体操元五輪代表の池谷幸雄さん(4月26日、大阪市北区で)=中原正純撮影

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 1988年ソウル、92年バルセロナと2大会連続で男子体操の五輪メダル獲得に貢献し、アイドル的人気を誇った池谷幸雄さん(53)。

 現在は運営する体操クラブ代表や全日本ジュニア体操クラブ連盟専務理事として、後進の育成にも力を注いでいる。パリ五輪の開幕まで27日で1か月を迎えるにあたり、かつてのエースに話を聞いた。(後藤静華)

 池谷さんは大阪・清風高3年だった88年、チームメートだった西川大輔さん(54)とともに高校生として史上初めて五輪に出場し、団体総合と種目別ゆかで銅メダル。バルセロナ大会でも団体総合で銅、種目別ゆかで銀を手にした。22歳で引退後はタレントを経て指導者に転じ、東京五輪では教え子の村上茉愛さん(27)が女子種目別ゆかで銅メダル。選手、指導者として華々しい功績を残した池谷さんの原点は、高校で過ごした3年間にあるという。

 大阪の名門・清風高は、選手自身が練習メニューを決めるなど自主性を重んじる校風。また、練習時間の多くを基礎固めに充てるのも特徴だった。「例えばあん馬の練習では、天井から吊したバケツに足先を入れて旋回するという練習。小学生がやるようなメニューですが、清風では3年間、ずっと続けます。こうした基礎練習や自己管理の大切さを高校で学んだからこそ、卒業後も燃え尽きるたり腐ったりすることがなかった」

 自身が基本とじっくり向き合ってきたからこそ、近年の体操界には物足りなさも感じているという。技の高難度化が進んだことで、演技の難易度を示すDスコアでの加点を重視する選手が増え、完成度や美しさを示すEスコアを磨くための意識がおろそかになっているように映るからだ。

 主要国際大会では97年に規定演技が廃止に。最近では基礎に取り組むべき小中学生ですら、「技を追い求め過ぎる風潮がある」と言う。「技だけ追求しても世界のトップには勝てない。体操は本来、どの角度で見ても絵になるような美しさでなくてはならない。基礎が欠如しているから汚い体操になってしまっているし、ケガも増えているのではないか」と警鐘を鳴らす。

 あえて苦言を呈するのは、期待の裏返しでもある。男子は昨年の世界選手権団体総合で8年ぶりとなる金メダルに輝き、個人総合2連覇を狙うエースの橋本大輝選手(セントラルスポーツ)も22歳と脂が乗っている。「橋本(大輝)選手は基礎がしっかりと固まっている上に、全種目を器用にこなせる。あん馬と鉄棒でのミスさえなければ、メダルは取れるでしょう。日本らしい美しい体操で『お家芸』だと示してほしい」と願っている。