関東インカレ男子2部5000mで、留学生を破って優勝した鶴川正也

【強さが光った関東インカレ】

 大学長距離界も新年度を迎えてはや2カ月が経とうとするなか、関東インカレ(5月9〜12日)を終えて各大学の陣容が少しずつ見えてきた。

 関東地区の多くの学生ランナーが前半戦の大きな目標としているのが、関東インカレだ。今年の大会で最も活躍が目立ったのは、年明けの箱根駅伝を制した青山学院大だった。

 関東インカレの男子は1部と2部の入れ替え制(3部は大学院)で、短距離走やフィールド種目も合わせた総合得点で競う。だが、こと長距離種目に限っていえば、2部に箱根駅伝の常連校も多く、1部に負けず劣らずハイレベルな戦いが繰り広げられる。

 青学大は2部校だが、2部には昨年度駅伝二冠の駒澤大やロードシーズンを席巻した國學院大、近年勢いのある創価大、箱根シード校の常連の帝京大といった強豪校がいる。

 2部では駒澤大が、少し元気がなかった一方で、創価大と國學院大も勢いを感じさせた。だが、それ以上に青学大の強さが光った。

 初日の10000mでは、箱根駅伝2区区間賞の黒田朝日(3年)が27分52秒02の自己記録で日本人トップの3位。

 最終日は、ハーフマラソンで箱根3区区間賞の太田蒼生(4年)が日本人トップの2位に入り、5000mでは過去2年日本人トップの鶴川正也(4年)が、4年目にして留学生を破り頂点に立った。

 その他、1500mでは、惜しくも連覇を逃したものの、箱根で優勝のフィニッシュテープをきった宇田川瞬矢(3年)が2位に入った。ハーフマラソンでは、箱根8区区間賞の塩出翔太(3年)も6位入賞を果たしている。また、3000m障害は、三大駅伝未出場の本間創(2年)が4位に入る健闘を見せた。

 5000mで高校歴代2位の記録をもつ注目のルーキー・折田壮太は、5000m予選で接触があった影響で決勝を欠場したが、長距離各種目できっちりと上位に入りライバル校を圧倒した。

【一気にギアを上げたエース】

 大会初日の10000mでチームを一気に勢いづけたのが黒田だ。

 黒田といえば、3000m障害で実績があり、高校時代には当時の高校歴代2位の好記録をマークしている。

 青学大に入学してからも関東インカレでは1年時3位、2年時2位と過去2大会で表彰台に上がっていた。ところが、今年は得意の3000m障害を回避した。

「サンショー(3000m障害)は今年でひと区切りしようと思っている。10000mや5000mが学生としてメインで戦っていくところだと思うので、そっちのほうでしっかりチャレンジしていきたい」というのがその理由。青学大のエースとして10000mに挑んだ。

 レースは気象条件にも恵まれ、序盤からハイペースになったが、「タイムは全然意識していなくて、順位を意識して走っていました」と、黒田は上位に位置を取った。

「優勝を狙っていましたが、やっぱり留学生の選手は速かった」と振り返るように、中盤から独走したデイビッド・シュンゲヤネイヤイ(麗澤大3年)と、終盤にペースアップしたスティーブン・ムチーニ(創価大2年)には届かなかった。

 それでも留学生の上位独占を阻み、ともに留学生のハイペースに食らいついた山中博生(帝京大4年)を振りきって、日本人トップの3位に入った。

 記録も27分52秒02の自己新記録を打ち立てて、トップ選手の証とされる27分台ランナーの仲間入りを果たした。大学駅伝界で圧倒的な存在感を誇る青学大だが、意外にも現役大学生の27分台ランナーは黒田が初めてとなった。

 今年の箱根駅伝のあとも決して悪くはないパフォーマンスを見せていたが、駅伝ファンからすれば、箱根2区区間賞獲得者としてはいささか物足りなくも映っていただろう。だが、ここに来て一気にギアを上げてきた。

 レース後、黒田はこんな言葉を口にしていた。

「青学として狙っていくところは、三大駅伝の優勝。チームの目標に向かって、しっかり駅伝で結果を出していくことを目標にやっていきたい。青学は駅伝で勝つチームなので、学生のうちは青学の流れに乗ってやっていきたいと思っています」

 駒澤大のように世界へ羽ばたくために個の強化に力を注ぐチームもあるが、それとは対照的なのが青学大のスタンスだ。それが、黒田の言葉に見え隠れしていた。もちろん個の力を伸ばしていくことに変わりはないが、その視線の先にははっきりと駅伝での勝利がある。

