13年ぶりに来日したジャッキー・チェン氏(撮影:今祥雄)

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13年ぶりに来日したジャッキー・チェン氏(撮影:今祥雄)

今年は世界の“アクションレジェンド”ジャッキー・チェンが『タイガー・プロジェクト/ドラゴンへの道 序章』で初主演を果たしてから50年という節目の年。

今年の4月には70歳となったが、いまだアクションへの情熱は枯れることなく、新作に挑み続けている。そんな彼の映画人生の集大成ともいうべきアクション超大作『ライド・オン』が全国の劇場で公開中だ。

【写真】「自分には映画しかないと思う」と話したジャッキー・チェン氏。外の撮影ではジャッキーらしい、軽快な動きも披露してくれた(24枚)

本作で彼が演じるのは、自分の分身ともいえる峠を過ぎたベテランのスタントマン。生身のアクションから、CGを使った映像表現へと時代が変化していく中で、それでも自分が信じた道を突き進む役柄は、ジャッキー自身の映画人生とも重なっている。

また劇中には『プロジェクトA』『ポリス・ストーリー/香港国際警察』などをはじめとした、これまでジャッキーが演じてきたたくさんの作品から、数多くのアクションシーンやNGシーンのフッテージが登場。まさにジャッキーがわれわれに示してきた“命懸け”のアクションを、あらためて振り返る機会となる。

13年ぶりに来日したジャッキー・チェン

そんなジャッキーがおよそ13年ぶりに来日。日本のファンへの思いを聞くとともに、ジャッキー映画のトレードマークであるNGシーンについて、そして彼が熱心に取り組んでいる後進の育成などについても話を聞いた。

――昔からジャッキーさんは親日家として知られていますが、今回の来日はジャッキーさんたってのご希望で、スケジュールを調整して実現したものだと聞いています。あらためて日本への思いを聞かせてください。

僕に対するファンの皆さんの気持ちやサポートというのは、40年前と何も変わっていないんですよ。お互いに変わったのは歳をとったということだけ(笑)。ファンの皆さんの心は一度も変わってないと感じています。

おっしゃるとおり、本来はスケジュールの都合で来日することはできないなと思っていました。ちょうど僕はカナダで『ベスト・キッド』の新作の撮影をしていたんです。

でも撮影をしている最中も、日本に行きたいな、という思いが募るばかりでした。とはいえ、遊びに行くわけにはいかないし、仕事で行くなら、当然ファンの皆さんと会う時間をつくりたい。

そこで自分としても、どうやって時間を作ろうかと、いろいろと考えました。それで製作サイドに、香港へ移動するときは時差ぼけになってしまうんで、2〜3日ほど休みをもらえないかと交渉したんです。

でも本当のことを言うと、僕は時差ぼけなんて一切しないタイプなんですけどね(笑)。それで時間をもらうことができたので、日本に来ることができたというわけです。

――それで日本のファンもジャッキーさんにお会いすることができたわけですね。

日本に来たいとずっと思っていたので、ファンの皆さんと再会することができて、本当に嬉しいんです。日本のファンの皆さんには昔から映画を見ていただいたんですよね。


取材中のジャッキー・チェン氏(撮影:今祥雄)

当時はまだ子どもだったという方も多いかと思いますが、そんな彼らが大人になって、結婚して、子どもが生まれて。そしてその子どもがまた大人になってと。だから僕にとって皆さんは単にファンというだけではなく、僕の家族なんですよね。

エンドロールのNGシーンに込めた思い

――ジャッキー映画といえば、エンドロールのNGシーンが代名詞ですが、今回の映画では過去に撮影されたジャッキー映画の数々のNGシーンが登場し、物語を描くうえでもものすごく大きな役割を果たしていました。ジャッキーさんがNGシーンに込めた思いとは?


現在公開中の映画『ライド・オン』のひとコマ。愛馬・チートゥとともに地味な暮らしをしていた香港映画界伝説のスタントマンが、ふたたび危険なスタントに挑戦していくさまを描く。©2023 BEIJING ALIBABA PICTURES CULTURE CO., LTD.,BEIJING HAIRUN PICTURES CO.,LTD.

