「浸潤性小葉がん」の症状・原因・ステージ別の治療法はご存知ですか?医師が解説!
浸潤性小葉がんとは?Medical DOC監修医が浸潤性小葉がんの症状・原因・ステージ別の症状・余命・生存率・治療法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
≫「乳がん」を発症すると「見た目」にどんな変化が現れる?医師が徹底解説!監修医師:
山田 美紀(医師)
慶應義塾大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、総合病院や大学病院にて形成外科、外科、乳腺外科の研鑽を積んできた。医学博士。日本外科学会 外科専門医、日本乳癌学会 乳腺認定医、検診マンモグラフィー読影認定医(A判定)の資格を有する。
「浸潤性小葉がん」とは?
乳がんとは乳腺にできる悪性腫瘍です。乳腺は乳管と小葉から成り立ち、乳がんの多くは乳管から発生する乳管がんです。浸潤性小葉がんは小葉から発生し、がん細胞が小葉の周りの組織にまで達している(浸潤)状態です。特殊型乳がんの一種であり、その割合は約5%といわれています。また、50歳以上に多いとされています。比較的予後の良いタイプですが、遅くに再発する例がやや多いといわれています。
浸潤性小葉がんの代表的な症状
浸潤性小葉がんの症状についてご紹介します。
乳房のしこり
乳房に硬いしこりの症状を自覚することがあります。浸潤性小葉がんはパラパラと散らばって多発する特徴があり、しこりが大きくなってから発見されることが多いです。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
乳房の左右差
しこりが大きくなると乳房の左右差に気が付くことがあります。鏡の前で日々、ご自身の乳房を見てみましょう。変化に気が付いたら、早めに乳腺科を受診しましょう。
乳房のへこみ
しこりが大きくなり、皮膚に近い場合、乳房の皮膚のへこみや乳頭の陥没を自覚することがあります。新しく変形が生じた場合は、乳がんの可能性があるため、早めに乳腺科を受診しましょう。
浸潤性小葉がんの原因
浸潤性小葉がんに特有の原因については分かっていません。乳がんの原因についてご紹介します。
遺伝
乳がんの5~10%は遺伝性であるといわれています。血のつながった家族に乳がん患者さんがいる場合、血縁関係が近いほど、人数が多いほど、乳がんになるリスクが高くなります。ご家族に乳癌の方がいる場合は、特に定期的な乳がん検診が重要です。
エストロゲンにさらされている期間が長い
乳がんの発症にはエストロゲンという女性ホルモンが関係することがわかっています。月経のある期間が長い、出産経験がない、授乳経験がないなどが危険因子です。早期発見、早期治療のために乳がん検診が大切です。
生活習慣
乳がんになる原因として、環境要因もあります。肥満や飲酒、喫煙などの生活習慣が乳がんになるリスクであるとわかっています。バランスの良い食事と運動習慣を心がけることが大切です。
浸潤性小葉がんのステージ別の症状
浸潤性小葉がんのステージ別の症状について解説します。
浸潤性小葉がん・ステージ1の症状
ステージ1はしこりの大きさが2cm以下であり、リンパ節転移なしの早期の段階です。症状として乳房のしこりを自覚することがあります。浸潤性小葉がんの場合は、しこりに気が付かないことも多いです。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
浸潤性小葉がん・ステージ2の症状
ステージ2はステージ1と比べて、しこりが大きいため、乳房のしこりの症状に気が付くことがあります。また、脇のリンパ節に転移がある場合は脇にしこりを触れる可能性もあります。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
浸潤性小葉がん・ステージ3の症状
ステージ3はステージ2と比べてリンパ節転移があり、しこりの範囲も広がっている段階です。この段階では、乳房のしこりに加えて、乳房の変形に気が付くことがあります。乳がんが皮膚に露出して赤くただれることや、脇や鎖骨のリンパ節の腫れの症状が出る場合があります。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
浸潤性小葉がん・ステージ4の症状
ステージ4はしこりやリンパ節転移の状況にかかわらず、がんが他の臓器へ転移している状態です。転移した場所によって起こりうる症状はさまざまです。乳がんは骨・肺・肝臓・脳に転移することが多いです。骨に転移した場合は痛みや神経症状、肺に転移した場合は息苦しさや咳などの症状が出る場合があります。脳に転移した場合は、頭痛やめまい、麻痺などの神経症状がでることがあります。通常の乳管がんとは異なり、浸潤性小葉がんは、消化管、腹膜、卵巣や子宮に転移をすることがあるという特徴があります。症状がある場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
浸潤性小葉がんのステージ別の余命・生存率
浸潤性小葉がんのステージ別の余命・生存率について解説します。
浸潤性小葉がん・ステージ1の余命・生存率
