『虎に翼』写真提供=NHK

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 『虎に翼』(NHK総合)の放送もラスト2週に。最終章の週タイトルも、これまでと変わらず女性に関することわざに「?」をつけたもの。女性に対する偏見とも感じられることわざが26個も存在したのかと、改めて気付かされた。

参考:『虎に翼』第15~22週の週タイトルの意味を解説 こんなにも多い“女”が入ることわざ

 第23~26週は、原爆裁判や少年法改正の是非、尊属殺人重罰規定に関する裁判と社会の激動を描きつつ、猪爪家、星家の家庭内の問題をリンクさせたストーリーとなっている。ストーリーを後押しするように付けられた週タイトルの意味を解説しつつ、内容を振り返っていく。

■第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」 「始めは処女の如く、後は脱兎の如し」は、「最初のうちはおとなしく振る舞って相手を油断させ、その後は見違えるほど素早く行動して敵を倒すこと」を意味する(※1)

 昭和34年になり、直明(三山凌輝)と玲美(菊池和澄)の間にも子供が産まれ、にぎやかになった猪爪家。星家では、認知症の症状が進行する百合(余貴美子)を寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)、子どもたちが支えていた。東京地裁では、「原爆裁判」の口頭弁論が始まるという矢先、原告側弁護士の雲野(塚地武雅)が急逝。寅子も更年期障害の症状が出るなど、年月の流れと登場人物たちの老いを感じる描写が多く見られた週だった。

 記者の竹中(高橋努)を含め、それぞれが意思を持って戦争を捉え直すこととなった「原爆裁判」。キーマンになったのは、被爆者の一人・吉田ミキ(入山法子)だ。一度は、原告側としての出廷を決意するも、よね(土居志央梨)の言葉に背中を押され手紙という形で思いを伝えた。

 被爆者という立場で、裁判に出廷するべきだと自分を奮い立たせるミキに、よねは「地獄は選んでいい」と、出廷取りやめを促す。第23週の週タイトルにある、“弱い立場を振る舞ったのちに、素早く行動して敵を倒すこと”に、NOを突きつける形となった。

■第24週「女三人あれば身代が潰れる?」 「女三人あれば身代が潰れる」は、「娘が三人いると、嫁入り支度で財産がなくなってしまうということ」を意味する(※2)

 昭和44年になり、桂場(松山ケンイチ)が、最高裁判所長官に就任。寅子の娘・優未(川床明日香)も博士過程の大学院生になり、進路に悩むように。さらに、のどか(尾碕真花)の婚約者も登場。香淑/香子(ハ・ヨンス)の娘・薫(池田朱那)は大学生となり、学生運動に熱中している。香淑の生まれが朝鮮であることを知り、香淑の行動を責めるような言動をしてしまう。よねと轟(戸塚純貴)のもとには、尊属殺人の罪に問われている美位子(石橋菜津美)が弁護を依頼しにきていた。

 昭和中期となり、経済の急激な成長とともに学生運動や少年法改正の是非、尊属殺人重罰規定の見直しのきっかけと社会のめまぐるしい動きを反映する週だった。変化する社会のなかで、優未は大学院中退を選び、のどかは画家の婚約者と結婚、薫は香淑との和解を果たす。

 第24週のタイトルになっている3人の娘とは、寅子の娘・優未とのどか、香淑の娘・薫を指しているのだろう。彼女たちは親に嫁入り支度をしてもらうことなく、それぞれが自分が生きたいと思う人生に向けた選択をした。自分の人生の責任は自分で取るからこそ、誰かに強制されることはないという、「?」がつく意味を感じる週タイトルだ。

■第25週「女の知恵は後へまわる?」 「女の知恵は後へまわる」は、「女は知恵の回りが遅く、事が終わってからいろいろと考えつく」という意味。(※3)

 少年法改正を審議する部会の委員となった寅子は、はじめから法改正ありきで進められる議論に異を唱える。また、若手の仲間たちと勉強会を開いていた朋一(井上祐貴)やその仲間たちに突然異動が言い渡され、司法の独立を守るためと語る桂場の行動に寅子は疑問を持つようになる。一方、航一(岡田将生)は上告された美位子の事件について、よねと轟から事件の概要を詳しく聞いたことで、尊属殺人重罰規定について最高裁で扱う意味を感じていた。予告では、美佐江(片岡凜)と思しき少女も登場した。

 比較的短期間で一つ一つの問題を解決してきた『虎に翼』のなかで、唯一遺恨が残ったままにされているのが、新潟編に登場した美佐江の問題だ。新潟での美佐江との出会いから20年近く経ち、現在の寅子があの時の美佐江への対応にどのような感情を抱いているかが描かれるだろう。週タイトルから考えると、寅子が終わってしまったことに後悔する展開になることもあり得そうだ。

■第26週「虎に翼」 最終週になる第26週は、女がついたことわざではなく、作品タイトルにもなっている「虎に翼」。「勢力のあるものに、さらに力強いものが加わることのたとえ」である(※4)

 『虎に翼』は、一貫して“法の下の平等”を描いてきた。日本国憲法第14条にあるように、人種、信条、性別、社会的身分又は門地に関係なく、法の下では平等に扱われる。その人が生きたいと思う人生を邪魔する権利も、命を脅かす権利も誰にもないのだ。

 『虎に翼』の作中の人物たちは、みな自分で自分の未来を選択し、生きたいように人生を歩んでいた。「虎に翼」とは、好きなように自分の人生を生きたいと願う人々(虎)に授けられた、“法の下の平等”という翼を表しているのかもしれない。一方で、“法の下の平等”に反していると感じるような事象は、現在も存在している。現代で感じる「はて?」についても、よく考えなければならないだろう。

 どんな人もスンッとすることなく、自分自身の権利を守って好きな人生を歩んでいいというメッセージが込められた最終週となるか。

■参考※1. https://kotowaza.jitenon.jp/kotowaza/4051.php※2. https://kotowaza.jitenon.jp/kotowaza/1831.php※3. https://kotobank.jp/word/%E5%A5%B3%E3%81%AE%E7%9F%A5%E6%81%B5%E3%81%AF%E5%BE%8C%E3%81%B8%E5%9B%9E%E3%82%8B-456003※4. https://kotowaza.jitenon.jp/kotowaza/917.php(文=古澤椋子)