『逃げ上手の若君』©松井優征/集英社・逃げ上手の若君製作委員会

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 『週刊少年ジャンプ』連載のマンガを原作としたTVアニメ『逃げ上手の若君』が2024年7月から放送され、大きな話題を呼んでいる。同作は鎌倉幕府の滅亡直後を舞台として、北条家の生き残りである少年・北条時行が戦乱を駆け抜けていく……という物語だ。

参考:是枝裕和も驚いた天才子役・柊木陽太 『怪物』『最愛』『PICU』で示してきた逸材ぶり

 ここ数年ジャンプ作品の実写化が相次いでいるが、緻密な設定の歴史スペクタクル作品である同作に関しては、とくに馴染みやすいかもしれない。そこで今回は歴史ものの総本山とも言える“NHK大河ドラマ”での実写化について、無理を承知で妄想してみたい。

 『逃げ上手の若君』の物語は1333年、足利郄氏(後の尊氏)が謀反を起こし、鎌倉幕府を滅亡させるところから幕を開ける。北条の跡継ぎでありながらまだ幼い少年だった北条時行はすべてを失い、諏訪頼重の導きのもと鎌倉を脱出し、「天下を取り返す鬼ごっこ」へと身を投じていく。

 この北条時行は史実では「中先代の乱」くらいでしか名前を残していないため、歴史ものとしてはマニアックな題材なのだが、大河ドラマにて同じ時代が描写されたことはあった。1991年に放送された『太平記』だ。同作の題材となっているのは、真田広之演じる足利尊氏の誕生から死去まで。つまり鎌倉幕府を滅亡させる側とさせられた側……という意味で、歴史を逆の視点から描いた物語だった。

 大河ドラマといえば、豪華絢爛なセットや贅沢なキャスティングが大きな見どころだが、『太平記』もそうした魅力に満ちていた。たとえば『逃げ上手の若君』でも描かれた鎌倉陥落のシーンを見てみると、燃え上がる鎌倉市街地で武士たちが切り結んだり、片岡鶴太郎演じる北条高時が死を目前に舞を踊ったりと、思わず息を飲むような映像が満載だった。

 もし『逃げ上手の若君』が大河ドラマになったとしたら、当時の風景をリアルに再現したセットのもと、実力派役者たちによる競演が楽しめるのではないだろうか。

 それでは『逃げ上手の若君』の実写化にふさわしいキャスティングについても考えてみよう。主人公・時行を始めとして、10歳前後の少年少女がメインキャラクターとなる作品なので、まず魅力的な子役陣を揃えることが重要になりそうだ。

●北条時行 具体的に配役を検討していくと、時行はある種のカリスマとして物語を導いていく存在なので、そのキャストには確かな実力が求められる。その点でキャスト候補として真っ先に挙げたくなるのが、柊木陽太だ。

 『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の“ジャンケン小僧”大柳賢役として独特の世界観を作り上げたほか、是枝裕和監督の映画『怪物』では主人公の1人、星川依里役として末恐ろしい演技を見せ、日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得。さらに『光る君へ』(NHK総合)の一条天皇役で、大河ドラマデビューまで果たしている。現在13歳でありながら、すでに物語を1人で成立させる実力をもっている逸材なので、時行役として申し分ないだろう。

●雫 また諏訪大社の小さな巫女・雫の役には、白鳥玉季の放つ透き通るような空気感が似合うかもしれない。白鳥は2023年放送のドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)や2024年5月公開の映画『からかい上手の高木さん』など、話題作に引っ張りだこの14歳。大河ドラマ『どうする家康』の茶々役(幼少期)として、鬼気迫る演技を披露したことも記憶に新しい。

●亜也子 亜也子は「逃若党」のなかでは身体が大きく、怪力を武器にして戦う少女。そのキャストとしては、10月2日から放送されるドラマ『高杉さん家のおべんとう』(日本テレビ系)にて、ヒロイン・高杉久留里役を演じることが決まっている平澤宏々路を挙げたい。その演技力もさることながら、Prime Videoのドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』では軽快なアクションを披露していたので、亜也子の戦闘力を上手く再現できそうだ。

●弧次郎 同じく「逃若党」の弧次郎役には、荒木飛羽の名前が思い浮かぶ。『あなたの番です』(日本テレビ系)の榎本総一役や、『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』で子ども時代の雪代縁を演じていたことで有名なティーン俳優だが、子どもながらに剣術に秀でていて野性味のある弧次郎にぴったりな印象を受ける。

●風間玄蕃 そして変幻自在の変身術を使いこなす「逃若党」の忍・風間玄蕃役としては、『スカーレット』(NHK総合)、『おちょやん』(NHK総合)、『舞いあがれ!』(NHK総合)と朝ドラの常連となっている中須翔真の演技を見てみたい。中須は6月7日に公開された杏主演映画『かくしごと』にて、物語の中心人物となる少年の役を演じており、将来に期待がかかる早熟の13歳だ。

●諏訪頼重 そのほか時行たちを取り巻く大人たちについては、大河ドラマらしい実力派のキャスティングが望ましいだろう。まずもっとも重要な存在の1人である諏訪頼重については、5度にわたって大河ドラマに出演してきた高橋一生に演じてほしい。

 頼重は諏訪大社の当主にして“現人神”と呼ばれる神秘的な人物だが、その一方でコミカルな言動も多い。クセの強いキャラクターを難なく演じられる高橋であれば、その唯一無二の存在感を再現できそうだ。

●吹雪 また「逃若党」の軍師となる吹雪役に合いそうなのは、板垣李光人。22歳にして大河ドラマに3回出演している実力派で、『どうする家康』(NHK総合)の井伊直政役ではそのルックスを活かしたキャラクターを見事に演じていた。どこかミステリアスで中性的な魅力を持った吹雪にぴったりではないだろうか。

●足利尊氏 それに対して、時行にとって宿敵となる悪のカリスマ・足利尊氏の役には、大河常連俳優の小栗旬がふさわしいように思われる。『鎌倉殿の13人』(NHK総合)では主人公・北条義時を演じていたが、この人物は時行で途絶える北条得宗家のご先祖様にあたるので、皮肉を込めたキャスティングとしても面白そうだ。

●小笠原貞宗 もう1人の悪役として序盤に活躍する小笠原貞宗は、人間離れした視力をもつ“バケモノ”的な存在として描かれている。その不気味さを表現できる役者としては、『龍馬伝』(NHK総合)から『どうする家康』(NHK総合)まで5度も大河に出演してきた名バイプレーヤー・駿河太郎を推したい。

 実現の可能性はともかくとして、『逃げ上手の若君』の設定は思わず大河ドラマ化を想像したくなるほど魅力的だ。今後のメディアミックス展開にも注目しつつ、アニメ版の盛り上がりに期待していきたい。(文=キットゥン希美)