「コレステロール値は少し高めがいい」はもはや常識。反対に下げたら危険と心得よ

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「長生きするのはちょい太」が浸透してきました。コレステロールは、基準値よりも少し高めのほうが長生きするという疫学的データが世界中でいくつも出されています。ところがいまだに医療現場では基準値至上主義で薬をすすめてきます。

残りの人生を楽しんで生きる高齢者が一人でも多くなってほしい、という目的で書かれたのが『医者にヨボヨボにされない47の心得 医療に賢くかかり、死ぬまで元気に生きる方法』。コレステロールは心と体の元気のもと男性ホルモンや女性ホルモン、免疫細胞の材料でもあるのですから、コレステロールの働きや、なぜ害悪説が広まってしまったのか解説します。

医者から敵視されるコレステロール

「高血圧」「高血糖」「高コレステロール」は、健康を害する「三大悪」のように言われています。なかでも、コレステロールは「動脈硬化を進め、脳卒中や心筋梗塞の原因となる」として敵視されてきました。

現代の医療では、総コレステロール値は、次のように決められています。

・基準値 140〜199mg/dl

・要注意 200〜259、または139mg/dl以下

・異常値 260mg/dl以上

健診などでは、総コレステロール値が異常値の人はもちろん、要注意のレベルであっても、医者からコレステロールを下げる薬を処方され、「脂っこいものは控えて」「運動をしましょう」などと、食事や運動などの生活習慣の改善も迫られます。ここで医者の言うことに従ってしまうと、大変危険なことになります。そう、危険です。

基準値に下げると、死亡率が上がる

近年、コレステロールは、基準値よりも少し高めのほうが長生きするという疫学的データが世界中でいくつも出されています。

老年医学の権威・柴田博先生の約5万2000人(35〜70歳の男性と、閉経女性)を対象に6年間追跡した研究を見ても、死亡率が最も高いのはコレステロール値が180未満のグループで、180〜279まではコレステロール値が高くなるほど死亡率が少なくなり、280以上になると再び死亡率は高くなります。ただし、280以上のグループのなかには、遺伝子の異常で血中のコレステロールを除去するしくみがうまく働かない「家族性高脂血症」の人も多数含まれるので、その人たちを除くともう少し死亡率は下がる可能性があります。

つまり、医者の言うことに従って、コレステロールを基準値まで下げてしまうという行為は、寿命を縮めてしまうおそれがあるということです。

女性は閉経後、女性ホルモンの分泌が減る影響でコレステロール値が上がる傾向がありますが、これは自然な体の変化として欧米では放っておかれます。女性は男性に比べて脳卒中や心筋梗塞が少ないからです。しかし、日本ではコレステロール値が高い人はすべて同じようにコレステロール値を下げる医療が行われています。

基準値というのは、いちばん健康的と考えられる数値のはずなのに、高齢者にとっては“早死にの基準値”になっているとしたら、早急に改められるべきです。

50年前に広まったコレステロール害悪説

コレステロールが健康を害するという説が世界中に広まったのは、アメリカのフラミンガム研究がきっかけでした。この研究は、マサチューセッツ州フラミンガムに住む男女5209人を対象に、1948年から80年まで行われました。

この研究の途中経過で、心筋梗塞の発症にコレステロールがかかわっているらしいということが見えてきました。それは当時、最新の医学として日本でも受け入れられ、コレステロール害悪説が定着していったのです。

すべての年代でがん死亡率が下がる

しかし、93年に報告されたフラミンガム研究の最終的な報告では、これまでとは反対にコレステロールのよい側面が見えてきました。血液中のコレステロールが1mg/dl上がると死亡率がどう変化するか、年齢別に調べた研究で、そのことがわかります(表)。

この研究によると、たしかに心筋梗塞などの冠動脈性心疾患は、コレステロール値が上がると40〜70歳で死亡率が高まります。しかし、80歳では死亡率が下がっていることにお気づきでしょうか。弁膜症や心不全などの非冠動脈性心疾患も、死亡率が上がるのは40歳のみ。50〜80歳ではむしろ死亡率は減っています。さらに、がん死亡率ではすべての年代で、コレステロール値が高いほうが死亡率が低いという結果になりました。

つまり、「コレステロールは害悪だ」という説が該当するのは、一部の年代の、一部の病気にかぎったことだったのです。そのことをフラミンガム研究の最終結果でも示しているのに、日本はいまだに50年以上前の「コレステロール害悪説」をすべての年代の人に強いています。不思議としか言いようがありません。

コレステロールが丈夫な細胞膜をつくる

そもそもコレステロールというのは、人間を含めて動物の体を形づくる脂質の一種であり、生きていくために欠かせないものです。

私たちの体は約60兆個の細胞からできていますが、その細胞を包み、外部の有害なものから細胞を守る丈夫な細胞膜をつくっているのもコレステロールです。

そのため、コレステロールが不足すると細胞の再生がうまくいかなくなり、内臓や筋肉、肌などあらゆる部分の老化が進みます。ちなみに、「善玉」「悪玉」と呼ばれるものも、すべて同じ材料でできています。

前述したフラミンガム研究で、コレステロール値が高いほど、がんの死亡率が低くなるという結果が出ましたが、これはコレステロールが免疫細胞の重要な材料のひとつであるためと考えられます。免疫細胞のひとつNK(ナチュラル・キラー)細胞は、がん細胞のもとになる“できそこないの細胞”をやっつける働きがあります。

若々しさの重要な材料

また、コレステロールは、男性ホルモンや女性ホルモンの材料にもなります。性ホルモンは若々しさを保つのに大事な働きをしています。

特に、男性は、男性ホルモンが不足すると、女性と比べものにならないほど老けこんでしまいます。性欲だけでなく、意欲が衰え、筋肉量が減り、人づきあいが億劫になって、記憶力や判断力も衰えていく。ヨボヨボ老人になりたくなければ、男性ホルモンをつくるコレステロールは減らしてはいけないのです。

年をとると「どうせオレなんか」といじけた気持ちになったり、「何もできなくなって不甲斐ない」などと自分を責めたりすることが増えます。それは、幸福感や意欲、心の安定とかかわりのあるセロトニンが年齢とともに減ってくるからです。

コレステロールは、脳にセロトニンを運ぶ働きもあるとされているので、コレステロールが減れば、脳内のセロトニンの量も減り、はつらつとした感情や心の若々しさも失われ、最悪の場合、うつ病になってしまいます。コレステロール値が高い人ほどうつになりにくいという報告がありますが、長年、高齢者を診てきた精神科医としても納得できます。

どうですか、コレステロールはこれほど重要な役割をもっているのです。

自殺、事故、がんのリスクが大きく上がる

欧米の追跡調査データ6本を分析した論文は、「薬や食事療法でコレステロール値を下げると、心臓病のリスクは減るけれども、自殺、事故、がんのリスクが大きく上がる」と結論づけています。

これまで日本人は脳卒中や心筋梗塞を減らすことばかり考えてきました。1970年代までは脳卒中が最も多い死因でしたが、今はがんが約24%と全体の4分の1近くを占めています。脳卒中や心筋梗塞の予防だけしていればいいというわけではなく、全身を視野に入れた医療が求められています。

それでも循環器科の医者が自分の狭い立場にこだわり、「コレステロール値を下げましょう」と薬を処方するなら、「私はがんやうつになるほうが怖いので、コレステロール値は下げたくありません。どうしたらいいですか?」と聞いてみるとよいでしょう。医者の受け答えによっては、別の医者に変えてもいいと思います。

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