スピッツ恒例『ロックロックこんにちは!Ver.26』初日レポート――GOING UNDER GROUND、Homecomings、SUPER BEAVERがつないだ憧れと刺激のバトン「また今日を糧に面白いスピッツをお見せできたら」
『ロックロックこんにちは!Ver.26 -tsumu-』2024.9.4(WED)大阪・Zepp Namba(OSAKA)
スピッツによる恒例のライブイベント『ロックロックこんにちは!Ver.26 -tsumu-』が9月4日、大阪・Zepp Namba(OSAKA)で開催された。
1997年に大阪・難波W’OHOLで始まり、今年で26回目となる『ロックロックこんにちは!』は9月4日・5日の2日間にわたって行われ、初日の4日には昨年CDデビュー25周年を迎えたGOING UNDER GROUNDが5年ぶりに出演したのに加え、10~12月の全国ツアーをもって47都道府県のホール公演を制覇することになるSUPER BEAVER、海外ツアーや『FUJI ROCK FESTIVAL』への出演経験もあるHomecomingsが初登場した。
開場時には2日間のラインナップのBGMが流れる中、オープニングムービーを受けまずはスクリーンに司会のFM802 DJの加藤真樹子とスピッツが現れる。イベントを通して各転換中には今回のサブタイトル「tsumu」=「積む、積み重ねる」にまつわるエピソードトークセクションが設けられたが(※詳細は後述のNFTデジタルパンフレットに掲載)、ここで草野マサムネ(Vo.Gt)は「やってきたことはバンドぐらい」、田村明浩(Ba)は「俺らバンドしかないからね」と冒頭からドンピシャの回答。特製の積み木を引き抜くと次の出演者が分かる粋な演出でトップバッターのGOING UNDER GROUNDが知らされ、『ロックロックこんにちは!Ver.26 -tsumu-』がスタートした。
GOING UNDER GROUND
GOING UNDER GROUND
スポットライトに照らされた松本素生(Vo.Gt)が歌い出せば、中澤寛規(Gt)の鳥の声のようなスライドギターが並走する。いざ音楽が走り出せば、問答無用で涙腺を刺激される。そんな名曲「トワイライト」からドラマチックに幕を開け、エバーグリーンな魅力を初っぱなから存分に味わわせたのはGOING UNDER GROUNDだ。石原聡(Ba)のベースラインからじりじり高揚感を増していく「同じ月を見てた」でも、温かくも力強い歌声がどこまでも伸びやかに突き抜ける。
「『ロックロックこんにちは!』は5年ぶり、今年で26回目ということで、僕らは大阪で7回も出てます。これはスピッツ兄さんに気に入られてないわけではないと思っていいかな? うれしいです! 今日は得意技しか持ってきてないので、これでダメなら無理(笑)。それぐらい楽しみにしてきました。僕らも(CDデビューして)26年やってるんで、メンバーがやめちゃったりもして。でも、こういう日があるとバンドをやってて良かったと思います。それでは6月に出した大ヒットEPから(笑)新しい曲を」(松本、以下同)
最新EPのタイトル曲「爆音ノ四半世紀」でも、重ねた月日を音と言葉の重みに変えた現在地を提示し、続いても得意技、いや、必殺技の切なきミドルチューン「ランブル」を会場いっぱいに染みわたらせていく。ラストは、「前回出たときはOfficial髭男dismも一緒で。僕らが持ってきた物販が2箱全部売り切れて喜んでたら、ヒゲダンは40箱ぐらい売ってたね(笑)。もう一曲いきますか、音楽好きなヤツは手を挙げてくれ!」と、とびきりアッパーでハッピーな「LISTEN TO THE STEREO!!」で盛り上げ、『ロックロックこんにちは!』の歴史にまたもその存在感を刻み付けたGOING UNDER GROUNDだった。
Homecomings
Homecomings
二番手のHomecomingsは、折り重なるギターが幻想的な「Moon Shaped」から一気に引き込まれ、福富優樹(Gt)、畳野彩加(Vo.Gt)、福田穂那美(Ba.Cho)、サポートドラムのユナ(ex. CHAI)が横一線に並び、徐々に躍動感を増すバンドサウンドで魅せていく。そして、「よろしくお願いします、Homecomingsです」と畳野があいさつ後、聴こえてきたのはあのメロディ……! スピッツの「フェイクファー」をかれんなボーカルでカバーする姿には観客も思わず聴き入ってしまい、歌い終わるや沸き立つ拍手喝采!