ステージ1の5年生存率は98%であり、完治する可能性が高いです。ステージ1では乳腺外科で手術を行います。乳房部分切除術を行った場合は、術後に放射線治療科で放射線治療を行います。乳癌のサブタイプに応じて、再発予防のための薬物治療も行います。
浸潤性小葉がん・ステージ2の余命・生存率
ステージ2はステージ1と比べて、しこりが大きい、または脇のリンパ節転移がある状態です。ステージ2の5年生存率は81~94%です。完治を目指して治療を行います。ステージ2の治療は乳腺外科で手術を行います。乳房部分切除術を行った場合は、術後に放射線治療科で放射線治療を行います。また、全摘出した場合でも、リンパ節転移陽性であれば放射線治療を追加します。乳がんのサブタイプにあわせて、手術の前後に薬物治療も行います。
浸潤性小葉がん・ステージ3の余命・生存率
ステージ3はステージ2と比較し、リンパ節転移があり、しこりの範囲も広がっている段階です。ステージ3の5年生存率は72%程度です。ステージ3の手術を可能にするために、まず薬物療法から行います。手術が可能になった場合は乳腺外科で手術を行います。退院後、放射線治療に通います。手術後も再発リスクを抑えるための薬物治療を継続して行います。手術が難しい場合は、薬物治療を継続します。完治を目指して治療を行います。
浸潤性小葉がん・ステージ4の余命・生存率
ステージ4はがんが他の臓器に転移している段階です。ステージ4の5年生存率は20~30%です。基本的に手術は行わず、乳腺科で薬による全身治療を行います。この段階は完治をするのが難しいです。がんの進行を抑えて症状を和らげ、QOLを保ちながら長期の生存を目指します。
浸潤性小葉がんの進行速度
浸潤性小葉がんの進行速度について解説します。浸潤性小葉がんは乳管がんと比べて、術後6年以内の再発が少なく、術後10年以内の死亡リスクも低いと報告されています。一方で、それ以降の再発リスクは小葉がんの方が高くなります。浸潤性小葉がんは乳管がんと比較し、手術から時間が経って再発する傾向があります。
浸潤性小葉がんの主な治療法
浸潤性小葉がんは特殊型乳がんですが、現段階では通常の乳管がんと同様の治療が行われます。ホルモン受容体陽性、HER2陰性のサブタイプが多いといわれています。
手術
乳腺外科に入院し、手術を行います。乳がんの手術は大きく分けて、乳房部分切除術と乳房全切除術があります。乳房部分切除術の場合は4日程度、乳房全切除術は1週間程度の入院期間です。浸潤性小葉がんは、がんが散らばって多発するという特徴があり、乳房全切除術となることが多いです。
放射線治療
放射線治療は放射線治療科に通院して行います。乳房部分切除術を行った場合、残っている乳房に放射線照射が必要となります。乳房を全摘出した場合でも、リンパ節転移陽性の場合に放射線治療が必要となることがあります。平日に連続して4~6週間通院します。
薬物療法
乳がんの薬物療法は内分泌療法、化学療法、分子標的薬などがあります。乳がんのサブタイプや進行度に合わせて、治療を選択します。薬物療法は再発リスクを下げる、手術前にしこりを小さくする、転移している場合に延命や症状緩和の目的で行われます。どの治療も乳腺科に通院して行います。
「浸潤性小葉がん」についてよくある質問
ここでは「浸潤性小葉がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
浸潤性小葉がんはマンモグラフィーで発見することができるのでしょうか?
山田 美紀 医師
マンモグラフィーで発見することは可能です。しかし、浸潤性小葉がんは早期だと腫瘤(しこり)としてわかりづらく、発見が遅れることがあります。超音波検査を併せて行うと早期発見の助けになる可能性があります。
編集部まとめ
浸潤性小葉がんの特徴についてご紹介しました。浸潤性小葉がんは予後が比較的良いとされています。一方で、通常の乳管がんと比べて、遅くに再発する例がやや多いです。浸潤性小葉がんは通常の乳管がんと比べて症状が分かりにくく、マンモグラフィーやPET-CT等の検査で発見しづらいことがあります。ややしこりが大きくなった状態で発見されることが多いですが、定期的な乳がん検診が大切です。
「浸潤性小葉がん」と関連する病気
「浸潤性小葉がん」と関連する病気は1個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
婦人科の病気
卵巣がん(遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合)
遺伝性乳がん卵巣がん症候群の場合は、乳がんになるリスクが高くなります。この場合、乳房造影MRIも併せた検診や予防的乳房切除を行います。
「浸潤性小葉がん」と関連する症状
「浸潤性小葉がん」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
乳房のしこり
乳房の左右差
乳房の変形
浸潤性小葉がんではこれらの症状を自覚することがあります。しこりが散らばって多発する特徴があるため、初期の段階では症状に気が付きにくいです。
参考文献
乳癌診療ガイドライン2022年版(日本乳癌学会)
患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版(日本乳癌学会)