″人食いバクテリア″の患者数が半年で過去最多に…ダルビッシュの恩師が急死に至った「残酷な最期」

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国立感染症研究所は6月11日、「溶血性レンサ球菌(溶連菌)」が原因で致死率が3割以上といわれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」、いわゆる”人食いバクテリア”の今年の患者数が977人(速報値)となったと発表した。

過去最多だった昨年の患者数が941人だったが、半年で上回ったことになる。専門家は感染の疑いがあれば早期に医療機関を受診するよう呼びかけている。

’22年3月に元日本ハムスカウトの今成泰章(やすあき)氏が「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」で急死し、今年三回忌を迎えた。FRIDAYデジタルでは今成氏の次男で元プロ野球選手の亮太氏に話を聞き、容体が瞬く間に変わっていくこの病気の恐ろしさや父との最期を語ったインタビュー記事を掲載。5月29日に公開した記事を再録する(一部内容を加筆、修正しています)。

「あれだけ血色の良かった父が、わずか2時間で別人みたいになってしまった。最初は指先だけが紫に変色していたのですが、あっという間に手首まで広がった。手はグローブのようにパンパンに腫れていました。やがて足や顔までもが腫れて……。残酷でした」

’22年3月2日、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」(溶連菌)、いわゆる「人食いバクテリア」で急死した日本ハムスカウトの今成泰章(やすあき)氏(享年66)の次男で日本ハム、阪神で捕手として活躍した亮太氏(36)は、名スカウトだった父の最期を静かに振り返った。

泰章氏は駒大時代、捕手として2度の大学日本一に輝いたが、ケガでプロ入りを断念。大学卒業後の’78年、スカウトとして阪神に入団した。平田勝男・一軍ヘッドコーチ(64)や和田豊・二軍監督(61)ら、現在も首脳陣として活躍する有力選手の獲得に貢献し、’03年からは日本ハムのスカウトとして今やメジャーを代表する選手となったダルビッシュ有(37)や大谷翔平(29)らの獲得に尽力した。

ダルビッシュがドラフトで指名される直前の’04年9月、FRIDAYは校内での「喫煙疑惑写真」を掲載。素行の悪さを警戒して、どの球団もドラフト指名に及び腰になる中、日本ハムは泰章氏の眼力によって、単独指名に成功した。

「朝が早い父はある日、3時に起きて東北高校に行ったそうです。するとダルビッシュさんが早朝のグラウンドを一人で走っていた。野球へのひたむきさを知っていた父は『根は悪くない人間だから獲ろう』と球団に進言したそうです」

ダルビッシュも亮太氏に「オレがプロ野球に来られたのは今成さんのおかげだから」と明かしていたという。

エネルギッシュな泰章氏は、亡くなった’22年も通常通り、2月1日の初日から日本ハムの沖縄キャンプに参加。しかし帰宅した20日すぎに異変が起こった。

「埼玉で一人暮らしをしていた父は帰宅後、激しい下痢と嘔吐に襲われたのに病院に行かなかった。10年前に前立腺がんを患った際、余命宣告まで受けたのに完治したから、体力に自信があって、様子を見たのだと思います」

しかし翌朝になっても回復せず、知人に連れられて病院に行くとすぐに集中治療室に移された。微熱が続き、低下した血圧を回復させる懸命な治療が行われた。一時数値は戻ったが、3〜4日すると再び悪化。当時はコロナ禍だったため、家族でも病室に入れる人数は限られた。家族を代表して父の病状を見守り続けた長男・優太氏(38、埼玉県富士見市議)は担当医から厳しい宣告を受けた。

「手足の末端まで血液を通わせる血圧がないので、72時間以内に数値が回復しなければ、切断になるかもしれません」

この時すでに泰章氏は溶連菌に感染しており、手足などの壊死が急速に進んでいた。冒頭の亮太氏の言葉どおり、みるみるうちに容体が悪化。沖縄から帰宅後、わずか10日で天に召された。亮太氏は野球の仕事のため父の最期の瞬間に立ち会えなかったという。

泰章氏が亡くなって三回忌にあたる今年、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者数が昨年を上回る過去最多のペースで増えている。国立感染症研究所によると昨年の国内患者数は941人。今年は5月5日までの感染事例が801件と昨年の患者数に迫っている。

「グローバルヘルスケアクリニック」の水野泰孝院長が泰章氏の命を奪った「人食いバクテリア」の怖さを解説する。

「溶血性レンサ球菌が引き起こす感染症の一種で、とくに重篤な症状を伴うものをそう呼びます。一般的な初期症状は四肢の腫れですが、その前に発熱、悪寒、筋肉痛、下痢などインフルエンザに似た症状が出る場合もあります。病勢が強いため、壊死性筋膜炎を引き起こし、数時間単位で急速に筋肉や皮膚組織を壊死させます。治療が遅れると多臓器不全から死に至る『敗血症性ショック』を起こす。今成さんの事例はこれに相当すると予想されます」

溶連菌は子どもの咽頭炎の原因菌としても知られ、どこにでも存在するが、致死率30%ともいわれる劇症化はなぜ起こるのか。そのメカニズムは解明されていない。水野院長はこう続ける。

「早期に診断し、適切な治療を受ければ救命できる可能性は高い。溶連菌自体は常在菌なので『罹るときは罹る』というスタンスで備えることが重要です。
私は飛沫によって感染し、劇症化した事例はほとんど聞いたことがない。外傷などによる傷口から感染するケースが大半だと考えますので、ケガをしたらすぐに消毒して原因菌の侵入を防ぐことが大切。外傷を負った後、高熱が出たり、傷口から菌が入って腫脹したときは病院で感染した可能性を伝えてほしい。医師も早期に疑うことで、最悪の事態を回避する可能性が高まるからです」

亮太氏はこう振り返る。

「体調が悪くなったあの日、父が病院に行っていたらどうなっていたのだろう、とすごく考えます。感謝の言葉を直接、伝えられなかったことも心残りです」

この無念を、他の人には味わってほしくないと強く願っている――。

『FRIDAY』2024年5月31日号より