「パワハラ上司」に罵倒されるのが楽しくなる…元陸上自衛隊教官が実践している「最強のストレス解消法」
※本稿は、小川清史『どんな逆境でも、最高のパフォーマンスを発揮する 心を「道具化」する技術』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■苦しみを乗り越える「心の切り替え」テクニック
人によってはこれまでの考え方や視点を少し変えるだけで、現在苦しんでいる状況から意外とすんなり抜け出せることがあります。
本稿ではそうした精神的な苦しみを乗り越えるためのヒントになりそうな「心の切り替え」テクニックをいくつか紹介していきます。
では、早速始めましょう。
例えば、理不尽なことばかり言ってきて、感情的に怒りをぶつけてくるようなパワハラ上司がいて困っているとします。しかも、微妙にパワハラとしての決定打がなく会社に訴えても改善が期待できないような状況で、生活の都合上、仕事も辞めるわけにはいかない(あるいはその会社で上を目指しており、将来実現したいことがあるので辞めたくない)。
みなさんならこの状況にどう対応するでしょうか。
できるだけリアルに想像してみてください。
■惨状を予測・反芻することでショックが和らぐ
いま現在みなさんの周りにそうした「どうしてもかかわらなければいけない困った人間」はいないかもしれませんが、生きている以上いつ何時こうしたパワハラ上司の例と似たような状況に陥るかはわかりません。
そのための「心の準備」をしておくことは、私の経験上、とても大切なことだと“断言”できます。
自衛隊では、隊員たちがPTSDを発症する(あるいはそれに近いような精神状態になる)ような過酷な災害現場に遭遇することが何度かありました。
そのような現場に派遣される時、私は、現場に到着しても動揺しないよう、予想される惨状を頭の中で繰り返し繰り返しイメージしていました。
言うなれば、イメージトレーニングです。
一緒に行動する部下たちとも、その現場の想像図を共有するようにしていました。
このように現場の惨状を事前に予測して頭の中で反芻したことは、精神的なショックを和らげる効果が大いにあったと思います。
そういう経験を何度か繰り返していくうちに、私は、自分がひどい目にあった状態をイメージして、それを乗り越えるには、どういう考え方、認識、心のあり様でいればよいかをシミュレーションしてから、事に臨むようになりました。
■パワハラ上司を変えることはできない
「心の準備」は、個人的にも非常に役に立った「精神的な危機を乗り越えるためのテクニック」のひとつです。心に予防接種を打って免疫力を高めたり、心にショックアブソーバーを取り付けたりするようなものだとお考えください。
さて、前述のパワハラ上司の例、みなさんはリアルにイメージできたでしょうか。
あらためて問いますが、みなさんならこの状況にどう対応するでしょうか。
私からは、お勧めしない方法とお勧めする方法があります。
まず、お勧めしない方法は、「上司の人間性を変えようと努力する」ことです。
基本的に「他人を変えよう」としてもうまくいきません。
大抵、無駄な努力に終わります。
どうせ変えるなら、「他人」ではなく「自分」です。ただし、その「他人」に合わせて「自分」を変えることではありません。
そのために、これから紹介する「切り替え」テクニックを活用してください。
■「他人に愚痴る」も控えたほうがいい
また、社内の同僚や友人、家族にその上司の愚痴を漏らして自分のストレスを和らげようとするのも、できるだけ控えたほうが良いでしょう。
マイナスの感情を周囲に撒き散らす行為は結局、自分にとってマイナスになります。
最初のうちは「……うん、うん、確かにそれはひどいね」と優しく聞いてもらえるかもしれませんが、大なり小なり聞き手にマイナスのエネルギーを与えることに違いはありません。その人の許容範囲を超えて愚痴を漏らし続けると、さすがに嫌がられるでしょう。
最悪の場合、本来リラックスできるはずの「ホーム(家庭・ホームグラウンド)」まで居心地の悪い環境になる恐れがあります。それでは、元も子もありません。
やはり、誰かから受けたマイナスのエネルギーの被害を自分の大切な人にまで拡大させることなく、自分のところで断ち切って、プラスのエネルギーに変換できるほうが人として素敵です。
そもそも、仕事以外のプライベートな時間までそんなパワハラ上司のことを頭に思い浮かべ続ける必要はあるのでしょうか。
そういうのは「大好きな人」に対してする行為です。
同じ時間を使うなら、パワハラ上司ではなく、本当に「大好きな人」を思い浮かべたほうが精神衛生上も良いと思います。
■「冷静な第三者」に頼れるなら頼ろう
大切なのは、他人がどうこうではなく「自分がどういう人間になるか」です。
それを忘れて、他人にうらみを持ち続けるようなことばかり考えてしまうのは前述のマイナスのサイクルを生み出すだけなのでやめておきましょう。そもそもうらみを持つということは、目の前にいないにもかかわらずその他人から悪い影響を受け続けていることとなり、自分の心が受けるダメージもだんだんと大きくなります。
誤解のないようにお断りしておきますが、私は別に「自分の悩みを他人に相談するな」と言っているわけではありません。
あくまでもこれは「八方塞がりの状況」に対するシミュレーションです。
現実に「八方塞がり」ではない状況なら、社内その他のハラスメント相談窓口でも、信頼できる他の上司でも、弁護士でも、それこそ活用できるものは何でも最大限活用して窮地を乗り越えてください。転職が可能かどうかも含めて、あらゆるオプションを排除しないようにすべきです。
実は選択肢がたくさんあるのに、精神的に追い込まれてそれが見えていない状態にだけはならないように注意しましょう。
「冷静な第三者」に相談して意見を求めることは、愚痴でも“逃げ”でもありません。
■お勧めなのが「嫌なことを記録する」
このパワハラ上司の例に限らず、誰かに嫌な目に遭わされたら、どうしても精神的に辛いと思います。
