想像を超えた出来事を巻き起こす「恒星の死」と「生命誕生」の関係について解説する(画像:nikkytok/PIXTA)

「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。

知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だろう。

そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、やさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』だ。「会話形式でわかりやすい」「親子で学べる」と読者から称賛の声が届いている。

その井筒氏が、想像を超えた出来事を巻き起こす「恒星の死」と「生命誕生」の関係について解説する。

恒星の最期には「3つの結末」がある

夜空にきらめく星々は、永遠に輝きつづけるように思われますが、じつは、寿命があります。


恒星は、人間と同じように一生があり、「生まれて」「一人前になって」「老いて」、やがて「死」を迎えるのです。

「成人の星」は、中心部で核融合反応が起こり、光と熱を発します。

「老人の星」になると、外側で核融合反応が起こるようになり、ぶくぶくと膨らんでいきます。膨らむと表面温度が低くなり、赤みを帯びます。この年老いた恒星を専門用語で「赤色巨星」や「赤色超巨星」といいます。

太陽も寿命を迎えると、巨大化します。地球を飲み込むXデーがいつ来るのかは、以前の記事(「【Xデーはいつ?】地球を飲み込む『太陽の巨大化』)をご覧ください。

太陽が老いると、炭素や酸素などの元素がつくられます。太陽よりももっと重い恒星が老いると、炭素や酸素だけでなく、マグネシウム、ケイ素、鉄などの元素がつくられます。

「老人の星」にやがて訪れるのが「死」です。

どんな最期を迎えるのかは、「成人の星」のときの体重次第。次の「3つの結末」のいずれかを迎えることになります。体重によって死に方が決まるとは、ドキッとしますね。

恒星の最期「3つの結末」
1 白く小さい燃えかすが残る→白色矮星(はくしょくわいせい)   
2 大爆発して、硬い芯が残る→中性子星(ちゅうせいしせい)
3 大爆発して、空間に穴があく→ブラックホール 

【1】白く小さい燃えかすが残る「白色矮星」

太陽と同じくらいの重さ(太陽の質量の8倍以下)の恒星は、巨大化にともなって大量のガスをまわりに放出し、中心部がむき出しになります。

むき出しになった中心部はすでに核融合反応の止まった燃えかすなのですが、温度が高いままなので、余熱だけで白く輝きつづけます。

この燃えかすは、ギューッと凝縮して小さくなっています。なんと、角砂糖1個分の重さが1トンもあるほど、中身が詰まっているのです。白く輝く小さな星なので「白色矮星」といいます。

太陽は寿命を迎えると、赤く大きな「赤色巨星」になって(前述した記事参照)、最期は白く小さな「白色矮星」になるということです。そこから長い時間をかけてだんだんと冷えて暗くなり、ざっと10兆年もすると、光を出さない真っ暗な天体となって、見えなくなります。

星の爆死から「ブラックホール」が出現

太陽よりも重たい恒星は、「超新星爆発」という大爆発を起こして最期を迎えます。大爆発で死を迎えるとは、壮絶ですよね……。

このあと、想像を超えた出来事が起こります。

【2】大爆発して、硬い芯が残る「中性子星」

太陽よりもとても重たい(太陽の質量の8倍から40倍程度の)恒星の場合、大爆発のあとに「中性子星」という天体が残ります。

電気的に中性な「中性子」という粒子からなり、角砂糖1個分の重さは5億トンと、とてつもない密度で凝縮されています。白色矮星をさらにギュギューッと凝縮し、硬い芯が残ったようなイメージです。

マニアックな天体に思える中性子星は、じつは、私たちの生活にも関わりがあります。

恒星の核融合反応は、鉄より重い元素をつくることができません。中性子星同士が合体することで、金、銀、プラチナといった「貴金属」や家電製品に使われる「レアアース」などの元素がつくられます。

惑星の材料にこれらの元素が含まれ、地球の一部となったことで、手に入れることができるということです。つまり、私たちがアクセサリーや家電を使うことができるのは、中性子星のおかげであるといえます。

【3】大爆発して、空間に穴があく「ブラックホール」

太陽よりもとっても重たい(太陽の質量の40倍以上の)恒星の場合、大爆発のあとに中性子星よりもさらに密度の高いギュウギュウな状態になり、自分自身の重さを支えられなくなります。

