地球温暖化は単に夏場の気温が上昇して熱中症のリスクが高まるだけでなく、災害や感染症の増加、食料不足といったリスクが生じる可能性もあると指摘されています。近年では温室効果ガスの排出量を削減するだけでなく、気候システムを意図的に改変する「(PDFファイル)ジオエンジニアリング」についても研究が進められており、新たな論文では「ダイヤモンド粒子を成層圏に噴射することで地球を冷却できる」という研究結果が報告されました。

Microphysical Interactions Determine the Effectiveness of Solar Radiation Modification via Stratospheric Solid Particle Injection - Vattioni - 2024 - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library

https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GL110575



Are diamonds Earth’s best friend? Gem dust could cool the planet | Science | AAAS

https://www.science.org/content/article/are-diamonds-earth-s-best-friend-gem-dust-could-cool-planet-and-cost-trillions

Could injecting diamond dust into the atmosphere help cool the planet?

https://phys.org/news/2024-10-diamond-atmosphere-cool-planet.html

ジオエンジニアリングは気候変動に対処するために気候システムへ介入することを指す言葉で、これまでに「鉄を海にまいて藻類の繁殖速度を増加させ、光合成を促進する」「宇宙空間に展開した反射膜で太陽光をカットする」といった方法が提案されています。

中でも成層圏に太陽光を反射する化学物質を注入する「成層圏エアロゾル注入」という手法は、火山活動によって大気中に放出された二酸化硫黄が成層圏中で硫酸塩エアロゾルに変化し、太陽から降り注ぐ光の一部を反射するという自然現象に着想を得ています。実際、1991年に発生したフィリピン・ピナトゥボ火山の大噴火では地球全体に硫酸塩エアロゾルの層が作られ、数年間にわたり気温が0.5度も低下したことが報告されました。

成層圏エアロゾル注入は理論的には有望な選択肢といえますが、人工的に二酸化硫黄を放出することは多くの気候リスクも引き起こします。硫酸塩エアロゾルには酸性雨の主成分である硫酸液滴が含まれいるほか、エアロゾルがオゾン層を破壊して大気中の天候や気候パターンに影響を及ぼす可能性もあるとのこと。



そこで、チューリッヒ工科大学の気候科学者であるサンドロ・バッティオーニ氏らの研究チームは、エアロゾルの化学的性質や大気中をどのように移動するのか、熱をどのように吸収または反射するのかを組み込んだ3D気候モデルを構築。このモデルを使用して、二酸化硫黄やアルミニウム、方解石(カルサイト)、ダイヤモンドなど7つの化合物をエアロゾルとして噴霧した際の影響をシミュレートしました。

研究チームが開発した気候モデルは、エアロゾルが最終的にはどのようにして地面に落ちるのか(沈降)や、どのように凝集するのかもシミュレートしました。大気から地上に沈降するまでの時間は、より長い方が冷却効果が持続します。また、凝集物は熱を閉じ込める傾向があるため、個々の粒子がなるべく凝集しない方が冷却効果は高いとのこと。

スーパーコンピューターを使って各化合物の影響を45年間分評価した結果、ダイヤモンド粒子が最も太陽光の反射に適した物質であることが判明しました。また、ダイヤモンドは科学的に不活性であるため、二酸化硫黄のように酸性雨を降らせることもないと考えられています。

バッティオーニ氏らによると、毎年500万トンのダイヤモンド粒子を成層圏に注入し続ければ、地球の気温を1.6度冷却することができるとのこと。当然、これほどのダイヤモンドを注入するには毎年大量の人工ダイヤモンドを作る必要があり、2035年〜2100年にかけてダイヤモンド粒子の成層圏エアロゾル注入を行う場合、175兆ドル(約2.6京円)ほどかかると推定されています。



今回の研究でシミュレートされた7つの化合物のうち、成層圏エアロゾル注入の有望な選択肢とされている硫黄は下から2番目の評価でした。これは、硫黄には一部の波長の光を吸収して熱を閉じ込める傾向があるため、冷却効果の一部を相殺したり気候パターンを乱したりする可能性があるからだとのこと。

それでも硫黄は広く入手可能かつ安価であり、気体であるためダイヤモンドなどの固体粒子と比べて噴霧しやすい点も成層圏エアロゾル注入に適していると、コーネル大学の気候科学者であるダグラス・マクマーティン氏は主張しています。マクマーティン氏は、「これらの他の素材を探求するのは興味深いことだと思います。しかし、今の私が『何が成層圏エアロゾル注入で展開されるのか』と尋ねられたら、その答えは硫酸塩だということになるでしょう」と述べました。

なお、一部の科学者はジオエンジニアリングが引き起こす予期せぬ結果を懸念しており、科学者や研究資金が炭素排出量の削減といった現実的な研究から遠ざかってしまうため、ジオエンジニアリングの研究そのものに反対しています。これに対しバッティオーニ氏は、「(ジオエンジニアリングの研究自体を拒否することは)私たちが扱っている問題の範囲を軽視しています」と述べ、ジオエンジニアリングの研究には意義があると主張しました。