【箱根優勝の立役者が復帰へ】

「(黒田が)いい記録を出したので、チーム全体にすごい刺激になったと思います」

 こう話すのはハーフマラソンに出場した太田だ。

 太田は今年の箱根駅伝では3区で爆走。日本人歴代最高記録を打ち立てて駒澤大を逆転し、総合優勝の立役者となった。

 だが、その後は左の腰をケガし、予定していた別府大分毎日マラソンを欠場するなど戦線から離れていた。4月の上海ハーフマラソン(8位)で復帰すると、今大会には「(箱根駅伝があった)1月2日を100とするなら、8割くらい」まで状態を戻してレースに臨んだ。

 まだまだ復帰の途上ながら、レースの主導権を握っていたのが太田だった。ラスト5kmでペースアップを図ると、8人いた先頭集団は太田、カマウ・パトリック(上武大3年)、高山豪起(國學院大3年)の3人に絞られた。さらに、残り2kmで再び仕掛けて、高山を振りきった。

 結局、パトリックとの一騎打ちには敗れて、「優勝を狙っていたので悔しい」と太田は口にしたが、順調に力を取り戻しつつあることを示した。また、「課題を見つけたいと思っていたので、ラストスパートの部分で課題が残ったことは収穫になりました」と言い、敗戦をさらなるレベルアップの糧にするつもりだ。

「まずは(状態を)戻して、自分が最高のパフォーマンスできる状態で練習をしっかり積んでいけば、もうひとつレベルを上げられると思います」

 今年の箱根駅伝よりも大きな衝撃を、今秋以降は見せてくれるかもしれない。不敵な発言にはそんな予感があった。

【ついに頂点に立ったキーマン】

 そして、今季の青学大の最大のキーマンとなりそうなのが鶴川だ。

 高校時代には全国高校駅伝の1区で区間賞を獲得している実力者。いわば、この世代の"ドラ1"選手だ。ところが、大学に入学してからは関東インカレでは2年時、3年時と2年連続で日本人トップになる活躍を見せながらも、駅伝ではなかなか出番がなかった。

 昨年度の出雲駅伝でようやくアンカーを任されたが、区間7位と力を発揮できなかった。さらに、その後に大腿骨を疲労骨折し、箱根駅伝は走ることができなかった。

「自分が走って勝たせたいという思いがあって、箱根駅伝で(チームが)勝ったのはうれしかったんですけど、9.9割は悔しかった」と、チームの勝利も素直に喜ぶことができなかったという。

 それだけにラストイヤーにかける思いは大きい。その思いの強さは関東インカレでも見せた。過去2大会は日本人トップでも、「一瞬のキレ、ラスト100mの負けない走りが自分の武器なのに、これまでその力を発揮できず、関東インカレでは悔しい結果で終わっていました」と言うように、3位という結果には満足していなかった。

 今回もダンカン・マイナ(専修大1年)、ブライアン・キプトゥー・ブシューアキットゥ(麗澤大1年)といった留学生とのラストスパート対決になった。

「風が強いなと思ったので、ラスト1周(400m)で出たら最後は(脚を)動かせないと感じたので、ラスト200m以降、自分のスピードで戦おうと思いました」

 こう冷静に判断した鶴川は、先に仕掛けたマイナをラスト100mでかわし、先頭でフィニッシュした。

 悲願の優勝にも「喜ぶのは今日だけ」と鶴川は言う。

「青学大に入ったのは、箱根駅伝で活躍したい、優勝に貢献したいという気持ちがあったから。ケガにも気をつけながら、明日からは来年の1月2日、3日の箱根駅伝に向けてトレーニングしていきたい」

 ラストイヤーに箱根駅伝を走ってチームの優勝に貢献するために、自らの手綱を締め直していた。

 1週間前の日本選手権10000mや日本グランプリシリーズなどに出場した強豪選手の一部が関東インカレを回避していたが、青学大は主力選手がきっちりと結果を残し、いい流れで新シーズンに突入している。

 さらに、注目のルーキー・折田ら新戦力も強力で、ますます盤石な態勢を築くことができそうだ。

 今シーズンも始まったばかり。もちろん現段階で今季の駅伝シーズンを占うのは早計だ。また、ライバル校もこのまま黙ってはいないはずだ。それでも、この関東インカレでは、まずは青学大が一歩抜きん出た印象を残した。