立教大・郄林祐介監督インタビュー前編(全2回)

 かつて箱根駅伝で総合3位の実績がある立教大は、半世紀にもわたり箱根路から遠ざかっていた。だが、「立教箱根駅伝2024」事業を掲げて強化に乗り出すと、2023年の第99回大会では55年ぶりに本大会出場を果たした。

 節目の第100回大会は、予選会の直前に前監督が解任される危機がありながらも、2年連続で出場権を獲得。本大会では前年の18位から14位へと順位を上げた。

 そして、そのチームを今年4月から指揮するのが郄林祐介氏だ。駒澤大でコーチを務めていた郄林氏に、立教大男子駅伝監督に就任するまでのいきさつやチームの印象を聞いた。


今年4月から立教大の男子駅伝監督に就任した郄林祐介氏

【改革が必要...でも、なんか違う?】

ーー直前まで駒澤大でコーチをされていたので、3月に立教大男子駅伝監督に就任されるのが発表された時は驚きました。どういういきさつがあったのでしょうか?

郄林祐介(以下同) 駒澤大へは2年間、研修出向で来ていて、もともと今年3月いっぱいで終わりになるタイミングだったんです。だから、大八木(弘明)総監督からは常々「この2年間で勉強を積んで、どこか違うチームで(指導者を)やりたいんだったら、やりなさい」と言われていました。

 そんな時に立教大が指導者不在になっていて、(駒澤大の)陸上部のほうから「こういう人間(※郄林氏のこと)がいます」という情報を投げていました。

 でも、その後、2月になっても音沙汰がなかった。さすがにもうないかなと思っていたんです。そろそろ次のことを決めなければいけないと思っていたところ、お話をいただいて。いろいろお話を聞かせていただいたうえで決断しました。大学からのリリース(発表)があったのが3月下旬でしたが、その1週間前くらいにすべてが決まりました。

ーー立教大にはどんなイメージがありましたか?

 前監督の上野(裕一郎)さんは学年も近く話す機会もあったのですが、上野さんの持ち味でもあるスピードを活かした選手育成をしているなっていうイメージがありました。

ーーそのスピードという特徴を活かしていくのか、それとも、まったく別のアプローチをしていくのでしょうか?

 僕は駒澤大でコーチをしていたので、駒澤で学んだことがベースになると思っていました。そういう自分の思いや自分がやりたいことをしっかりと入れ込んでいこうと思って、このチームに来たのですが......。

 ただ最初、学生たちにそんなことを話した時に、彼らの反応があまり芳しくなかったんです。大八木さんからは「最初が肝心だ。ガツンと言って改革していかないと」と言われていたのですが、みんなの前で話をしてみたら、なんか違うんです。

 でも、当然ですよね。(前監督が退任して)半年間は学生主体でやってきて、運営の部分も含めて、彼らなりにつくり上げてきたチームができ上がりつつあったわけですから。そんななか、訳のわからないやつが来てまったく違うことを言うんですから、戸惑いがあったと思います。

 一人ひとりと面談をして話を聞いていくと、やっぱり改革が必要であることは感じました。でも、私が引っ張っていくような改革ではなくて、彼らに伴走するような形がいいんだろうなと思ったので、軌道修正をしました。

【抜け落ちていた泥臭い練習】

ーー学生の前では、どんな話をされたのですか?

 彼らが立てた1月から3月の練習を見せてもらったんですけど、ある意味、自分たちがやっていて気持ちいい練習、自分たちがやりたい練習をやっているだけに見えました。じっくり取り組む泥臭い練習が抜け落ちているように思いました。

 スピードを強化するにしても、(体力面含めた)ベースをしっかりつくったうえでなければ、なかなかチーム力は上がってこない。箱根駅伝に2年連続で出て、順位もアップしているけど、「これじゃ強くならないよ」と言いました。

 私は少し前まで大学駅伝三冠とか、箱根駅伝優勝を成し遂げたチームにいたので「ついてきてほしい」的なことを言ったんですけど、うーん......響かなかったですね。

ーーでも、反発があったわけでもなかった。

 いろんな意見はありましたが、彼らとしても、指導者不在で困っていたのは事実です。まずはやってみよう、と思ってくれたのは救いでした。

ーー大学駅伝三冠を目指す駒澤大から、半世紀以上ぶりに箱根駅伝に復活したばかりの立教大に来て、郄林監督自身には戸惑いはありませんでしたか?

