入院中の「藤崎マーケット」田崎佑一(本人提供)

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 2017年に腎臓がんと診断されたお笑いコンビ「藤崎マーケット」の田崎佑一。30代の働き盛りで襲った病魔をどう乗り越えたのか。痛みに耐えた闘病生活を振り返ってもらった。

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「まったく体調を崩してはいなかったのですが、なんとなく人間ドックのことが頭に浮かんでいて。出演したテレビ番組の特集が偶然にも人間ドックだったんです。ピンときてその場で病院を紹介してもらい、検査で病気が見つかりました」

結婚からわずか10日後にがん判明

 そう話すのは“ラララライ体操”でおなじみのお笑いコンビ・藤崎マーケットの田崎佑一さん。2017年8月に虫の知らせで受診した人間ドックで、左の腎臓に腫瘍らしきものが見つかり、のちに腎臓がんのステージ1だとわかった。幸いにも早期発見だったが、検査結果を知ったのは結婚からわずか10日後のこと。

「めっちゃ迷ったんですけど、すぐに奥さんに伝えました。新婚でルンルンだったのに、まさに幸せの絶頂から地獄に突き落とされた感じで。奥さんは過呼吸になるほど泣き崩れてしまい、心配をかけました」

 日頃から親しくしていた医師を頼り、腹腔鏡手術を決めた。

「腫瘍は組織を取って病理検査に回して、初めて良性の腫瘍か悪性のがんかわかるそうなんです。ただし腎臓の場合は9割が悪性。検査ではお腹に細長い針を刺して組織を取るんですけど、少なからず出血はあるので、そこから転移する可能性のほうが怖い。腫瘍の位置も端っこの取りやすい部分だったので、手術するのがいいだろうと方針が決まりました」

 当時は大切な賞レースの真っただ中。相方・トキさんに打ち明けるのは控えていたそう。

「M―1グランプリに出るためにコンビを結成したので、思い入れが強くて。メンタル的にも迷惑をかけると思い、まずは会社にだけ報告しました。そんな最中、歌ネタ王決定戦という賞レースで優勝したんです。メディアの方に囲まれて優勝賞金の使い道なんかを聞かれても、うれしいことなのに“まぁ死ぬかもしらんけどな……”と病気のことが頭をよぎって、生きた心地がしない。

 その後M―1で敗退してから、相方に報告しました。結婚も一緒に伝えたのでびっくりしていて。1分くらい黙ったあと、なんか言わなあかんと思ったのか“プラスマイナス0やん”って(笑)。全然ちゃうやろ(笑)」

 11月に手術を受けるも、術後の痛みは想像を絶していた。

「ほんまに耐えられへんくらい痛くて。硬膜外麻酔という、脊髄のすぐ近くの硬膜外腔という場所にカテーテルを挿して、そこから麻酔を入れると、背中に冷たい感覚が通ってふ〜っと楽になるんです。それから麻酔が切れるまでの2〜3時間だけ寝られるけど、また痛くて起きるというのが続いて。生きるために手術をしたのに、もう殺してくれというほどの痛みで、精神的に落ち込みました」

 数日間はお見舞いに来た家族を気遣う余裕すらなかったと述懐するが、大きな支えになったことは間違いない。

入院中、支えとなった妻や家族、芸人仲間

「奥さんは毎日病院に来てずっとそばにいてくれて、僕ひとりだったらもっとつらかったんやろうなと。でも当時は“つらい顔を見せたらダメ”とひとりで家で泣いていたみたいで……ほんまに支えになりました。父は放射線技師なので病気について知識があり、いろいろと教えてくれましたね」

 芸人仲間のお見舞いもにぎやかだった。

「相方はなぜか手術の翌日に来たんですよ。人工呼吸器をつけて痛くて死にそうなときに、ラララライのタンクトップ姿で“やあ!”って登場して、家族全員にらんでましたね(笑)。相方もそんな空気じゃないと気づいて、シュンとなってました(笑)。

 芸人のお見舞いって笑かしてなんぼというノリなんですけど、アキナの山名が白衣、秋山さんがミニスカナース姿で回診に来てボケ続けたときは、笑うたびに傷口が痛くて。入院がちょっと延びたかもしれません(笑)」

 その後もリハビリを続け、12月に退院した。

「痛みがあろうと立って歩くと回復が早いと言われたのですが、最初はベッドのそばで10秒立つのが限界。立っては寝てを繰り返し、1分立てたら今度は病室を歩こう、その次は病棟内をと、お掃除ロボくらいに遅い動きながらやっていましたね。腎臓の出血が止まらず入院は少し長引きましたが、年末には仕事復帰できました」

 現在は健康に気遣い、寛解と診断されてからも定期検診を続けている。

「付き合いで外食も多いですけど、おうちでは減塩の食事を奥さんが作ってくれます。以前はストレスで暴飲暴食しがちでしたが、一時期は断酒して、今も量は減っています」

 気持ちの上でも大きな変化があったという。

「手術の前夜、もしうまくいかなかったら死ぬかも……と考えたとき、叶わなかった約束がいっぱい思い浮かんだんです。今生きているってすごいことだし、それ以来、社交辞令は絶対にやめようと思って。今度ごはんに行きましょうねという話になったら、スケジュール帳を開いて、すぐに予定を決めるというマイルールができました」

藤崎マーケット」田崎佑一●1981年生まれ、兵庫県出身のお笑い芸人。2005年に結成した藤崎マーケットのツッコミ担当。2012年に第10回MBS漫才アワード優勝、2014年に第3回ytv漫才新人賞優勝、2017年に第5回MBS歌ネタ王で優勝するなど活躍中。

取材・文/植田沙羅