「選手経験がないコーチ」が「名選手」を超える!...経営者がアメリカのプロスポーツから学ぶべき「成功の鍵」

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近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。

本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。

『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第55回

『慶應義塾高校野球部を107年ぶりの「甲子園優勝」に導いた部訓から学ぶ“短時間で”成果を出す「秘訣」』より続く

ゼロから1を生み出す人、1を 100に成長させる人

事業を行う人にもさまざまなタイプがいます。

中でも大きな分類は、「起こす人」「育てる人」です。バブソン大学では前者を「Creativity」、後者を「Scalability」とつなげて、いずれもEntrepreneurial Leaderに求められる資質として教育しています。

それまでにないアイデアのサービス、商品を考え付き、ゼロから1を生み出す能力は素晴らしいものです。しかし、その人が1から100へ事業を成長させる力を併せ持っている可能性は高くありません。誰もが大谷翔平ではないので、二刀流は希少なのです。

日本での経営の神様、松下幸之助氏、本田宗一郎氏などに関する著書を読み、「経営者かくあるべし」と憧れるかもしれません。そんな世界でも稀な「二刀流の経営者」は、容易に真似できるものではありません。

ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズだって、少し調べると、一人ではなかったことがわかります。参謀というよりも、「Scale upする人」が近くにいたのです。

どちらかが優れているというものではない

「Creativeな人」には、起業して目処が立ったら会社をバイアウトし、次の起業に取り掛かるという、永遠に起業し続けようとする人もいます(通称:シリアルアントレプレナー)。そういう人は、きっと、1から増やす情熱よりも、ゼロから1を生み出すことが大好きなのでしょう。

「0→1 Createする力」「1→100 Scaleする力」は、どちらかが優れているというものではなく、異なる能力です。

企業内起業の場合、多くの成功例は部門横断を得意とするインターナルの第一人者、すなわちイントラプレナーの存在が不可欠と言われています。ここで、面白いのは、大企業であるからこそ、周囲に優秀な「1→100 Scaleする人」が存在するケースが多いという点です。

歴史ある企業であるからこそ、新しいことへのチャレンジには難しい点もありますが、一度スタートすれば周囲の力を巻き込みやすい環境だといえるかもしれません。

名選手は必ずしも名監督にはなれない?

「0→1 Createする人」と「1→100 Scaleする人」の違いで、面白い例があります。

日本の、たとえばプロ野球の場合、各チームの監督のほとんどは「元スター選手」です。ところが、アメリカのプロスポーツでは違います。

中でも、世界でもっとも商業的に成功しているスポーツリーグといわれる、アメリカンフットボール、NFLでは、日本でいう監督、ヘッドコーチをはじめとするコーチ陣に元有名選手はほとんどいません。

選手時代はずっと控え選手だったヘッドコーチ、大学で選手を諦めたヘッドコーチもいます。そして、それ以上に「選手経験がないコーチ」が多数存在します。「選手として求められる能力」と「コーチに求められる能力」がまったく異なるからです。

選手には、まず、ずば抜けた身体能力が求められます。それが前提条件です。そこに戦術を理解する頭脳があって、実績を残せるスター選手になれる条件が揃うのです。

ここに「戦略を考えてチームメイキングをし、集めた選手をマネジメントし、状況に合わせた戦術を駆使してチームを勝利に導く能力」はさほど関係ありません。

だから、NFLでは引退した選手は、まったく別の仕事に就きます。

知名度が高いスター選手でQB(クォーターバック:攻撃のリーダー)などを経験して戦術眼に優れた人材は、テレビのNFL放送でコメンテーターになったりしますが、これは極めて少数派です。ほとんどの選手は、まったく畑違いの仕事に就きます。そのための教育プログラムをリーグで提供しているほどです。

ビジネスに活かせること

では、どんな人がヘッドコーチをしているのかというと、若いころから、チームマネジメントを学び、コーチングを学んでいる人です。

高校のチーム、大学のチームで実績を積み、NFLにコーチとして呼ばれる人もいます。チームの職員として雇用され、コーチとして見出される人もいます。

彼らは「ヘッドコーチになるため」に学び、努力をしています。だから、30代のヘッドコーチもいます。ベテラン選手より若いヘッドコーチもいるのです。

アメリカンフットボールは、もっともポジションごとの分業化が激しいスポーツです。それはチーム運営でも同じこと、ヘッドコーチにはヘッドコーチに適した人材が当てられるわけです。

これは会社でも同じです。営業として目覚ましい成績を上げた人が、出世してみると後進を育てられない、マネジメントできないというケースは誰しも聞いたことがあるのではないでしょうか。

創業期、つまりゼロから1を生み出す段階と、組織として事業を拡大する段階、1を100にする段階では、適した人材は違います。そのどちらにも目配りできることは必要ですが、自分がどちらをより好きなのか、得意なのかを意識して、その強みに集中特化することが成功の鍵を握ります。

慶應義塾高校野球部を107年ぶりの「甲子園優勝」に導いた部訓から学ぶ“短時間で”成果を出す「秘訣」