 私は、レベルが高い低いって、指導するに当たってそんなに差はないと思っています。結局、その子にとって少し高い目標を設定するわけで、背伸びして頑張ることにあんまり差はありませんから。

 ただ、長距離走は生活習慣が大事な種目なんですよね。そういう部分などで意識の違いには感じるものがありました。

 ある意味、駒澤大は完成されているチームです。私が「こうだ」と言ったことに対して、一つひとつ説明しなくてもよかったのが、立教では「これってどういうことですか?」と聞かれます。

 でも、わからない人からしたら、疑問を持つのは当然ですよね。トヨタ自動車で業務についていた時に、若い社員と接する時にも同じように思ったのですが、そんな当たり前のことにあらためて気づきました。いい加減な言葉でうやむやにしてしまったら、余計に困らせてしまうことになる。

【指導者の"先輩"からもらった言葉】

ーー駒澤大の大八木総監督や藤田敦史監督からはどんな言葉で送り出されたのでしょうか?

 大八木さんからは「どれだけ選手のことを考えて、自分自身が本気になって指導に当たれるかが大事だ。選手は絶対に見ているから。駒澤でやってきたことを猿真似のようにやったとしても、そこに"本気さ"がなければ、うまくいかないぞ」と言われました。

 藤田さんからは「礼節さやいろんな人とのコミュニケーションを大事にしたほうがいい」ということを言われました。藤田さん自身、コーチから監督になって立場が変わった時に、その大変さを実感したからでしょう。

 駒澤大でコーチを務めた2年間は本当にいい経験をさせていただきました。そして、こういう形で送り出していただいたことには感謝しかありません。だからこそ、結果を出すことが恩返しになると思うので、必死でやっています。

ーー監督とコーチとでは全然違う。

 全然違いますね。やっぱり監督は決断しなければならないので。誰しもが経験したことがあると思うんですけど、上の立場の人がなかなか決断しないのって、下の者にはものすごくストレスになります。そういうことはしないようにしたいです。

 そのうえで、決断に対してちゃんとその理由を学生に説明する。そういったことは心がけています。一方でわからない時はわからないとはっきり伝えるようにしています。

ーー駒澤大の合宿や練習に立教大の選手を送り込むということも考えていますか?

 大八木さんからは「来てもいいぞ」と言ってもらっていますし、うちの選手にも「行ってみたいです」と言う子もいるので、いずれはそういうこともあるかもしれません。

 でも、まだ私も監督に就いたばかりで、最初はじっくり選手たちを見たいので、そのあたりは様子を見ながら考えたいです。

後編<「面白い選手はいっぱいいる」 立教大・郄林祐介新監督が目指すシード権獲得、そして「いずれは母校の駒澤大と肩を並べたい」>を読む

【プロフィール】
郄林祐介 たかばやし・ゆうすけ 
1987年、三重県生まれ。自身、強豪の上野工業高(現・伊賀白鳳高)時代には3年連続インターハイに出場し、3年次には1500mで優勝。駒澤大に進学し、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝で7度の区間賞を獲得。2年次には箱根駅伝総合優勝を経験し、4年次は主将を務めた。卒業後はトヨタ自動車入社し、2011年には全日本実業団対抗駅伝で3区区間新記録を樹立し初優勝に貢献。2016年に現役引退。2022年から母校の駒澤大陸上競技部コーチを経て、2024年4月より立教大の体育会陸上競技部男子駅伝監督を務めている。