【取材不足】「こいつら殺されても仕方ないよな?」暴走する支持者たち…SNSで大絶賛される安芸高田市長・石丸伸二氏「人気の正体」

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いよいよ7月に迫る東京都知事選。すでに立憲民主党の参議院議員である蓮舫氏が名乗りを上げ、現職の小池百合子都知事との一騎打ちになるのではないかとも言われている。

そんな中、中国地方から一人の男が出馬を表明した。広島県安芸高田市の石丸伸二市長だ。旧態依然とした地方議員をことごとく論破する姿が注目を浴び、SNS上では「他の議員たちとIQが違い過ぎる」などと絶賛の声も多い。

主に石丸氏が出演する市の公式YouTubeチャンネルの登録者数は、自治体では最多の約27万人。歯に衣着せぬ発言はXでも健在で、本人の公式アカウントのフォロワー数は今や約40万人にものぼる。

はたしてその「実像」とは--。これまで石丸市長の言動をつぶさにウォッチしてきた取材不足氏が、正体を明らかにする。

異例の市長の誕生

「東京を変えて、日本を変えたいと思います!」

スティーブ・ジョブスばりにヘッドマイクをつけて、こう力強く語って東京都知事選への出馬を宣言したのは、広島県・安芸高田市長(6月9日付けで辞職予定)石丸伸二41歳である。

5月16日、東京ビッグサイトでのイベント『クライマーズ2024』でのことだった。それを伝えた石丸氏のXの閲覧数は約4000万回。恐ろしいまでの人気である。

翌日、石丸氏は広島市で会見を開いて正式に立候補を表明し、「東京の過密を解消して世界一住みやすい町にできる」などの抱負を語り、その様子が各メディアで報じられた。この報道で初めて石丸氏を知った人も多いのではないだろうか。

そもそも石丸伸二とは何者なのか。

安芸高田市は広島県北部に位置する人口2万6000人の小さな自治体である。石丸氏はこの地で生を受けた。京都大学経済学部を卒業後、三菱東京UFJ銀行で経済を分析・予測する専門家として活動。4年半にわたってニューヨークに駐在し、アメリカ大陸の主要9ヵ国を担当した、というのが本人のXでのプロフィールだ。

東京で勤務していた2020年6月、衆議院議員(当時)河井克行による大規模贈賄事件で、安芸高田市長が現金受領を認めて辞職したことを知り、市長への立候補を決意。政治経験はゼロだったが、地元出身、37歳の若きエリートへの期待は大きく、対抗馬の副市長を僅差で破って8月9日に市長の座に着いた。

ここまででも十分に異例の経歴だが、別の意味で異例なのはここからだ。

大立ち回りがSNSで大バズり

石丸氏は市長に就任早々に議会と対立する。発端は、議会中にいびきをかいて居眠り(後に軽い脳梗塞と判明)する議員がいたことだった。石丸氏は、それを注意することをすっ飛ばして、Twitter(当時、現・X)のツイートでいきなり全世界に発信。

あまりのことに議員たちが総出で注意をすると、今度は「議員たちから恫喝された」(詳細はつづく記事『都知事選に出馬表明した安芸高田市・石丸伸二市長は「恫喝裁判」「73万円踏み倒し裁判」で敗訴…!それでもSNSで大絶賛される若きエリートの「実像」』で後述)とこれまた全世界に発信。これを機に議員の大半と対立関係となり、議場で議員たちを罵倒するのが常態となる。当然ながら議員たちとの対話は断絶し、あらゆるところで対立するようになってしまう。

そのうち、それを報じる新聞社に対しても「偏向報道だ!」「社会の公器に相応しくない!」と記者会見の場でやたらときつい言葉を浴びせ始める。石丸氏の目には、自分を肯定する報道以外はすべて偏向報道に見えるようなのだ。本来、市長が質問に答える場であるはずの記者会見で、延々と記者を詰問する様は、もはやギャグとしか思えないのだが、本人は本気である。