「この日が来るのを信じて音楽をずっと続けてきました。小学生の頃にお母さんにスピッツのカセットをもらって、音楽を好きになって。ギターを始めてバンドを組んで、いつかスピッツと一緒にできることを目標にして……ここまで来るのにめっちゃ時間はかかったけど、親孝行もできたし(笑)、やってきて良かったなと思います。ありがとうございます! ただ、僕の人生の思い描いていたルートはここまでで(笑)。でも、別にこれで終わりじゃないし、来年も再来年も何回でも出たいし、旅の途中というか。こんな光栄なステージに立たせていただいて、その気持ちを込めて頑張って演奏したいと思います」
根っからのスピッツ・チルドレンの福富のMCで、場の空気がグッと親身になったのが分かる。その後も、美しいコーラスワークに包まれた極上の「Here」、メランコリーなビートが静かに熱くけん引する「ラプス」、光源のようなエナジーが溢れた「US / アス」と夢見心地の3連発! 神秘的で荘厳な世界観でトリップさせた、Homecomingsのデイドリーミングな30分間だった。
SUPER BEAVER
SUPER BEAVER
「誰を見に来ようが関係なくて、スピッツの名の下に集まった俺らはもう同志ってことですよね? 最高の時間を作りに来ました、20年目の新人SUPER BEAVERです! 一緒に音楽しましょう」と渋谷龍太(Vo)がクラップを促せば、自ずと「美しい日」の大合唱が巻き起こる。たったワンフレーズでテンションを引き上げ、ハンズアップがフロアを埋め尽くす……まさに壮観、美しい日。アドレナリンを引き出すギターリフから突入した「ひたむき」でも、あうんの呼吸でシンクロする照明もろとも降り注ぐ、ライブハウスからやってきた最強のジャパニーズポップミュージック。SUPER BEAVERのライブは、とりわけこの日は、見る者の心を解放するのが早かった。持ち時間をかけてそれを実現するのではなく、とことん楽しみ/楽しませる時間を一秒でも長くしたいという気迫が音楽に乗り、Zepp Namba(OSAKA)を震わせる!
SUPER BEAVER
「初めてスピッツのCD『ハヤブサ』を買ったのは小学5年生。自分にとって大事なバンドに声を掛けてもらうのがどれだけ光栄かを知ってもらいたいわけではなく、その気持ちを持ってオンステージする俺たちと、あなたが一緒に作る音楽をスピッツにぶつけられたら最高だなと思ってるんです。壁を作らず、一対一の音楽を受け取めてくれてありがとうございます! GOING UNDER GROUNDからHomecomings、我々SUPER BEAVERとつないできたバトン、責任をもってスピッツに渡しますんで。昨今珍しい愛だとか夢だとか希望とか未来のこととか……誰も言わないみたいなんで、俺たちが代わりに言わせていただきます!」(渋谷、以下同)
こんなにも頼もしい「アイラヴユー」が他にあるのかという圧巻の光景を経て、「最高ですね。でも、この後もライブを続けるうえで知ってもらいたいことがあって。自分一人いなくたっていいと思ってるんだろ、絶対にそんなことないぞ!」という渋谷の呼び掛けと地続きで魂を突き上げる、「小さな革命」が胸に深く優しく突き刺さる。最後は「27」「切望」「青い春」と、ぶち上がり過ぎてぶっ倒れそうな3連発をオーディエンスと共に作り上げたSUPER BEAVER。スピッツに渡したバトンは、ヒリヒリするような余韻に満ちていた。
スピッツ
SEも何もない暗闇に送られるひときわ大きな歓声。粼山龍男(Dr)のパワフルなドラムが導いた「醒めない」から、まるで気負うことのないリラックスした面持ちの本日の主役、スピッツ。ファンとバンドが積み上げた信頼感という見えない絆をひしひしと感じながら聴く「ハチミツ」が、今でも甘酸っぱく響くのはなぜだろう? スピッツの解けない音楽の魔法に心地良く揺れたかと思えば一転、三輪テツヤ(Gt)のきめ細やかなギターとともにグンとスピードを上げ疾走した「恋する凡人」、Vaundyのアンセム「怪獣の花唄」のカバーと畳み掛ける! 当然のごとく草野マサムネが歌えばそれはスピッツの歌になり、いい声といい演奏でいい曲を聴く、当たり前のようで誰もが成し得るわけではない幸福を享受する。