そのストレスに対抗しようとするのではなく、まずは精神的な辛さを自覚して受け入れ、どうやったらその嫌な気持ちを引きはがせるか、どうやったら振り切れるかを考えましょう。
そこで、私がお勧めする方法は「記録」です。
書き方は基本的に自由ですが、まずは、「自分が受けた嫌なことは何だったのか」「それに対して自分はどのように感じたのか」を明瞭に認識し、客観的な記述(他人事のような気持ち)でそれをノート等に記録してください。
こうして書くだけでもそれなりにスッキリするのですが、数が増えてくると、今度はバリエーションが欲しくなります。
そうなると、もはや「コレクター」です。
激しく罵倒された時でさえ「おっ、今日はいつもと違うパターンの理不尽な怒り方をされたな」と冷静に受け止めることができて、むしろ家に帰ってそれを記録するのが楽しみになります。その境地に達すると、自然とその上司に対するストレスも軽減されます。
■あくまで冷静かつ客観的に書くことが重要
ただし、記録する際には、憎悪の言葉を書き連ねる等、マイナスの感情を“培養”するような書き方は避けましょう。
基準は、その記録を見返した時に悲しみや怒りなどがこみ上げてくるかどうかです。読み返した時に感情が揺さぶられてしまうような表現はやめておいたほうが良いと思います。
ただひたすら冷静かつ客観的に「コレクション」してください。
そうすれば、その記録は自分だけの「べからず集」になります。
すなわち、「いつか自分が誰かの上司になっても、このような人間にだけは絶対になってはいけない」という教訓集です。
パワハラ上司など特定の人物に限らず、自分が嫌だなと思う人物に出会ったり、誰かに嫌なことをされたりするたびにどんどん記録していってください。
これがさまざまな場面でものすごく役に立ちます。将来に備えての引き出しが増え、その引き出しの中身も充実していきます。
■こうなってはいけない「反面教師」たち
私の個人的な経験ですが、この教訓集作成は「リーダーシップ」を養う最も優れた方法のひとつだと確信しています。
朝令暮改で、気に入らないと直ぐに怒鳴る男性上司、そのくせ若い女性には徹底的に甘く、忙しくて部下の書類を見るだけでも大変なのにそうした女性事務員とはダラダラと会話する……そういったタイプの人は、今でも私の“先生”です。
私の「べからず集」にストックされている方々は、自分で何を言っているのかわからず、相手にどのような印象を与えているか、どのような感情を抱かせているかもまったく理解していない方が少なくありません。
あるいは、「あれは俺がやったんだ」「あの時は苦労したぞ」と言う割に、新しいプロジェクトの開始時には人の影に隠れていて、良い結果が出てから前面に出てくる。
こうした方たちの行動や態度が「べからず集」として今も私の引き出しにたくさん入っています。この方たちは「心は目に見えない」と考え、自分の心のあり様に気を付けていないと思われますが、実際に「心は形」となって表面に出ます。
■いつの間にか「怒り」は消えていく
以前、とあるセミナーで「地方議員の危機時における『べからず集』と『すべき集』を作成して、講義してほしい」と言われたことがあります。その際も、私には引き出しからあふれそうなほどたくさんの事例があるので、参考資料には事欠きませんでした。30分もかからずに10ページほどの資料が作成できたのを覚えています。その内容が具体的で面白かったらしく、妻からは「今までの文章の中で一番面白い」と言われてしまいました(笑)。
もっとも、最初のうちは記録しながら、その人からされた嫌なことを思い出して腹が立ってくるのも仕方ないと思います。
実際、私も心のコントロール力が不十分な時は、「ちくしょう、いつか仕返ししてやる。倍返しだ!」などと、長く尾を引くことがありました。
しかし、これは嫌味でも何でもなく、今では「べからず集」に掲載されている方々(べからず先生方)と出会えたことを心の底から感謝しています。
■理不尽や困難とは戦わず、受け入れる
ちなみに、先ほど「愚痴は避けるように」と述べましたが、この「べからず集」で楽しみながら集めた記録に関しては、他の人に話してもいいと思います(あくまで「こういう人がいて、こんなことをされた」という一般論としてです。個人攻撃するような話し方はやめましょう)。
みなさんが楽しそうに話すなら、それは愚痴(=聞き手にマイナスのエネルギーを与える話)ではありません。気軽に聞ける「楽しい話」です。
実際、私もこうして本書の“ネタ”にさせていただいています。
ポイントはやはり「プレッシャーや困難とは戦わない(真正面からぶつからない)」ことです。
このパワハラ上司の例も同じです。
理不尽な状況や困難な状況に陥ったからといって「自分がこんな目に遭うのはおかしい。理不尽だ。神も仏もないのか」とあがけば、あがくほど苦しくなります。
いっそのこと、今ある状況(現象)を受け入れてみましょう。
「もう起きているからこの状況(現象)はどうしようもない」「では、ここからどうやって解決するかな」とその「理不尽」や「困難」からスタートしてみてください。意外と気が楽になります。スタートする前に悩むのではなく、状況を受け入れてそこからゲームをスタートする感覚です。
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小川 清史(おがわ・きよし)
元自衛隊陸将
1960年生まれ。徳島県出身。主要職歴(自衛隊):第8普通科連隊長兼米子駐屯地司令、自衛隊東京地方協力本部長、陸上幕僚監部装備部長、第6師団長、陸上自衛隊幹部学校長、西部方面総監(最終補職)。退職時の階級は「陸将」。現在、日本安全保障戦略研究所上席研究員。著書に『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)。
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(元自衛隊陸将 小川 清史)