ちなみに私の名前は、石丸氏が新聞記者からの質問に対して、いきなり「取材不足です!」と返した場面からとったものだ。

そんな氏の存在が世間に知れ渡ったのは、昨年の8月だった。石丸氏が議員や新聞記者を罵倒する映像がSNSで大バズりしたのだ。

勧善懲悪のテレビドラマよろしく、若きエリート市長が、既得権益の甘い汁を吸う老害議員たちや、それらとズブズブの関係にある腐敗し切ったメディアを完膚なきまでに論破しているかのような動画が、いわゆる切り抜き動画制作者たちによって発信され始めたのだ。これが視聴者の正義感と爽快感を刺激し、その多くが数百万回もの再生回数を記録し、中には1000万回を超えるものもあった。

私が石丸氏を知ったのもこのときであった。明らかに年上の議員や朴訥とした語り口の記者を舌鋒鋭く攻撃する石丸氏を見たときに感じたのは、爽快感どころか、えも言われぬ不快感だった。

切り抜き動画によって作られた「正義の味方」

そうした感情に突き動かされて、本当に石丸氏の言動が正しいのか、議論の内容を検証しようと思い立った。どれだけ不快でも、正しいのなら認めざるを得ない。そうなったら引き下がるだけだ。

だが、結果は驚くべきものだった。

議会の映像をこの目でひとつひとつ確認したところ、石丸氏の発言は、正しいどころかことごとくが支離滅裂だったのだ。論破しているように見えるのは、そのように編集されているからに過ぎなかった。

石丸氏が議員や記者を罵倒する動画を見ると、会話が成立していないことがほとんどだ。意図的なのかどうかは判然としないが、石丸氏は相手の質問を曲解する。相手が言ってもいないことを延々と批判する場面も珍しくない。

こうした状況にもかかわらず「恥を知れ恥を!」「(議員)バッジを外して出て行ってください!」「これが恥の重ね塗りというやつです」「頭が悪い人は具体的な議論のポイントが示せない」「議員の仕事をしてください!」など、啖呵を切るスキルだけは達人なのだから堪らない。

しかし、切り抜き動画制作者たちは、実際には相手の発言とほとんど無関係に発せられている石丸氏のこうした“決め台詞”を、ことさら強調してテロップを入れる。視聴者の多くは、石丸氏があまりにも堂々と自信たっぷりに罵倒するので、まさかそれが頓珍漢なものとは夢にも思わず、検証もせずに心酔してしまう。

動画のコメント欄は「論理的で素晴らしい市長」「安芸高田市の市長にしておくのはもったいない」「議員たちとIQが違い過ぎる」などと絶賛の嵐だ。

礼賛者たちの信じがたい行動

それだけならまだしも、それと対をなすように、編集によって“悪人”あるいは“無知”に仕立て上げられた議員や記者に対し、目を覆いたくなるような誹謗中傷の言葉が投げつけられている。彼らの顔写真はデカデカとサムネイルに使われ、途方もない人権侵害が行われていることは明らかだった。

議員たちの自宅には嫌がらせの電話や着払いの荷物が送られるなどの被害が止まず、後には議員に対して「こいつら生きてる価値あるか?殺されても仕方ないよな?」などと投稿して脅迫罪で逮捕された男まで現れる。

石丸氏礼讃動画の威力と、信者たちの妄信はそれほどまでに凄まじい。

加えて石丸氏は、一般論を語ったり、敵対していない相手との会話では別人のように温和で、まともなことを語っているように見える。特に現状の政治の問題点を語るのは得意なので、それが問題意識の高い人たちの共感を呼び、ある程度名の通ったインフルエンサーたちでさえもが支持を表明している有様だ。

これが「石丸人気の正体」なのである。

こうした状況に自信を持った石丸氏は、とうとう都知事選にまで立候補してしまった。まさにSNSでの切り抜き動画が隆盛の現代だからこそ起こり得た、一大珍事と言えよう。

つづく記事『都知事選に出馬表明した安芸高田市・石丸伸二市長は「恫喝裁判」「73万円踏み倒し裁判」で相次ぎ敗訴…!それでもSNSで大絶賛される若きエリートの「実像」』では、石丸氏が敗訴した2つの訴訟内容を中心に、チグハグな発言の数々を紹介する。

都知事選に出馬表明した安芸高田市・石丸伸二市長は「恫喝裁判」「73万円踏み倒し裁判」で相次ぎ敗訴…!それでもSNSで大絶賛される若きエリートの「実像」