「ロックロック!?」(草野)「こんにちはー!」(お客さん)という恒例のやり取りから、「ありがとうございます、これをもう26回ぐらいやってるんですけど(笑)」(草野)、「これってさ、俺らの唯一のコール&レスポンスだよね?」(田村)、「マジ卍(笑)。ただ残念なお知らせですが、ピークはここです(笑)」(三輪)と和気あいあいのメンバーが、共演した3組についても触れていく。
「今日は久々にGOING UNDER GROUNDのライブを見て、(松本)素生くんの声が全然変わらなくて……自分まで若くなった気がした。アンチエイジング・マサムネです(笑)。Homecomingsのカバーを聴いて涙が出そうになりましたし。でも、スピッツ好き好き光線を出してくれる人には会わない方がいいのかなと思うこともあって。見せられないところがいっぱいあるので(笑)。SUPER BEAVERもすごくカッコよかった。俺の中では甲本ヒロト、吉井和哉、渋谷龍太だよ。何年か前まではそこにTOSHI-LOWくんが入ってたんですけど(笑)」と草野がいたずらっぽく笑えば、「下剋上だね(笑)」と三輪が合いの手を入れるいいコンビ。
中盤に聴かせた爽快感抜群の「群青」、見渡す限りが手を振った代表曲「空も飛べるはず」といった楽曲群を前にすると、バンドの信念は物言いでも立ち回りでもなく音楽にこそ宿ると改めて感じる。真っ赤な光を浴びた激情の「ローテク・ロマンティカ」では、サイケなグルーヴがエネルギッシュに炸裂する!
「衰えを感じないのよ。正直、40代の頃の方が衰えてきたなと思ってたけど、最近はちょっとね、みなぎってます(笑)。また今日を糧に面白いスピッツをお見せできたらと思ってますので。いろいろと刺激をくれたGOING UNDER GROUND、Homecomings、SUPER……BEAVER」と途端に口ごもった冗談みたいな草野に対し、「衰えてんじゃん!(笑)」と三輪が見事なツッコミ(笑)。気を取り直して、「脳を鍛え直してまた皆さんとお会いできたらなと思いますので、まだまだついてきてください(笑)」とちゃめっ気たっぷりに草野が意気込んだクライマックスは、はかなき旋律に満場の拳が上がった「美しい鰭」、ポリスばりにロックでレゲエなアレンジから突っ走る「8823」と立て続け、本編ラストはケルティックな祝祭の「野生のポルカ」で大盛り上がり!
アンコールでは、「ちょっと古めの曲を聴いてもらおうと思います」(草野)と届けた「歩き出せ、クローバー」、オーラスにふさわしい「めぐりめぐって」で再びZepp Namba(OSAKA)の沸点を上げ、スピッツが一日目を締めくくった。
クロージングトークでは、FM802 DJの加藤真樹子と中島ヒロトがXで募ったリスナーの「これまで一番積み上げてきたこと」をピックアップ。トリの大役を果たしたスピッツは「最高でした!」(粼山)、「いっぱい吸収させてもらった」(草野)と口々に感想を述べる。出来たてほやほやのエンドロールには、今日一日のライブの模様やトークブースでの楽しそうな写真がいち早く反映されており、訪れた全ての人にとって最高の思い出になったに違いない。
なお、スマートフォン(iPhone/Android)対応の『ロックロックこんにちは!Ver.26 -tsumu-』NFTデジタルパンフレットが1000部限定で発売中。出演アーティストのフォトセッション、リハーサル&楽屋スタジオ(3D撮影Ver)、ソロカットなど多数掲載のフォトレポートなど、同パンフレットでしか見られない内容が随時更新されているので、そちらもお楽しみに。
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=オフィシャル提供(撮影:河上良/Hoshina Ogawa)
2日目のレポートはこちら!
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