撮影現場では、自作のトマトジュースをふるまったりもしているらしい。ジュースにパスタソース。ジューシーなトマト人間・松山ケンイチ。そうやって身も心も大地に腰をすえている俳優だから、『虎に翼』であれだけ毅然とした裁判官像を体現できているのかもしれない。

◆大地と自然と対話するスタイル

 松山は大地とのつながりによって、どんどん視野を広げているようである。田舎での農作業は楽しいスローライフばかりというわけにはいかない。計画的な農作業では天敵となる害獣との戦いもある。

 害獣駆除作業に自ら従事しながら松山が気づくのは、駆除された獣の肉は食肉として使われるのに余った皮が捨てられてしまうこと。どうにかこの皮を利用できないものか。そこで2022年、妻の小雪とともにアップサイクルライフスタイルブランド「momiji」を立ち上げる。

 モミジとは、鹿肉の別称。『百人一首』由来とされるこの別称を自分のブランド名にしてしまうあたり、都会からきた田舎生活者のちょっとやそっとの発想を超えている。YouTubeにアップされている動画「松山ケンイチが始めた、自然との共生の試みLife in Deep Woodsサステナぶる人インタビュー」(エスクァイア日本版のチャンネルより)では、獣の皮をはいでいく松山の姿が写る。

 大地と自然と対話する俳優。「その日を摘む」現在の松山ケンイチのスタイルだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu