結婚式が始まると、ますますテンションが上がっていくS。「娘が奇麗だ」と言い続けていたという。

「お酒を飲む勢いは止まりません。娘を見ながら軽く泣いています。Sの妻(以降、N)は、その様子に少しイライラしていました。だんだんSの話す意味がわからなくなり、私は不安になりました」

 結婚式の序盤で、すでにべろんべろんのS。司会者の話は全く聞けていないようだった。乾杯のときにも少しふらつき、意識もぼんやり。完全に目が据わっていた。

「中盤では、椅子に座っていても体は斜めになり力が入っていない様子で……。顔は笑っているのに泣いています」

◆感謝の手紙で泣き崩れる

 真っ直ぐ歩けず、呂律の回らないSに、Nはついにブチギレた。結婚式終盤には、泥酔状態だったそうだ。トドメは、“感謝の手紙”だ。

「表情はぐちゃぐちゃ。意味不明な言葉を叫びながら、一人では立っていられずNにしがみついています。娘が手紙を読んでいる途中で、号泣して崩れ落ちました」

 しかし、周りの人たちは、“感極まった父親”として温かく見てくれていた。娘も意外と嬉しそうだったと振り返る。「花嫁が喜んでくれたのならいいでしょう」と田中さんは締めくくった。

<取材・文/chimi86> 

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。