Apple Vision ProはApple初のゴーグル型ARデバイスで、目線と手の動きで基本操作が可能な一方で、そのほかの操作も可能にするアクセシビリティ機能も充実しています。自身も極度の弱視という視覚障害を抱えているライターのアンドリュー・リーランド氏が、実際にApple Vision Proのアクセシビリティ機能を使っているユーザーや、Apple本社でアクセシビリティ機能の開発に関わったエンジニアに取材しています。

What Is the Apple Vision Pro? A Lifesaver for Disabled Users

https://nymag.com/intelligencer/article/apple-vision-pro-disabled-users.html

マキシン・コラードさんはカリフォルニア大学サンフランシスコ校で神経科学と医学の博士号課程に在籍する学生です。コラードさんは「眼皮膚白皮症」という遺伝性の難病を抱えており、生まれつき髪や肌の色が白く、視力は矯正不可能なほど低いとのこと。そのため、PCの画面を見るには首をぐっと前に伸ばす必要があり、顔とモニターの距離はいつもわずか2インチ(約5cm)でした。

そんなコラードさんが初めてPCのアクセシビリティに触れたのは、iMacの「拡大鏡」機能だったとのこと。これまで画面にぐっと顔を近づけなければ読めなかった画面が、簡単な操作で好きな倍率に瞬時に拡大できることに、コラードさんはまさに神の啓示ともいえるほどの感動を覚えたそうです。

しかし、Apple Vision Proには視線トラッキングが搭載されており、視線と手で操作できるため、これまでのように首を伸ばしてモニターに顔を近づける必要はなくなったとのこと。また、コラードさんは斜視でもあり、従来の視線トラッキングをうまく操作することができませんでしたが、Apple Vision Proのアクセシビリティ機能にある「片目追跡」をオンにすることで問題なく操作できるようになったそうです。

コラードさんは「Apple Vision Proは使うことで、ついにベンチに足を上げて日光を浴びながらノートPCで作業できるようになりました。もっと正確に言えば、人間工学的に完璧な位置に浮かぶ巨大な4Kスクリーンで作業できるようになり、いつでも好きな場所に位置を変更できるようになりました。アクセシビリティの神への何十年にもわたる祈りがかなったといえます」とコメントしています。



Apple Vision Proには、他にも音声やジョイスティックを用いた操作が可能だったり、任意の音で選択アクションを使用できたり、頭や手首や指でポインタを制御できたり、カラーフィルタを設定したり、補聴器をサポートしていたりと、さまざまなアクセシビリティ機能が搭載されています。

リーランド氏は、Global Accessibility Awareness Dayの一環として開催された社内向けイベントに参加。Apple本社では、「Apple Accessibility Passport」というパンフレットを渡されたとのこと。このパンフレットには点字でラベル付けされたアイコンが立体印刷されており、Appleのアクセシビリティ製品のカテゴリが示されていたそうです。さらに、Apple Vision Pro専用のアイコンも用意されていたことから、AppleにとってもApple Vision Proがアクセシビリティを必要とする人向けのデバイスであると認識されている模様。

Appleでプラットフォーム間のアクセシビリティに取り組むソフトウェアエンジニアのダン・ゴールデン氏は、自身も弱視を抱えており、開発プロセス中に視線トラッキングの使用で問題が生じたと述べています。そこで、視線トラッキングではなく頭の向きで選択を行う「ポインターコントロール」を同僚が開発していることを知り、実際にApple Vision Proにポインターコントロールを搭載してテストを行ったとのこと。



また、リーランド氏は、Appleで視覚アクセシビリティの品質保証テストを担当する全盲のソフトウェアエンジニアであるヨルディン・キャスター氏とビデオ通話で話をしました。キャスター氏はApple Vision Proの画面読み上げ機能であるVoiceOverを使用しているそうです。

キャスター氏は、Apple Vision ProでVoiceOverを使用してバーチャルなハンドパンドラムを演奏するゲームをデモした時の体験について、「目の前のテーブルでドラムを演奏しているかのように、手でドラムを叩いていたのです!アクセシビリティの分野では、今まで経験したことのないような体験でした」と語っています。

そして、リーランド氏はAppleのアクセシビリティ担当責任者であるサラ・ヘリンジャー氏にも取材を行っています。20年以上にわたって、Appleにおける障害者の権利を守る立場で活動しているヘリンジャー氏は「Appleは障害者を含むすべてのユーザーに『驚きと喜び』を提供することを目指しています」と述べています。



取材当時、リーランド氏は、このヘリンジャー氏のコメントを「マーケティングを意識したAppleのお決まりコメント」だと思っていたとのこと。しかし、コラードさんがうれしそうにApple Vision Proを操作しているのを見て、ヘリンジャー氏のコメントは決してきれい事ではないと実感したそうです。

リーランド氏は、ヘリンジャー氏の言う「驚きと喜び」とは、障害者が健常者と同じような体験を享受できるようにすることを意味しており、Apple Vision Proは障害者にとってのアクセシビリティを単なる機能ではなく、継続的に改善していくべき体験の質の問題として捉えるAppleの姿勢を象徴していると述べました。