それは何十年も前の話になります。だいたい映画の撮影が終わった後というのは、編集をするわけなんですが、それは自分でやってきたわけです。

それで編集するときに、いろんな映像の素材を見るわけなんですが、やはりここはNGだな、これはもう失敗だなと思うところが出てくるんです。でもこれはこれで面白いんですよね。

だからこういった場面も観客の皆さんに見せるべきだと思ったんです。何十年も前からこういったNGシーンをエンドクレジットのところに入れて上映するんですけれども、このNGシーンというのが、時には本番のシーンよりも人気があることもあるんですよね(笑)。

よく海外の映画館で映画を見ると、どんな名作であっても、最後のエンドロールがはじまると、みんな席を立っちゃうじゃないですか。でも僕の映画だけは例外。みんな最後まで残ってくれるんです。

「自分には映画しかないと思う」

――スタントマンに敬意を表した今回の映画は、その過去のNGシーンがなければ成り立たなかった映画だと思いますし、そのシーンがあったからこそ、ジャッキーさんがどれだけ命懸けでアクションに挑んできたのか、ということをあらためて感じられて感動的でした。

ありがとうございます。アメリカのスーパーヒーロー映画なんかはNGシーンは絶対にないですよね。いわゆるグリーンバックで人物を撮影して、あとはCGで合成するわけなんで。

もちろんわれわれの映画も、最近はコンピュータの力を借りるということもあるんですが、それでも基本的には全部、本物のアクションをやるわけです。そうした本物のアクションならば、絶対にNGのシーンも出てくる。そうすると自然に、見応えがある映画になるんです。


今年は1979年に日本で初公開となったジャッキー映画、「ドランクモンキー 酔拳」の公開から45年。その後、日本でも空前のジャッキーブームが巻き起こった。(撮影:今祥雄)

――おっしゃるとおり、本作のテーマも"スタントマンの誇り"というものでした。劇中のセリフで「飛ぶのは簡単だが、やめるのは難しい」というものがあり、それはスタントマンの心得のようなところで使われた言葉だと思いますが、それはおそらくジャッキーさんの仕事観だったり人生観にもつながってくるのではないかと思うのですが。

今年はぼくが映画の世界に入ってちょうど63年目という年なんですけれども、映画以外で自分にできることはあるのだろうか? と考えると、きっと自分には映画しかないと思うんです。

ただし映画といってもいろんな仕事がありますよね。たとえば小道具、照明、撮影、メイク、脚本、アクション、監督と、どの部門の仕事でもできると思うんです。だからスクリーンの前に役者として出なくなったとしても、裏方の仕事はおおむね全部できると思います。

それと同時に、実は今、北京にある学校でたくさんの人材を育てているんです。おそらく将来的には、この中から何人かはスターとなっていくでしょう。あるいは才能あふれるアクション監督になる人もいるでしょう。そういう願いを込めて今、一生懸命指導しているところです。

――先ほどのNGシーンなどを見ていると、スタントマンをはじめとしたスタッフの皆さんと和気あいあいと撮影している様子が見てとれます。

実は彼らは全員、ジャッキー・チェン・スタントチーム(以下JCST)に所属する僕の弟子なんですよ。今は10期目なので、全部でおそらく100人以上のメンバーがいるんです。

たとえばこの映画のアクション監督も、JCSTの4期生か5期生だった人ですし、今度の『ベスト・キッド』新作のアクション監督もJCSTが担当しています。

そして(『ライド・オン』)ラリー・ヤン監督とはまた一緒に撮ろうということになっているんですが、そのアクション監督もJCSTの7期生。今、アジアで映画のアクションシーンを撮るとなると、大体このJCSTのメンバーが担当しています。


70歳を超えてなお、軽快な動きを見せるジャッキー・チェン氏。(撮影:今祥雄)

以前はJCSTのメンバーは僕の映画にしか出なかったんですが、今はいろんな映画で活躍しています。たとえば『キングスマン』や『ヘルボーイ』といったハリウッド映画を担当したスタッフもいますし、彼らは世界あちこちで活躍しています。

アクションがないシリアスな作品も挑戦

――本作でも年齢を感じさせないアクションを披露していますが、ジャッキーさんとしては生涯現役への思いはどう考えていますか?

ファンの皆さんならもうおわかりだと思いますが、ここ15年ぐらいは自分のアクションも昔とは変わってきていると思います。だからファンの皆さんに知っておいてもらいたいことがあります。

ジャッキー・チェンは、アクションもできる"俳優"なんです。たとえば『ベスト・キッド』『新宿インシデント』『ザ・フォーリナー/復讐者』といった作品は、アクションにプラスして演技・芝居を見ていただける作品だったと思います。それから今後、まったくアクションのないシリアスな映画も予定されています。

だから今後、ドラマやアクションだけでなく、アクションコメディ、あるいはアクションドラマなど、おそらくいろんなジャッキー・チェン映画をスクリーンで見ていただくことができると思います。

(壬生 智裕 : 映画ライター)