の絆を強める効果もあることは、予想以上の効果でした」(株式会社Hajimari メンタープロパートナーズ事業責任者 高橋氏)

「第三者の意見」だから素直に聞ける

また部下側からの好意的な意見として最も多かったのは「第三者の意見は素直に聞ける」というもの。

直属の上司とやりとりするとき、部下は無意識のうちに「この人が自分の評価を握っている」「昔怒られたことがある」などとフィルターがかかった状態で接してしまいがちだ。そのため、ときにはミスを報告できない、悩みを素直に相談できないということも起こってしまう。

それは上司側も同じで、人によってレッテルを貼った評価をしてしまうこともありうる。組織で働くビジネスパーソンならば、このような状況を味わうこともあるだろう。

ただし、上司代行を導入すると、あらゆる問題が解決するかというとそうでない。うまく活用しなければ、不具合も生じる。そのひとつが、もともとの直属の上司側の問題だ。

上司代行による部下の成長を促進するためには、もとの上司からの適切なアシストが不可欠。部下はどのような特性を持っているか、そして部下をどのように成長させたいのかを、きちんと上司代行に伝えられなければ、上司代行もうまく指導ができず、その効果が発揮できなくなる。

「上司代行」導入の際に注意すべきこと

さらには、もとの上司が部下にどこまで指示をしていいかわからず、仕事を抱え過ぎてしまう、「これまで自分が行ってきた指導が間違っていたのではないか」と自信をなくしてしまうようなケースも散見される。そのため上司代行ともとの上司の連携や信頼関係の構築が不可欠になる。

自身が「もとの上司」の立場である際は、上司代行と情報の共有をきちんと行い、また上司代行を自身もうまく活用するような姿勢が必要となりそうだ。上司代行と自分のことを比較するのではなく、部下と信頼関係を見直したり、自身のキャリアを客観的に見る機会だと意識を転換することが、不具合解消の秘訣となる。

また、全ての人間関係にいえることだが、相性のミスマッチによる不具合も起こり得る。上司代行と信頼関係を構築できず、うまく悩みを相談できなかったといった消化不良のケースもあるようだ。

「上司代行と部下は、短い期間で、バックボーンも知らずに接することになります。そのため、徐々に信頼関係を構築するのではなく、最初から“馬が合う”性格である方が効果が出やすいのです。そのため、必ず3名以上の候補と面会してもらい、もっとも合う人と組んでいただくなど工夫しています」

(株式会社Hajimari メンタープロパートナーズ事業責任者 高橋氏)

このように、上司代行のシステムをうまく成長に結びつけるためには、周辺環境の整備やマインドセットも重要となりそうだ。

労働人口減少時代の「特効薬」にするには…

「上司代行」を目新しいものととらえる人も多いだろうが、それは日本人特有の感覚によるものかもしれない。

「ジョブ型雇用であるアメリカなど諸外国では、上司代行の制度は、かねてより当たり前のものとなっています。アメリカでは『メンタープログラム』として、ビジネスだけでなく教育や趣味の分野でも、第三者が上司(もしくは指導者)となることが一般的です」

(株式会社Hajimari メンタープロパートナーズ事業責任者 高橋氏)

今後導入が進むことで、違和感は軽減されそうだ。

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少子高齢化が進み、労働人口が減っていく日本において、「特効薬」となる可能性を秘めた「上司代行」。

ただし、そのメリットを享受するためには「もとの上司」の理解と、何より部下自身がそれを自らの成長のチャンスと捉えるマインドが必要となる。上司ですら代行できる時代であっても、当事者である本人の代わりはいないのだから。

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