夫と双子の息子さんたちと一緒に暮らす、翻訳家・エッセイストの村井理子さん。7月に発売された最新作では、認知症の義母と90歳の義父の介護奮闘記を本音150%、キレイごとゼロで描かれています。今回は、村井さんに介護を通しての気づきや大変さなどお話を伺いしました。

感謝はすごくしている。だけど、自分が施設に入るのは… 

――仕事と家事を抱えながら、義父母の介護に奔走する様子をつづった、最新作『義父母の介護』(新潮社刊)ですが、村井さんが介護を通じて学んだことがあれば教えてください。

村井理子さん(以下、村井):デイサービスにしても、いろんな形のいろんなタイプがあります。ほったらかしスタイルとか、とことん面倒を見るスタイルとか、施設によって全然カラーが違う。うまく選んでいけるか、介護の世界でもコツとか運があるんですよね。そういうのを知るのは、すごく勉強になると思いました。

ただ、いろんな施設を見て回って、それでも私はやっぱりデイサービスには行きたくないです。自分の番が来たら大暴れして拒否するかもしれません。すごく介護従事者の方たちに感謝しているんです。でも、ものすごく感謝していても「行きたいですか?」って言われたら、イヤですね。…どうしてなんですかね? どんなデイサービスなら自分が行きたいだろうって、考えてはいるんですが。

――現在、義両親は施設には入らずに、独立して生活されているんですよね?

村井:施設に入ってほしいとは思っていますが、ただ“待機”が長くて入れないんです…。うちの義母のように要介護3から4だと入れる施設は多いのですが、今すぐとなると、ものすごく費用がかかります。介護保険の範疇で入れようと思ったら、とにかく“空き”が出るのを待つしかない。

待機老人、悪質業者…問題はたくさん

――高齢化社会で、“待機老人”問題も深刻ですよね…。作中では、問題提起として、悪質な業者や商法など「高齢者を騙す人々」についても描かれていますよね。

村井:どんだけ騙されるんだよって話です。義父母の家には、いつの間にか床下に扇風機が100個くらいありました。電気もいつの間にか関西電力から格安電力っていうのに変わっているし(苦笑)。食品もたくさん! キャンセルするの、どれだけ大変か…。

いちばん困るのは電話をかけてくること。最近は不要品買い取りの話が多い。電話にお義母さんが出ちゃうと、はいはいって受けちゃうので困るんですよ…。本作でも書きましたが、男の人の怒鳴り声に驚いたお義父さんが玄関まで這って行ったら、義母が不要品買い取り業者の人に生ゴミを渡して、逆ギレされていた…なんてこともありました。

1から10まで守ることはできないんですが、何回か高額の被害を受けているので、やっぱり気の毒です。コンビニ払いの仕方もわからない老人なので、もうお手上げですよね。自分も年取ったらどうしようって気持ちになります。

――介護は、多岐にわたるサポートが必要ですね。介護が加わったことで、仕事量など変化はありましたか?

村井:私は生活に介護が入ってきても、生活は全然変わっていません。基本的に9時5時でずっと仕事をしています。むしろ仕事量は年々増やしているくらい。エッセイを読むと介護が9割ぐらいに思われるかもしれませんが、実際は仕事が9割で、その合間に介護。

うちは9割介護保険制度の点数を使って外部の方に任せています。介護保険制度をいっぱいいっぱいまで使って、費用的には月々2人で7万から8万円くらい。負担は大きいですが、その分、自分の仕事をしている感じです。

――制度を使うことで、仕事は今までどおりにできていると伺って少しだけホッとしました。では、具体的にはどのような生活をされているのでしょう?

村井:義母は月〜金曜日の9時から17時でデイサービスに通っています。80歳過ぎた人が学生みたいで大変だなと思ったりしますが、義母にとってはこれが今のベストの選択だと思っています。デイサービスに行けば、ごはんが食べられて、着替えができて、お風呂に入って、髪をとかしてもらって…ピカピカになって帰ってこられますから。自宅ではとてもできません。

だんだん義父も慣れたのか、寂しいってあんまり言わなくなって、自分の仕事をしています。庭掃除したり。ただ、すごいうちに電話をかけてくるんですよ。私は定期的にブロックしてます。この前、壁に私の携帯番号が書いてあったから、マッキーで塗りつぶしてきました(笑)。

介護に大切なのは、ほどよい「距離感」

――村井さんのお話を伺っていると、介護には「距離感」を持つことが大切なんですね。

村井:私はすごくあっさりしてます。面倒は見るけど、すぐ帰る。「お義父さん、こんにちは。…はい、バイバイ」って(笑)。でも、やることはちゃんとやります。その代わり、あっさり。それでも義父が追いかけてくるからフルスピードで帰ってきます。振りきって帰ってくる。

2年前のおもちとか、小豆の缶づめとか、家にあるなにかを持って帰れって言うんですよ。けれど、一度も受け取ったことはない。もう本当にビシッと線は引いています。あんまり向こうのペースに巻き込まれないようにしてます。

――無理をせず、自分を大切にした方がよさそうですね。

村井:やっぱり自分が損するのってイヤじゃないですか。だから、自分のプラスになるようにちゃんと考えます。帰りにどこかに寄ろうとか。

――たしかにそういう出来事があると自分のなかでも納得がいきますよね。最後に、今、介護でちょっと疲れていたり、これから介護が始まるかもと不安に感じている方に、メッセージをいただけますでしょうか?

村井:まあ、無理せず、ですね。できる範囲のことをして、できないと思ったことは、もうあっさり諦めるでいいんじゃないかな、って思います。

私の介護は義両親に対してのものなので、じつはそこまでメンタル的に辛くはありません。でも、自分の両親だと、まったく世界が違うとは思います。実親の老いを間近で見ることの辛さや切なさは、メンタルにくるかもしれません。夫を見ているとそう感じますね。逃げるときは逃げる。でも帰ってくる。そんな風でいいのかな、と思います。