ブラックホールは宇宙空間に存在する超高密度かつ大質量の天体で、物質どころか光すら脱出できないといわれています。恐るべき存在としてブラックホールを捉えている人も多いはずですが、なんと「この宇宙自体がブラックホールの中にある」という奇妙な説があるとのことで、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが解説しています。

This Black Hole Could be Bigger Than The Universe - YouTube

この宇宙はブラックホールの中にあるのかもしれません。



さらに、この宇宙があるブラックホールがまた別のブラックホールの中にあり、そのブラックホールがさらに大きなブラックホールの中にある……という入れ子構造になっている可能性もあるとのこと。



「ブラックホールは一般的に説明されているよりもはるかに奇妙で、時間と空間を破壊し、その過程で無限の宇宙を生み出す可能性があります」と、Kurzgesagtは説明しています。



宇宙を内包するブラックホールについて考える前に、まずは「空気をブラックホールにする方法」について考えてみます。前提として、この世のあらゆる物質は圧縮するとブラックホールになる可能性があります。



たとえば、地球をコイン大に圧縮すればブラックホールになります。



太陽なら小さな都市くらい。



非常に小さな空間に多くの質量が集中している場合、その物質は超高密度だと見なされます。ブラックホールもそのように超高密度の天体であると説明されますが、実際のところ必ずしも「超高密度であること」はブラックホールに必要な要件ではないとのこと。



詳しい数学的な説明を抜きにして言えば、「ブラックホールが大きくなるほど密度は低くなる」とのことで、本当に大きなブラックホールはある意味で「薄い」のだとKurzgesagtは述べています。



たとえば、太陽質量のブラックホールは幅が約6kmで、1立方メートルあたりの質量はヒマラヤ山脈に相当します。



一方、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールは太陽約400万個分の質量を持ち、直径は約2400万km。



しかし、1立方メートルあたりの質量はシロナガスクジラ6等分と、太陽質量のブラックホールよりも密度が低くなっています。



さらに、太陽38億個分の質量を持つ超大質量ブラックホールの「IRAS 20100-4156」は太陽系と同じくらいの幅がありますが、その密度は空気と同じくらい。



理論的に言えば、巨大な風船に空気を詰めて膨らませていくと、太陽系と同じ達した瞬間に突然「事象の地平面」が形成されて超大質量ブラックホールに変わることを意味します。



続いて、宇宙全体に存在する質量について考えてみます。地球から見える宇宙は半径約450億光年の球体であり、数千億の銀河や大量のガス、その他の物質で満たされています。



これらを合計すると、太陽約1𥝱(じょ)個分の質量があるとのこと。



これは非常に大きな質量に思えますが、宇宙は広大なため平均すればそれほど密度は高くありません。すべての銀河や星、ガス、エネルギーを分解して宇宙の体積内に均等に広げると、平均密度は1立方メートルあたり水素原子5個程度になります。



観測可能な宇宙と同じ大きさの風船を1立方メートルあたり水素原子5個に相当する「宇宙の空気」で満たすと、ブラックホールを作成することができるとのこと。実際には、このブラックホールは観測可能な宇宙の約10倍もの大きさになるそうです。



つまり、この宇宙は「巨大なブラックホールの中にある」と考えることができると、Kurzgesagtは説明しています。



しかし、この説は「この宇宙がどんどん膨張している」という事実を見落としています。膨張する宇宙はブラックホールの中に存在できないため、この説は成立しません。



この裏には、ブラックホールと宇宙に関する「ワイルドで気が遠くなるようなトリック」があるとのこと。



一般に、ブラックホールは重力場が無限大となる「特異点」と呼ばれる場所があり、そこを中心にすべての質量が集中しているものだと考えられています。しかし、実際のブラックホールはもっと奇妙なものだとKurzgesagtは指摘。



外からは、ブラックホールは黒い球のように見えています。



しかし、その中では空間と時間の役割が入れ替わった奇妙な状態になっています。通常の球体内では、空間が有限であり時間が永遠に続きます。しかし、ブラックホールの内部では空間が永遠に続いて時間が有限になっているとのこと。



ブラックホールの中では一方向へ延々と歩き続けることも、別の方向に歩いたのに同じ場所にたどり着くこともできます。しかし、ブラックホール内部の時間は有限であり、次第に空間そのものが変化していきます。



ブラックホール内部の宇宙全体が圧迫され、スパゲッティのように変化していき、最終的には宇宙全体が崩壊するそうです。



そして、この崩壊した宇宙のあらゆる部分が特異点に変わるとのこと。つまり、ブラックホールの特異点とは特定の場所に存在するものではなく、ブラックホール内部にあるすべてのものの「未来」にあるのだと、Kurzgesagtは説明しています。



特異点に至るとブラックホール内部のすべてのものは無限に小さな領域に押しつぶされます。このシナリオは、宇宙終焉(しゅうえん)のシナリオのひとつである「ビッグクランチ」に似ています。



ビッグクランチとは、ビッグバンによって生まれた宇宙がいずれ膨張から収縮に転じ、すべての物質と時空が特異点に収束するという考えです。



しかし、ビッグクランチが発生するのであれば、「ビッグバウンス」が発生する可能性もあります。押しつぶしたゴムボールが勢いよく元の形に戻ろうとするのと同じように、ビッグクランチによって特異点に到達した後に、ビッグバウンスによってブラックホール内部に新しい宇宙が誕生する可能性があるとのこと。



このシナリオの面白い点は、ブラックホールの外側から見た状態は何も変わっておらず、相変わらず黒い球体にすぎないという点です。この宇宙がブラックホール内部のビッグクランチとビッグバウンスを経て誕生し、今でも宇宙全体がブラックホールの中にいる可能性もあるとKurzgesagtは述べています。



また、この宇宙を内包するブラックホールが存在する宇宙が、また別のブラックホールの内部にあるというシナリオも考えられます。さらに、その宇宙が別のブラックホールの中に……という「ブラックホールと宇宙の無限の入れ子構造」になっている可能性もあるとのこと。



さらにKurzgesagtは、宇宙がブラックホールを形成し、その内部にさらにブラックホールがあるという状況は、「自己複製する宇宙が自然選択された結果」であるかもしれないと主張しています。



ビッグバンは混沌(こんとん)に満ちたイベントであり、発生する宇宙はそれぞれ微妙に異なっている可能性があります。従って、ブラックホールがたくさん形成される宇宙がある一方で、ブラックホールやその形成に必要な銀河やガスが形成されない宇宙もあると考えられます。



しかし、すべての宇宙がブラックホール内部で誕生している場合、長期的に見れば「ブラックホールを形成しないすべての宇宙」が消滅することになります。その結果、大量のブラックホールを作る条件を備えた宇宙が一般的となり、増えていく可能性があるとのこと。



この宇宙には膨大な数のブラックホールが存在していますが、それは「ブラックホールの形成に有利な宇宙が自然選択された結果」かもしれないとKurzgesagtは述べています。



ブラックホールの形成には銀河やガス、星が必要であるため、ブラックホールの形成に最適化された宇宙はこれらの物質も形成しやすいといえます。



これらの物質は生命の発生条件にも関わっています。つまり、ブラックホールの形成に最適化された宇宙は、生命の誕生にも適している可能性があるというわけです。



あくまで今回の説はすべて理論的なものであり、実際にこの宇宙がブラックホール内部に存在するのか、宇宙はブラックホールを形成するように最適化されてきたのかといった疑問を検証することはできません。



しかしKurzgesagtは、「これほど大きなアイデアが考えられる宇宙に私たちが生きているということは、本当に素晴らしいことではないでしょうか?」と述べました。