川崎・鬼木監督

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 リーグ18試合を終えて5勝5分け8敗の14位と苦戦を強いられるJ1川崎。4度のJ1制覇を誇るチームは、昨オフにDF登里享平(33)がC大阪へ、DF山根視来(30)が米プロリーグのLAギャラクシーへ移籍するなど、全体で約3分の1の選手が入れ替わった。難しいマネジメントが求められ、持ち前の攻撃的サッカーが影を潜めつつある。鬼木達監督(50)が「期待感は変わらない」と話す中、取り戻すべき“川崎らしさ”とは何か−。

 失望感だけが残った。16日の神戸戦(国立)。スコアは0−1だが内容は完敗。なすすべ無く…ではない。なすすべをなさずに負けた印象だ。

 「アグレッシブに戦わせられなかったのは自分の責任。フロンターレのサッカーを、攻撃的なものを、もっともっと見せたかった」。試合後、鬼木監督はそう振り返った。

 では“川崎らしさ”とは何か−ということだ。確かに2020、21年のJ1連覇の際は、ボールを握り続けた中で圧倒的な強さを見せた。攻撃的サッカーの理想型だったかもしれない。今はその幻影を追っているように映る。

 神戸戦でも6割近いボール保持率だったが、シュート数は神戸の13に対して、わずか3(枠内1)。横に、後ろにパスを回しているだけで、攻撃的サッカーとは言い難い。もちろん神戸の守備も堅かったのだが、ボールを失うことを恐れてか、例えばミドルシュートなどで打開していく意図も希薄に見えた。

 鬼木監督も「大胆に相手の嫌なことをやれたかといえば、そこにはたどり着けなかった。ボールを大事にするところと、相手が嫌がるところのジャッジに頭を研ぎ澄ませてやらないとゴールは生まれない」と話した。

 加えて「もちろん狙った形で取れればいいが、そういうものだけではない。大胆にやることで生まれるゴール、泥くさい形で生まれるゴールはある」とも。“川崎らしさ”とは、まさにそこにあるのではと感じた。

 巧みにパスをつなぐポゼッションサッカーではなく、原点はゴールへ向かう推進力。時にノーガードの打ち合いとなり「川崎劇場」の言葉も生まれるほど大味な試合もあるが、遮二無二ゴールへ向かう姿こそがファン・サポーターを魅了した“川崎らしさ”だろう。

 難しい時代ではある。この数年で守田英正、三笘薫、田中碧、旗手怜央、谷口彰悟らが海外へ旅立った。昨オフは登里、山根の移籍もあり、今季は全体の約3分の1の選手が入れ替わった。チームの強度を保っていくのは至難の業だ。

 それでも、開幕直後には鬼木監督も「人が抜けた時は自分がやらなきゃという意識もある。それをみんなが素直に力に変えているというのは感じる。結果がすぐに出るかは別として、積み上げていけば面白いものを見せられる期待感は非常にある」とチームのポテンシャルを感じていた。それは今も「そこ(期待感)は変わらない」と話す。

 兆しはある。2−1で勝った2日の名古屋戦(等々力)では守備時の前線からのプレス、攻撃への推進力を含めてゴールへ向かう気迫に、見る側も「面白い」と素直に感じることができた。後は谷口や登里ら精神的支柱が去り、それを持続できないことが今のチームの課題なのだろう。

 ただ、名古屋戦の勝利後に「自然と。みんなの頑張りが報われてよかったなと」と涙を見せ、神戸戦の敗戦後にピッチで1人うずくまった主将・脇坂の姿に、他の選手も感じるものはあるはずだ。Jリーグでも唯一無二だった川崎の、本当の意味での攻撃的サッカーを取り戻せるか−。大事な残り20試合となる。(デイリースポーツ・中田康博)