2023−2024シーズンはスペイン3部のラージョ・マハダオンダでプレーした中井。(C)Mutsu FOTOGRAFIA

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 パリ五輪代表の主軸として期待されていた秀英が苦しんでいる。2014年からレアル・マドリーのカンテラ(下部組織)に所属している20歳のMF中井卓大だ。

 2023−2024シーズン、スペイン3部のラージョ・マハダオンダにレンタルされた中井は、しかし18試合(うち先発は5試合)に留まり、得点とアシストはともにゼロだった。チームも3部グループ1で最下位の20位に終わり、4部に降格している。

 3部リーグともなれば、フィジカル的で、ましてや下位チームは守備的な戦術にならざるを得ない。テクニカルなMFが出番を得るには厳しい状況だったのは、想像に難くない。

 名門マドリーのカンテラで激しいサバイバルを勝ち抜き、着実に昇格を果たしてきた順風満帆のキャリアの分岐点となったのが、2022−23シーズン前の決断だ。マドリーに精通したセルヒオ・サントス記者は、サッカーダイジェストWebに寄稿した原稿の中でこう綴っていた。
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「ナカイには2つの選択肢があった。スペイン3部のカスティージャ(Bチーム)に昇格するか、同5部のマドリーCでプレーするかのどちらかだ。ナカイはカンテラの責任者から後者のほうが実力的にマッチすると助言を受けていた。しかし、ナカイはあえて大海に飛び込むのを選んだ。同じ攻撃的なポジションには、自分よりレベルの高い選手がひしめき合い、チャンスが限られることを分かっていながら、カスティージャに昇格することを決断した」

 結局、そのシーズンに中井は2試合でたった5分間しか出場できなかった。同記者はこう続ける。

「ラウール・ゴンサレス監督の戦力構想に入ることができていないのは否定のしようがない。カスティージャは2部昇格を目ざして戦っている。球際やフィジカルの強さを備えていないと通用しないステージであり、その点においてまだまだ対応できていないナカイは居場所を失う結果となった」

 結果論にはなるが、マドリーCで経験を積んだほうが良かったのかもしれない。また、出場機会がないのであれば、シーズン途中で武者修行に出る道もあったはずだ。レベルの高い環境とはいえ、伸び盛りの時期に1年でわずか5分間しかプレーできなかったのは痛恨だった。
 
 同じくスペインでプレーする久保建英(レアル・ソシエダ)はかつて、自分の努力だけではどうにもならないこともあるので、環境を変えるのも大切だと語っていた。FC東京で試合に出られないときは横浜F・マリノスに期限付き移籍をし、ビジャレアルで満足な出場時間が与えられなければ、ヘタフェへ移籍したと。

 中井も、もう半年早く、マドリーの外に出てもよかったのかもしれない。いずれにしても、パリ五輪については、箸にも棒にも掛からない状況となってしまった。
 
 来シーズンはカスティージャでプレーするのか、またレンタルでプレーするのか、完全移籍をするのか、現状では不透明だ。Jリーグでプレーする可能性もなくはないだろう。

 前述のセルヒオ・サントス記者は、試合に出られなくてもひたむきに練習をする中井の姿勢を評価していた。まだ20歳。明るい未来は、これからいくらでも描けるはずだ。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部