そのあとどうなるのかというと、宇宙空間に穴があきます。これが「ブラックホール」です。前回の記事『ブラックホール」で"時が止まる"は本当なのか?』でもお伝えしたとおり、ブラックホールは謎の多い奇妙な天体なのですが、恒星の一生を考えると、「自然の摂理」として、ごくふつうに生まれてくるものだといえます。

大爆発による恒星の死には、「3つの役割」があります。

1つ目の役割は、「星のなかでつくられた元素を宇宙にばらまく」こと。このおかげで宇宙に炭素や酸素が行き渡ります。

2つ目の役割は、「爆発によって新しい元素をつくる」こと。中性子星と同じように、鉄より重い元素をつくり出します。

ガスを集めて星になり、新しい元素をつくっては死に際にばらまく……。恒星は元素を生み出すために生きる使命を持っているのかもしれません。

星が死ぬことで、新たな星が生まれる

3つ目の役割は、「爆発の衝撃がまわりに広がり、新たな星が生まれるきっかけになる」ということ。

ガスが漂っているところに衝撃波が到達すると、ガスがギュッと集められ、「赤ちゃんの星」になることがあります。

花を咲かせて種を落とし、またどこかで花が咲くというような「命のバトンリレー」が、星の世界にもあるのです。

【星の死(超新星爆発)の3つの役割】

1 星のなかでつくられた元素を宇宙にばらまく   
2 爆発によって新しい元素をつくる   
3 爆発の衝撃が新しい星を生むきっかけになる

私たちが住む地球が属する太陽系も、星の生と死によってつくられた元素を集めて生まれてきました。隕石の研究から、太陽系誕生の前には少なくとも2回の超新星爆発が起きたことがわかっています。

前の世代の恒星がせっせと元素をつくってくれていたおかげで、いまの太陽系があるということです。

星の死とは違った爆発もあります。こちらも、私たちと大きく関係のある現象です。

今年の8月、星が爆発して「新星」が見られるかもしれないとニュースになりました。

「かんむり座T星」という恒星で、過去1866年と1946年に爆発を起こしています。ふだんは肉眼では見えませんが、爆発が起こると、都会でも見られる明るさになると期待されています。

約80年ぶりの天体ショーが見られると注目されてから、なかなか爆発は起きていませんが、まだこの10月に見られるチャンスは残されています。

夜空の何もなかったところに突然星が輝き始める現象を「新星」といいます。その中でも、ひときわ明るいものを「超新星」といいます。

名前は似ていますが、起きている出来事は異なります。

星の表面の爆発か、星全体の爆発か

超新星は、「恒星全体が爆発」する現象です。さきほど説明した、太陽よりも重たい恒星が死ぬときに起きる超新星爆発が、その一例です。

新星は、「恒星の表面が爆発」する現象です。爆発を起こすのは、白色矮星です。白色矮星の近くに別の恒星があり、その恒星から白色矮星に向けてガスが降り注いでいる場合、突然、ボカンと爆発を起こすことがあるのです。

爆発を起こした白色矮星は粉々に消えてなくなるわけではないので、降り注いだガスがたまると、また爆発を起こします。「かんむり座T星」はその周期が約80年だと考えられています。

今年5月に発表された論文によると、白色矮星の表面が爆発するときに、「リン」が大量に生み出されるそうです。リンは、生き物を形づくる細胞の1つ1つを包みこむ細胞膜に含まれています。遺伝子や骨、歯にも使われていて、「生命に欠かせない大切な元素」です。

まとめると、地球上にある物質は、「恒星の核融合反応」「超新星爆発」「中性子星の合体」「白色矮星表面での爆発」などでつくられた元素から成り立っている、ということです。

「人は星の子」「人は星のカケラ」という言葉を聞いたことはありますか? 私たちの体を形づくる元素も、元をたどると星とつながっているのです。

さまざまな元素を生み出す現象は、宇宙で普遍的に起きています。つまり、惑星や生命をつくるための材料は、宇宙のあちこちにあるわけです。

とすると、この宇宙のどこかには、地球と似たような惑星や生命、あるいは、人類の常識を超えた、新しいタイプの惑星や生命が存在しているかもしれません。

星の営みを理解する研究は、地球の生命や宇宙の生命を理解することともつながっているのです。

宇宙で起きる圧倒的で非日常的な出来事が、地上で暮らす私たちと無縁ではないとは、じつにおもしろいですよね。

ぜひ日常の風景を見ながら、夜空の星とのつながりを感じてみてください。

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))