ジャーナリズムをどこまで守ることができるのか? 世界最大級の SSP が考える、健全なエコシステム構築に必要なこと
広告目的で作られたサイト、MFA(made-for-advertising)に広告費が不正に流出することは、広告主はもちろん、パブリッシャーにとっても深刻な問題で、プログラマティック取引を行う際の大きな課題になっている。世界最大級のSSPであるIndex Exchangeで最高顧客責任者を務めるジェシカ・ブレスラフ氏は、「MFAを完全に排除するためには、パブリッシャー、SSP、DSP、エージェンシーが力を合わせてこの問題に取り組むことが必要だ」と語る。ジェネレーティブAIの普及により、今後のデジタル広告環境には透明性やクオリティの担保を求める声がより一層強くなることが予想されるが、どうすれば健全なエコシステムを構築できるのか。来日したジェシカ氏、そして5月28日に同社とパートナーシップを発表した電通ジャパン・インターナショナルブランズ(DJIB)の星貴也CIO(最高統合責任者)に、日米におけるプログラマティックバイイングの状況、さらにジェネレーティブAIによる影響なども交え、話を聞いた。◆ ◆ ◆
日本の「透明性やクオリティ担保に対する意識」が強くない理由
DIGIDAY編集部(以下、DD):昨今、プログラマティック広告の健全性が著しく低下していることについて、どう感じていますか?ジェシカ・ブレスラフ氏(以下、ジェシカ):米国ではデジタル広告に関わる多くの人が、透明性やクオリティ担保の必要性を強く感じています。業界全体が非常に大事な局面を迎えているので、Index Exchangeにおいてもさまざまなツールやソリューションを開発してきました。それらがプログラマティック広告の健全性につながっていくと考えていますが、他方で支払った広告費が実際にどのように使われているのか、きちんとプレミアムなパブリッシャーに届いているのかについて、広告主が把握されることも大事だと考えています。
ジェシカ・ブレスラフ(Jessica Breslav)/Index Exchange最高顧客責任者。2004年よりデジタル広告に携わり、世界的アフィリエイト・マーケティング・ネットワークCommission Junctionで顧客サービスのリーダーを担当。その後、Criteoでは南北アメリカ担当のエグゼクティブ・マネージングディレクターなどの上級職を務め、商品の多角化とサービスソリューションの推進に貢献。現在はIndex Exchangeのグローバルサービスと運営を統括する最高顧客責任者として、メディア企業・広告代理店・チャネルパートナーに、世界水準のソリューションを提供している。

星 貴也/電通ジャパン・インターナショナルブランズ(DJIB)最高統合責任者。外資系広告代理店を経て、2006年に電通グループに入社。アカウントディレクターとして世界各国と連携をしながら、日本市場における外資系クライアントの戦略から実行までの実務を担当した後、2023年1月より現職。国内外のマーケティング活動や統合コミュニケーションに関する幅広い知識と経験を活かし、DJIBの最高統合責任者として戦略プランニングやソリューション開発、ストラテジー提供を担当する統合ソリューション室を管轄している。
MFAを完全に排除するための3つのポイント
DD:MFAに関して、いま米国ではどのようなことが話題になっていますか?ジェシカ:現場でよく議論されるのは、「これからのジャーナリズムを我々はどこまで守れるか」という課題です。MFAリスクを突きつけられているパブリッシャーの危機意識は高く、かなり理解は進んでいるので、SSPである我々もさまざまな方法でこの課題に対応しています。次に話題にあがるのは、「広告費がどう流通するか」というお金の回り方について。本来、プレミアムパブリッシャーに届くべき広告費がMFAに流れることがないよう、バイヤーのみなさんにも細心の注意を払っていただく必要があります。加えて、「パブリッシャーが手を組むSSPについての理解」を深めていただきつつ、「パブリッシャー同士が足並みをそろえて対応すること」も重要だと話しています。DD:MFAを完全に排除するために何をすべきでしょうか?ジェシカ:MFAを排除するためには、主に3つのポイントがあると考えています。まずひとつ目は、SSPが広告取引の場からMFAを排除し、購入できない状況を作り上げること。そのため当社ではテクノロジーを駆使しつつ、人の目でもしっかりモニタリングすることで、MFAフリーな環境を作っています。そして2つ目は、バイヤーがブロックドメインリストからパブリッシャーリストへきちんと移行すること。最後の3つ目は、デジタル広告に関わるパブリッシャー、SSP、DSP、エージェンシーがパートナーシップを構築し、互いに力を合わせてこの問題に取り組むことです。そうすることでMFAのない、より良いエコシステムに変えていけるのではないかと期待しています。DD:安全性を考えると、Index Exchangeも取り扱うPMP(プライベート・マーケット・プレイス)が理想的な環境なのではないかと思いますが、日本での需要はいかがでしょうか?星:現状の需要は高いとは言えません。PMPを利用すると、単価が高くなるのでROAS(ロアス)が見合わないと考えられているからです。PMPであれば安全で効率的にプログラマティック広告を運用できることを、我々エージェンシーが合理的に説明していけば、クライアントのみなさんも納得して投資していただけるようになることを期待します。プログラマティックには効率優先のイメージがあります。しかし、単純なコスト効率を優先する広告指標だけでなく、議論のうえでアテンション率や理解率などを加味したKPIを設定できれば、効率とクオリティを担保する、真に質の高い広告を実現できるのではないでしょうか。そのことが業界全体の健全性につながるのだと示すことも、広告業界のリーディングカンパニーである我々の役割だと考えています。
人の目で精査することの重要性
DD:ジェネレーティブAIの普及がMFA問題に与える影響も考えられます。ジェシカ:おっしゃるとおり、ジェネレーティブAIはカスタマーエクスペリエンスの最適化や広告効果の最大化に力を発揮する一方で、MFAを拡大させる危険性もはらんでいます。ジェネレーティブAIによってMFAが量産されると、我々のツールも間違った選択をしてしまいかねません。ただし、ジェネレーティブAIが作ったコンテンツやビジュアルは、どこか違和感があるものが多い。その点でも、Index Exchangeのツールと人の目、両方で精査する方法は有効に機能していると思います。星:ジェネレーティブAIによって今後は検索行動が変わっていくことも予想されるので、社内で研究を進めているところですが、Index ExchangeのようなSSPがMFAを積極的に排除しようとする姿勢は、バイイングサイドから見ても安心できます。DD:最後に、日本のパブリッシャーや広告主にメッセージをお願いします。ジェシカ:日本はデジタル広告において、非常に勢いのあるマーケットです。MFAなどの課題を完全に排除するには、連携が必要だとお話ししましたが、電通ジャパン・インターナショナルブランズとのパートナーシップを通して、我々がその一部になれるのはとても光栄なことで、これからの展開にワクワクしています。星:健全なエコシステムを構築するには、エージェンシーとIndex Exchangeのようなパートナー、そしてクライアントの三位一体で推進しなければなりません。我々が旗振り役となり、さまざまなステークホルダーを巻き込んでいくことで、業界全体がより良い方向へ進めるよう努力していきたいと思います。
文/山本千尋、企画・インタビュー/分島翔平、島田涼平写真/三浦晃一
