有村架純、迫真の演技に「重くていい」 フジ「海のはじまり」再評価 「浴槽シーン」「ブレンドコーヒー」が意味するもの
緻密な演出で視聴率が上昇
Snow Manの目黒蓮が主演を務める「月9」ことフジテレビ系連続ドラマ「海のはじまり」(月曜午後9時)の評価が変化しつつある。「重くて暗い」との声が相次いでいたが、主人公・月岡夏(目黒)の恋人・弥生を演じている有村架純の迫真の演技と緻密な演出が視聴者に新たな感動を与えているようだ。22日放送の第4話では、弥生が当時交際していた男性に妊娠3か月であることを、腹部のエコー写真を見せて打ち明ける切ない回想シーンが登場した。(※以下、ネタバレがあります)
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連ドラに詳しい放送ライターがこう振り返る。
「弥生から妊娠を告げられた交際相手は、明らかに困惑の表情を浮かべ中絶手術を暗に迫ります。産婦人科で手術後、帰宅した弥生は自宅の風呂の掃除をしている途中、浴槽で滑って腹部をかばいますが、そこにはもう赤ちゃんはいません。弥生は頭からシャワーを浴びて泣きじゃくります。母親になるんだというほのかな期待が残酷に裏切られ、絶望の底に沈んだ弥生の心境が伝わってくる迫真の演技でした」
実はこうした浴槽のシーンは映画やドラマの重要なシーンでたびたび登場する。米映画「レクイエム・フォー・ドリーム」(2000年)ではエレン・バースティン演じるサラが、浴槽でのシーンを通じて精神的な不安定と孤独を表現。米ドラマシリーズ「ビッグ・リトル・ライズ」(2017〜19年)ではニコール・キッドマン演じるセレステが、浴槽で自分の感情と向き合うシーンがある。
同ドラマ第4話を専門的に分析すると次にようになるというから驚く。
「浴槽は外界から隔離されたプライベートな空間であり、個人が自分自身を守る癒しの場所と考えられます。同様に、子宮は生命の源であり保護されるべき場所です。従って浴槽を子宮の比喩として解釈することは自然。また、風呂水やシャワーが羊水の比喩だとすることで、女性が水に浸かる行為が過去の妊娠経験や母性と深く結びついていることを示唆できます。これらの映像表現は表象論という学問分野から盛んに研究されています」(放送評論家)
つらい過去から再生
緻密な演出は他にもあるという。当時の恋人に妊娠を告げた際、弥生は最初、ノンカフェインのコーヒーを飲んでいたが、恋人が去った後、普通のブレンドコーヒーを追加注文した。しかし、一口も飲まずに店を出てしまう。
海外などでは、妊婦がカフェインを摂り過ぎることにより出生児が低体重となり、将来の健康リスクが高くなる可能性があるとし、妊娠した女性に対して1日当たりのカフェイン摂取量を制限するよう呼び掛けている。
ノンカフェインコーヒーは妊娠を示唆する一方、ブレンドコーヒーは妊婦をやめること=その後の中絶を暗示していたのかもしれない。一口も飲まなかったのも出産への未練を表していそうだ。
「喫茶店で夏に過去の中絶を打ち明けるシーンでは、店員がわざわざ『ブレンドです』と言ってコーヒーをテーブルに置いています。8年前に元恋人に妊娠を告白した際の弥生の心境が、ここで繰り返されていることが分かります。長い沈黙の後、弥生は『殺したことある。産んでたらいま海ちゃんくらいの子』『罪悪感がずっとあっていい親になれば楽になれると思いこもうとしていた』と打ち明けます。つらい過去から再生のきっかけをつかむまでの複雑な心境の変化を、有村はうまく演じていました。煮え切らない夏より有村演じる弥生に感情移入することによって、このドラマはずっと面白く見続けられそうです」(前出の放送ライター)
視聴者からは「回を重ねるごとに味わい深い作品になっている」「その後の展開に説得力がある。最後まで見届けたい作品」「重くていい。重たいもの、難しいこと、深く考えることは大切」など再評価の声が相次いでいる。有村の演技と演出が光った第4話。世帯視聴率は第3話の7.1%から7.7%に、個人視聴率も4.0%から4.6%となり前回から各0.6ポイント上昇した。“有村効果”は今後も続くか―。
デイリー新潮編集部