東西線の代行輸送を行う都営バス(東陽町にて、筆者撮影)

さる5月11〜12日に、首都圏の交通網で大規模な輸送計画が実施された。東京メトロ東西線・南砂町駅工事に伴う一部区間運休で、振替輸送が行われたのである。

駅間停車を減らす、列車遅延の防止を図るのが目的

この工事は混雑が激化する東西線において、ラッシュ時間帯に駅と駅の間で先行列車待ちの停車を避けるために、南砂町駅のホームと線路を改良し、1面2線から2面3線に許容量を増やし、駅間停車を減らそうというものである。南砂町駅は地下駅で建設されているため、改良工事を行うには相当な期間と手間がかかる。今回は工事が進行し、線路を切り替えるために利用状況が落ち着いている土日を狙って実施されたものだ。

この2日間は、同線の中野―東陽町間と西葛西―西船橋間のみで電車の運転が行われ、途中の東陽町―西葛西間は、終日にわたって電車の運転は行われなかった(西葛西―葛西間は区間列車を運転。葛西で西船橋駅方面行きに接続)。

東京メトロでは、運休区間を経由する場合はほかの鉄道への振替輸送を利用するように促していたが、実際のところ相当大回りすることになるので、運休となる東陽町―南砂町―西葛西間に列車代行バスの運行も行った。

東西線の混雑は全国的にも有名で、通常の代行としてのバスのキャパではオーバーしてしまうことは明らかであった。筆者が、当日現地取材でとても驚いた光景がある。それは、頻繁に発着を行う代行バスの姿だ。

しかも、さまざまなバス事業者が代行輸送に加担していた。都営バス、京成バス、東武バス、さらに東西線の沿線では見ることのないバスも加わっていた。南砂町駅のバスロータリーでは、普段そこにいるはずのない京急バスと国際興業バスが並ぶという不思議な光景を目の当たりにした。

色とりどりのバスが運行

代行輸送で運行したバス事業者は、確認しただけでも10社局ほどにものぼり、色とりどりのバスが東西線運休区間を代行した。

乗車の際には、スタッフが同区間を経由する乗車券(定期券)を確認し、そのまま乗車する。ある程度席が埋まると、発車していくという体制で運行を行っていた。

車両のダッシュボード付近は、号車番号と思われる札が掲げられ、100番単位が表示されていたことから、かなりの台数が関わっていたと感じた。

ホットな話題としては区間列車の運転でスタフ閉塞(1つの駅間で1つのみの通票を使用し、その通票を持っていない列車は出発しないと定めることにより閉塞を実現する方式)がよく取りあげられていたが、この代行バスの輸送もどのように行っていたのか気になるところだ。

そこで東京メトロとバス代行輸送の幹事役を務めたジェイアールバス関東に話を聞いた。


ジェイアールバス関東のバス(筆者撮影)

まず、東京メトロ・広報部広報課に代行輸送について尋ねてみた。

――ジェイアールバス関東には、どのように台数・車両のタイプ・事業者等の依頼をしたのか?

ジェイアールバス関東、工事運休エリアの路線バスを運行する東京都交通局等へは、工事運休の2年ほど前から相談した。当社はバス輸送に関する知見が乏しいことから、詳細に関してはジェイアールバス関東と打ち合わせを重ねたうえで、依頼した。

――待機場所に深川運動場を選んだ理由は駅から近く、広大なエリアだから?

地域の方々および関係会社に極力ご迷惑をおかけしないよう、近隣の自社敷地を活用した。

――西葛西駅のロータリーに乗り入れをしなかった理由は既存のバス路線への配慮のためか?

西葛西駅前のロータリーについても列車代行バス発着の候補として検討したが、通常のバス運行の妨げとなってしまうことから、影響の少ない場所を選定した。

交差点の角ごとに案内スタッフを配置

――バス乗り場と、駅を結ぶルートでの人員配置はどうやって行ったか。どのような人の協力があったか?

自治体、警察にもアドバイスをいただきながら、列車代行バスをご利用されるお客様が、安全にバス停と駅の間を移動できるように、交差点の角ごとに案内スタッフを配置した。

――利用者からの反応は?

今回の工事運休については、駅等のポスター、テレビCM、駅でのティッシュ配布等で積極的な事前周知を行い、その結果多くのお客様に認知していただき、他鉄道路線を使ったう回乗車にご協力いただいた。列車代行バス運行を行った経路についても、近隣にお住まい・お勤めの方等のご協力により、大きな混乱やトラブルなく終えることができたことを重ねて感謝申し上げたい。

――今回の輸送計画で苦労された点や、今後の課題など。

代行バスについては可能な限り多くのお客様にご利用いただけるように準備してきたが、 鉄道と比較すると、バスではどうしてもご利用可能な人数に限りがあることから、積極的にはご案内できず、多くのお客様に他鉄道等で迂回いただくようお願いさせていただいたことが、心苦しい限りだった。ご利用のお客様への影響を最小化できるよう、その時の状況を見据えながら今後の輸送計画を立てていきたい。


東京メトロ東西線05系(筆者撮影)

続いて、幹事役を務めたジェイアールバス関東に話を聞いた。

――東京メトロからどのような形で依頼があったのか?

以前よりメトロ企画乗車券でのお付き合いや、東京メトロ主催のイベントにも参加していた中で、列車代行バスの相談があった。

――声をかけた事業者、参加した事業者名や台数などは?

当社と13社局を含めて2日間で266台。お声がけさせていただいたバス会社は東京都交通局、関東バス、京成バス、東武バス、東急バス、京浜急行バス、西武バス、国際興業、京王電鉄バス、東京空港交通、群馬バス、帝産観光バス、西東京バスだ。

――多くの事業者をどのように集めることができたのか?

まずは東京都交通局に相談し、続いて、他路線での共同運行会社や以前よりお付き合いのあるバス会社を個別に訪問し、依頼した。

――車両の誘導や保安員の人数は? どういった人が関わったのか?

当社からは地上対応員として、1日30人で対応した。バスの誘導は1日62人の警備員で対応した。

――今回の輸送計画において苦労した点は?

2024年4月施行のバス乗務員改善基準告示改正の中で対応しなければならず手探りで、集約台数の調整が必要だった。中にはバスの台数確定が4月になったバス会社もあった。

日本の交通ネットワークはすばらしい

鉄道による工事や天候不順が見込まれる計画運休では代行輸送を計画しない事業者も存在するが、東京メトロは東西線運休の影響で利用者の生活リズムを乱してはいけないという気持ちから、バス事業者とタッグを組み、ここまで大規模な輸送計画を実施したのだと思われる。

今回とは大きく違う話になってしまうが、異業種の輸送機関同士が協力しあった事例として、今年の1月2日に発生した羽田空港事故による航空機のダイバート(着地変更)が思い出される。羽田空港に到着予定の航空機が、茨城、成田、伊丹、中部などに着地変更となり、東海道新幹線や京成電鉄、関東鉄道などをはじめとする鉄道やバスが、急遽臨時便を仕立てて、対応した。

緊急時にはすぐに助ける。今回の東京メトロ東西線・代行輸送の件もそうだが、日本の交通ネットワークは非常にすばらしいものがある。交通とは輸送のネットワークが何よりも大切で、その連鎖があってこその事例だと思う。

こういった事業者同士の横のつながりを大切にしていくことこそが、これからの日本の交通に必要な、「絆」なのではないかと感じてならない。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)